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迷宮白書  作者: 深海 蒼
第1 便所ワープの章
78/94

78話


 光の迷宮の探索を始めてから6回目、累計ニ週間の日数を経過した所で、拳児達はいよいよ何かが起こるステージに到着する事が出来た。石壁の通路を抜けた先に巨大なホール、ギルドの訓練所のような広い場所へと到着した。拳児達は全員で円陣を組み前後左右の敵を警戒してその広い空間に入ると、拳児達が通ってきたルートはすぐに下からせり上がった石壁で塞がれた。その様子を見て綾子が警戒心を露わに呟く。


「出口を塞がれたわね、一か八か石壁を攻撃してみる?」

「それは最終手段で。まずは様子を見ましょう」


 綾子の言葉に恵も警戒しながらだが落ちついて応答する。全員で一塊となって全方向を警戒しつつ広場の真ん中へと少しずつ移動していくと、空気の流れと音を素早く察知したニアが首を上げて叫ぶ。


「上!!」

「了解!!」


 ニアの言葉に応じて全員で上空を警戒し魔法陣を展開するが、それは思ったようなモノでは無かった。上方から壁際にストトトと軽快な音を立てて広場の壁際に降ってきたのは、薄いミラーコーティングされた板だ。実際軽いのだろうその板が壁を隙間無く埋めて、円形の鏡張りのホールが出来上がった。その様子にしばし困惑した拳児達だが、ヘンな動作はまだ終わらない。何だか「ウイーン」という機械じみた胡散臭い音を立てながら吹き抜けのようになっていた天井がどんどんと下がってきて、それに付随して色んな動作が発生する。四方にあるのはスポットライト、天井の真ん中にはミラーボール。そして天井から吊るされた檻に、細身のロボットじみた槍を持つ鏡面磨きのゴーレムと、巨大なハンマーを持った巨漢の、これまた鏡面磨きのゴーレムが現れた。


「なんじゃこりゃ」

「ちょっと悪趣味すぎない?」


 ミラーボールとゴーレムの出現に拳児が呆れ、フランがその嗜好を悪趣味と捉える。キラッキラのロボットは昔からある程度日本ではありがちだが、現実に眼の前に現れると流石に趣味を疑ってしまうモノとなっていた。天井から吊るされたその檻が地面にドスンと音を立てて着地すると、天井が完全に固定され、四方のスポットライトが青や黄色の光を放ち、ミラーボールがそれを跳ね返して回転を始めた。


「なん、ですか、これ」

「意味分からない、なにこれ」


 急に色のついた光が周囲を回転し跳ね返るという異様な光景に、レテスとマリエルが口をあんぐりと開けてカタコトになりながら呟く。その様子を見た恵も、ため息を吐きながら呟く。


「こういうの付いてるカラオケルームもあるわよね、パーティー用の」

「あるある。卒業式の打ち上げとかで大きな部屋借りるとこういうミラーボールとか照明のある部屋に通されたわ」

「それにしても趣味悪いわ!」


 恵の呟きに綾子も同意を示したが、やはり現状の異様な光景に異議を唱えたいフランが大声で趣味の悪さに突っ込む。そんな目がチカチカする環境の中で、ゴーレム達を囲っていた檻がバキンと金属音を立てながら開き、中から槍を持った細身のゴーレム、ハンマーを持った巨漢のゴーレムがその獲物を確認しながら拳児達に向かってゆっくりと進んでくる。天井の真ん中に吊るされたミラーボールは絶賛回転中で反射された色んな色の光がゴーレム達にも当たり乱反射を起こしていた。


「すっげぇ視界が悪い!色んな色で目がチカチカする!!」

「こんな目つぶし方法もあるんだ……」


 空間のあまりの視界の悪さに拳児が文句を言いニアが若干感心を込めて呟く。光を直接当てるよりも四方八方に散らせる事で視線と意識を集中させないという割と怖い運用をされている現在の状況の中、ゴーレム達が早速といった感じで飛び出した。細身のゴーレムはその見た目通りの軽快な動きで前に飛び出し正面に居る拳児に向かって槍を突き出す。それを見て取った拳児も自身の棍を使い突き出される全ての槍の攻撃へ対応する。ガキンと大きな金属音を立てながら互いの間で火花が散る。武器に魔力も相応に込められた一品で拳児とゴーレムが打ち合っている所で、巨漢のゴーレムがドスンドスンと大きな足音を立てながら巨大なハンマーを振りかぶり前衛に居た恵に向かって振り下ろす。


「避けて!」


 恵の声に応じて前衛を努めていた恵とフランがハンマーを避けて飛び下がると、ハンマーは盛大な音を立てて地面へとめり込んだ。振動が足元から伝わってきた事にマリエルが軽く目を見開く。


「こんなの受けたら潰れちゃうわね、間違いなく」

「遠距離攻撃なら、どうかな!?」


 マリエルの真っ当な呟きにニアが光の矢に宝玉の力で強烈な風を纏わせて撃ち放つと、ゴーレムの鏡面磨きの胴体を軽く傷つけて光が散る。その様子を見て2射、3射と続けて打ち込むが、通っているのは衝撃だけのようで光の矢は刺さりはしなかった。


「ダメか、仕方ない」


 3射続けての失敗にニアは軽く残念な様子を見せてから自身の荷物袋に手を突っ込み、中から通常の木材で出来た矢の入った矢筒を背負い、そこから一本矢を抜き取って風を纏わせ撃ち放つ。その矢は風と同様に高速で回転しながらゴーレムに到達し、ギャリンという甲高い音を立ててゴーレムの胴体に傷を入れ、折れて地面に落下した。その様子に手応えを感じたニアがまた連続で矢を放つ傍で、レテスとマリエルも魔法を行使し、尖らせた岩を形成して高速で回転するよう調整を行いゴーレムに放つ。真っ当に衝撃と傷を与える事が出来たその攻撃によって、マリエル達の行動は定まった。


