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迷宮白書  作者: 深海 蒼
36/37

36話


 恵とフランと拳児達が合流して2日、ここまでに連日簡単な科学と数学の公式等魔法とかに応用可能な知識について共有を行いつつ、拳児達はとうとう20階層という洞窟エリアの終端へと到達した。転移してすぐ目の前にある大きな岩石製の中央開きの扉を前に、拳児達は自分達の最終確認を行う。


「ポーションよし、塗り薬よし、包帯よし」

「それってなにか意味あるの?」

「指差し確認は重要なんだよ、これをするだけで事故が激減するから」

「そういうものなのね」


 一つ一つ指差しして自分の腰回りにポーション等があるか点検している恵にマリエルが尋ねると、そんな職人気質な返事が返ってくる。実際指差し確認でヒヤリハットが防げるのは事実なので、やらないより余程マシで、気合の入る儀式的な物として有用であった。マリエル達も釣られて自分の腰回りの荷物をチェックして全て確認を終え、マリエルが口を開く。


「20階層のボスはゴブリンキングが基本で、その他リーダーゴブリンやホブゴブリン等が居るはず、そうよね?」

「はい、確かに通常はその通りです。極稀にレッドキャップという赤い帽子をしたゴブリンが出てくるそうですが、本当に極稀なので気にしなくて良いかと」

「いや多分出てくるから教えてください」


 マリエルの問いにレテスが自身のギルド員としての知識を元に同意しながら軽くレアな敵の事を話すが、拳児が真剣な声で詳細を求める声が挙がる。その様子にレテスは苦笑を浮かべてから頷いた。


「レッドキャップは残忍で狡猾、素早い動きと短剣術で相手を翻弄して殺すと言われています。5匹程度は出てくるらしいですが、他のゴブリンとは一線を画す強さらしく、ゴブリンキング自体よりも強いとか」

「なるほど、これは出てくるわね」

「出てくるな間違いなく。こういうのをフランは外した事が無いから」


 レテスの語ったレッドキャップ像を聞いてフランと拳児は頷いて覚悟を決める。その様子にフランのトラブルメーカーとしての力はそれ程なのか、と呆れつつマリエルが先頭に立って岩石の扉の谷間に両手を添え、軽く魔力を流してから呟いた。


「さぁ、ここを開きなさい」


 マリエルが言うと共にゴゴゴ……と岩石が左右に動き隙間が開く。その隙間に全員で進んでいき軽く周囲を警戒しながらも前方を確認しながら進んでいくと、そこにはゴブリンの集団が確かに居た。通常のゴブリンは30匹程度にゴブリンリーダー、ホブゴブリンは10匹、そして拳児とほぼ背丈の変わらない、190cm程度のでっぷりとした腹をしているのに巨大な蛮刀を肩に担いでいるのがゴブリンキングだった。そしてそのゴブリンキングの周囲に居る、赤い帽子を被ったゴブリンが10匹は居て、その様子に拳児とフランがため息を吐く。


「本当にさ、なんで毎度毎度予想を凌駕しちゃうの?予想より倍居るんだけど?」

「毎度の事だから知らないわよ、あんたも一緒だからかもね」

「不運とズッ友なのもラクじゃねぇなぁ」


 拳児とフランが軽口を叩いている所にマリエルが告げる。


「それじゃ作戦通り、派手な一発ブチかましたら拳児とフラン、恵で近接戦闘。わたし達は後方から攻撃と援護で行くわよ」

「了解、やっちゃって!」


 マリエルの指示に従い拳児達が獲物を構え告げると、マリエルが両手を前に突き出して巨大な一つの魔法陣を形成した。その魔法陣は魔力が供給される程の輝きを増し、回転が激しくなる。それに合わせてマリエルが口を開いた。


「今ここに顕現するは破壊の火、舞踊の炎。舞い踊りなさい、フレイムトルネード!!」


 マリエルの宣言と共に魔法陣が輝き、瞬間ゴブリンの集団の中央に巨大な火柱が出現、渦を巻いて風を吸い込み始めた。錐揉みながら吸い込まれて炎に焼かれていくゴブリン達を確認し、5秒ほどで炎の竜巻は消失する。そこには一般的なゴブリンは生きておらず、ホブゴブリンが5匹だけ立っていて、その手には既に燃え尽きた木の欠片があった。どうやら円陣を組んでゴブリンキングとレッドキャップを守ったようで、ホブゴブリンの中央に居るレッドキャップとゴブリンキングは外見上はほぼ無傷であった。その様子にマリエルは笑みを浮かべ呟く。


「ハッ、雑魚を犠牲にして王を守ったのね、素晴らしい忠誠心だわ。それじゃ、次こそ消し炭にするわよっ!!」


 マリエルがそう叫びながら再び魔法陣を展開すると、すぐにレッドキャップ達がゴブリンの集団から抜け出して襲いかかってくる。事前に伝えられていた通りの俊敏さで拳児達へと迫りくる所で、拳児とフラン、恵が前に出てすぐレッドキャップ達に躍りかかる。レッドキャップの持つ短剣と棍、レイピア、槍の金属音がキンキンと鳴りながら激しい応酬が始まった。


「ゴブリンと比べたら速いな、ゴブリンと比べたらだけどな!」

「学校で学んだ対人戦が生かされているのは良い事なのか悪い事なのか」


 レッドキャップ複数体との攻防に拳児が言うと傍らで両手槍を振り回す恵が拳児に同意する。自分達に指導してくれた人々の方が遥かに素早い相手だった為、多少の人数差があってもどうにでもなる状況であった。

 レッドキャップ達近接戦闘員の応酬が始まったと同時にニアとマリエル、レテスは支援射撃を行う状況を作り出し、光の矢と氷の棘、尖った石を射出して横からレッドキャップに魔法を当てていく。マリエル達の魔法が当たればレッドキャップは倒せるし、それを避けられても拳児とフラン、恵の誰かが体勢を崩したレッドキャップを正確に仕留める。そうしたチームワークを主体としてレッドキャップを3体倒した所で、ゴブリンキングが盛大な咆哮を放った。


「ゴガアアアアッ!!」

「おっしゃ来いやぁ木偶の坊がぁ!!」


 破裂したかのようなゴブリンキングの咆哮に拳児も絶叫で返し、蛮刀を大振りで突進してくるゴブリンキングに対し瞬間的に生体エネルギーの活性化を行い一瞬で距離を縮め、力の限り棍を振り下ろされた蛮刀に叩きつける。ガキィンと激しい音と共に蛮刀と棍が弾かれてお互い体勢が崩れた所に、ゴブリンキングは無理やり体勢を立て直して再度蛮刀を拳児に振り下ろそうとしたが、その前に拳児が弾かれた勢いをそのままに身体を回転させ、左足に円運動の全てを込めてゴブリンキングの腹に思い切りぶち当てた。


「オラァッ!!」

「ブゴォッ!!」


 ドゴン、と生物が出したとは思えない鈍い音を出しながらゴブリンキングが地面と水平になって吹き飛ばされる。2メートル近い巨体が吹き飛ぶインパクトは抜群で、ゴブリンキングと拳児の動向を伺っていたレッドキャップ達の行動が一瞬停止していた。その隙にフランと恵が自身の肉体に魔法陣を起動し、身体にスパークが起こり風を纏い、雷撃の如く二人でレッドキャップ達を蹂躙し始めた。


『ヴォルテクス・ドライブ!!』


 風雷魔法と呼ばれる稲妻と大嵐の組み合わされた攻防一体の攻撃魔法を用いてレッドキャップ達を次々と仕留め、二人の包囲網から抜け出せたレッドキャップにはニアとマリエル、レテスが射撃で打倒していく。


「追い込み漁みたいに矢が当たるなぁ」

「やはり風を付与すると威力も相当のようですね」

「そうだね、素早い敵や硬い敵以外だと過剰火力になる感じかな」


 シュパシュパと軽快な音を立てながら次々と風に包まれた光の矢を射出して言うニアに、レテスが苦笑しながら問いかける。派手に引っ掻き回された戦況で既に相手は瓦解しており、壊滅まで時間の問題だが、それでもニアやレテスが魔法と弓矢で射撃するだけでどんどんレッドキャップが死んでいく。その状況を確認しながら、マリエルが視線を左右させた。


「拳児は?」

「あっちですね」


 マリエルの問いにレテスが指差して方向を示すと、そこには稲妻に身を包んだ拳児が空中から雷光となり倒れたゴブリンキングを棍で貫く所であった。


「ヴォルテクス・ランサー!!」


 魔法と生体エネルギーの瞬間活性化によって破壊力を増した棍の空中突きにより贅肉で覆われていた太いゴブリンキングの首がゴキリと音を立てて砕け、首を貫いて地面へと棍が突き立った。そうしてゴブリンキングの息の根が止まった所でフランと恵の蹂躙も終わり、残ったのはゴブリン軍団の物言わぬ死体のみとなる。その結果を見てフゥ、とマリエルが額の汗を手の甲で拭いながら笑顔で声を張り上げた。


「はい、じゃ、完全勝利!!ダンジョン20層攻略おめでとー!!」

『わーいっ!』


 マリエルの歓声にニア達も一緒になって喜びながら、ゴブリンの死骸から魔石や角などを取得していく。ホブゴブリンが持っていた棍棒のようなものやレッドキャップの短剣、ゴブリンキングの蛮刀も回収しながらせっせこ全員で魔石を回収し終えた所で、それまでも然程暗くなかった室内に、一条の光が差し込まれ、そこに転送装置が床下からせり上がってきた。


「おお、特殊演出」

「何と言うか、人を惹き付ける為の機能がありつつも、生半可な覚悟の奴は殺すみたいな意思を感じるのよね」

「高難易度の死にゲーってやつだねぇ」


 転送装置がせり上がってきた事に対し拳児が喜ぶとフランがダンジョンの意図を察し、恵がウンウンと同意を示す。簡単に攻略はさせないけど、恩恵もバカでかいといったリスクとリターンの概念を感じるダンジョンに謎を深めるが、とりあえず20階の攻略が完了したという事で、全員で転移装置へと乗り込んだ。乗り込んだ転移装置の行先欄に新たな階層「選択の間」が追加されているのを確認しながら、マリエルが全員に向けて言う。


「とりあえず、一旦戻るわよ。20階層以降の探索は明後日からって事で」

「それでいいよ」

「よし、じゃあ帰還!!」


 マリエルの言葉に拳児が同意を示すと同時にマリエルが帰還を選択し、全員で冒険者の聖堂へと戻って来る。周囲の雰囲気が弛緩した事を確認し、パーティーメンバー全員が、顔を見合わせながら達成感を抱えつつ、ギルドカウンターへと向かうのだった。

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