「地味だけどこのままいくわ!」

「了解!」


 マリエルの宣言に恵とフランが一息で巨漢ゴーレムの前に飛び出して武器で突きを行う。それぞれレイピアと槍という刺突に相性の良い武器な為ゴーレムの表面を削る事は出来ており、鏡のような胴体に傷を与え、刺突の衝撃もゴーレムに与えた事でゴーレムが後方に一瞬揺らぐ。しかしゴーレムはそのままハンマーを再び振りかぶり大きく振り下ろす事でフランと恵は飛び跳ねて後方に下がり、その隙をマリエルとレテス、ニアによる射撃で補った。その連携は上手に機能しており、巨漢ゴーレムはフラン達によって行動が制限され、細身のゴーレムの方へ掛けつける事は出来そうに無かった。その様子を見て瞬時に判断した綾子が走り、槍と棍で激しい攻防を行っている細身のゴーレムの背後に移動し、大きく振り上げた棍に魔力を込めて盛大に細身のゴーレムの頭へと振り下ろす。背後の気配に少し遅れて気付いたゴーレムが頭を傾げた事でゴーレムの肩に棍が当たる事になったが、その衝撃はゴーレムの動きを止めるのに十分な役割を果たし、動きの止まったゴーレムに対し拳児が渾身の突きを棍で叩きつけ、細身のゴーレムは更に膝を着いた。


「連携!」

「おう!」


 言葉少なく綾子と拳児は声を合わせてお互いに棍をゴーレムの前後から突き、打ち払い、殴る。拳児達の激しい攻撃に晒されたゴーレムは大きく槍を振るって距離を取ろうとしたが拳児達はそれを許さず、しかして近づきすぎず棍での攻撃の適切な間合いでお互いゴーレムを挟んで上から下から攻撃を浴びせていく。するとゴーレムは前方に槍を構え魔法でグルグルと激しく回転させたが、それは拳児の攻撃だけを防ぐ結果にしかならず、背後から迫る綾子の激しい棍の打ち払いと突きによりその重たいはずの身体を横に揺るがせて横倒しになった。その隙を見落とさずに拳児は飛び上がり棍を逆手に持ち、落下速度を風の魔法で加速させて叫ぶ。


「これで終われやぁ!」


 裂帛の声と共に激しい金属音が鳴り、細身のゴーレムの胴体は見事に拳児の棍に貫かれ、ゴーレムはその稼働を止めた。その様子を見て軽く肩を回してから、拳児と綾子は無言で笑みを浮かべて頷き、そのままお互い棍を構えて巨漢ゴーレムを背後から強襲する。


「せいやっ!」


 綾子の気迫の声にゴーレムが振り返ろうとするが、それより先に正面から鋭い岩石が飛び込んできた事でゴーレムは顔面を守るように腕で庇い岩石の直撃を避けた所で、綾子の棍の鋭い打ち払いにより背後からの衝撃をモロに受けてしまう。綾子によって衝撃を受けたゴーレムはその挙動を著しく低下させ、動きを鈍らせていた。


「かったい!デカいと硬いのは仕方ないけど硬いなぁ!!」

「ゴーレムだから、ねっ!」


 綾子が思わず叫んだ苦情に恵も応じながら槍を横薙ぎに払いゴーレムの胴体に強く打ち付ける。ガインと相変わらず鈍い音を出すゴーレムの胴体だが確実にダメージは入っており、ビシリという鈍い音が軽く響いた。その音を確認したマリエルとレテスは一瞬でアイコンタクトを行い二人でゴーレムの正面に踊りだし、両手で巨大な魔法陣を作成する。強大な魔力を注ぎ込まれた魔法陣から、二人の言葉と同時に魔法が放たれた。


『ロックハンマー!!』


 速度と回転を限界まで上げた巨大な岩が魔法陣から2つ飛び出し、ニ発がきっちり巨漢ゴーレムの胴体に着弾する。衝撃と轟音、まるで爆発したような盛大な音の中、とんでもない衝撃を受けた巨漢ゴーレムの胴体は見事にひび割れ、足から折れて地面へと倒れ伏した。その様子を見ても迂闊に動く事はせず全員で警戒を解かずに近づいたが、やがてゴーレムがピクリとも動かない事を確認し、全員では~っ、と大きなため息を吐いた。


「マジ、ゴーレムの相手するの本当にめんどい。硬いし生物じゃないし目潰しとかそういうの通じないんだもん」

「ダンジョンで可能な限り遭遇したくないモンスターよね」


 ため息まじりに拳児が言うと、フランが同意を示してウンウンと深く頷く。その様子に普段の軽い雰囲気が戻ってきた事を全員が実感し始めた所で、天井を明るく照らしていたミラーボールがその回転速度を緩め、ゆっくりと降下してくる。天井から吊るされていた状態からゆるゆると緩慢な動きで降下してきて、一番背の高い拳児が自ら天井に手を伸ばしてミラーボールに触れると、そこを収まりやすいと思ったのかミラーボールが自発的に着地し、拳児がその重さを感じた所で、音を立ててミラーボールが真っ二つに割れた。


『パンパカパーンッ!!』

「やかましいわっ!!」


 割れたと同時にもはやわざとらしさすら感じる宴会ノリの効果音に、拳児は思わずミラーボールを地面に勢い良く叩きつけるのだった。

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