92 本日、幸運にも無事に不時着【墜落】しました。
「お、親方ッ、あれッ! 空から!?」
おいらは、上を見上げながら思わずと云った感で声を上げた。
それも仕方が無いことだろう。
有り得ない光景が目に入ってきたのだから……。
「なんだ? 娘っ子でも降ってきたのか?」
師事している親方が、寝ぼけた事を言っている。
「はァ~?! 空から女の子が降ってくるわけないでしょう?
昨夜の酒でも残ってるんですか? それに、それは普通は『落ちてる』っていうんですよ! そんな事よりも、空から船が来る!」
「はん?……おまえ、疲れてるのか? 少し休んだ方がいいぞ。
空から船が来るわけない……だ……ろ?! ウォ?! 本当に船が浮かんでる?!」
弟子としている小僧が戯言を言っているが、最近の好景気で激務が続いている。
そのため少々どころか、かなりの負担を掛けているという自覚はあった。
とうとう幻覚まで見てしまうまでに、追い込んでしまった様だ……。
これは休みを取らせなければなるまい……と、自責の念に捕らわれながらも、一体なにを見て騒いでいるのかと視線を上げると、船が浮いているという在り得ざる光景が目に入ってきたのだった。
「だから言っているじゃないですか!?」
「なんで浮いて……。
ん? 山の方に向かって……、なにかおかしいぞ?
見えていない……のか?
おい……、拙いんじゃないか!? あの方向だと、山嶺に入っちまうぞ?!」
周囲の街衆も異変に気が付いたのか、各々で空を見上げたり指さしたりと、騒ぎ始めた。
カァ――ン! カァ――ン! カァ――ン!
カァ――ン! カァ――ン! カァ――ン!
時を置かずして鐘が鳴り響く。
無論のこと、定時の時報ではない。
異変を報せる警鐘が高らかに鳴り始めたのだ。
続いて、ライフィン山嶺の見張り台に篝火が大規模に燈り始めた。
さして時を置かずに、最近配備された探照灯の煌きが空を照らすのが遠目にも見える。
地表面の変化に上空の船も気が付いたのか、減速しつつあるのが遠目にも観えた。
次いで浮船は高度を落としていくが、それ故に視界が開けたのか、漸くライフィン山嶺の中腹に近づいていたのに気が付いたようだ。
舵を急速に切り旋回しつつあるが……、間に合うのか?
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《 Side : 流離う艦船団 》
理解しがたい上に、表現しようも無い怪現象で、この地まで飛ばされてきた。
……そう『この地』だ。 信じられない事だが、あの大洋を渡り切った事になる。
恐るべき『ぺッ!』である。
海岸線をその眼下に収めた際には、各艦で歓声が捲き起こったほどである。
食糧と飲料が、心もとなくなり始めていたのもその一因ではある。
あのまま当て所なく【あてどなく】、何処までも洋上を飛び続け、食糧と飲料が尽きるともなれば、待ち受けるのは確実な破局しかない。
空に上がっているので、自給自足という訳にもいかないからだ。
加えて各艦も、大なり小なりの損傷を抱えている。
何らかの故障なりで浮遊力を喪失すれば、洋上に墜落する事は必至。
早期の大規模な整備と補修が待ち望まれていたが、滞空・浮遊状態では望めない。
やはり損傷したままでの飛行と云うのは、それなりに心理的負担が強い。
そして、なにより艦船の性質上どうしても閉鎖空間である上に狭い。
各種の精神的負荷の度合いが強くなるのも、隠せざる事実であった。
このような各種の複合的要因からも、早期に陸地へと辿り着く事が待ち望まれていたのだ。
一方で、怪異に再び遭遇する事への隠せざる恐れがあったのも、また事実。
さすがに再び呑み込まれて『ぺッ!』されるという稀有な経験は繰り返したくはない。
――『ヒトは大地を離れては、長く生きていけない』――とは、まさに至言に値し、また此度ほど実感する体験は、そうは無いと云える。
それ故か、その大地が我らにとっては『未知の大地』であるにもかかわらず、不用意に着陸してしまうという大失態を演じてしまったのだ。
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海岸線を越えて眼下に広がる大地に歓喜しながらも、着陸できる地を探して遊弋をしていく。
着陸できる地の候補としては、艦船団の数が数だけに、それなりの広さが必要。
加えて整備・補修のために、安全で出来る限り平坦な地が候補となる。
また安全が確認され食料と飲料の獲得が容易な地となれば、その地が移住先となる。
そしてその地に移住ともなれば、移民船は解体されて開拓資材へと供されることになるのだ。当然ながら、解体されれば二度と空を駆けることは出来ない。
そのため、慎重にも慎重を期して決断しなければならない。
皆が皆、この『迷えるという悩み』、言い換えれば贅沢な悩みに歓喜したのだ。
内陸部に浅く入りながらも、探索のために分遣隊が編成され散っていく。
本隊は現地点で滞空し、待機する事になった。
海岸線の際は、橋頭保としては危険と判断したためだ。
海から魔獣なりの襲撃も考えられたからだ。
また水の確保や食料の安定供給も考えれば、長くは海岸線に留まる選択肢はなかったのだ。
本格的な探索とは言えないが故に、結果が直ぐに集まり始める。
どうやら周囲一帯は無人地帯であるようだった。
これをどう捉えるべきか?
ここまでヒトの生息域が拡がっていない未開地域なのか?
はたまた、危険地帯と認識されて開拓が進んでいないのか?
好都合と云えば好都合ではあるが、後者の場合は『どの程度の危険地帯なのか』に因る。
正直、艦船団の武装度ならば、たいていの脅威は一蹴できそうな気がするのだ。
加えて高所を占位するという事は、想像以上に優位に働くはずだ。
ましてや、我らは浮遊できる艦船を有しているのだ。
この戦術的優位は想像を絶するだろう。
……そんな自信を抱いていた自分達を一喝したい事態が、起こったのだ。
「『白い森? を発見した』と念話で伝えて来ました」
「白い森? 雪でも積もっているのか?」
「さして離れていないのに、雪が積もっている森林ですか? 下は青々とした森ですよ?」
「『魚の様なモノが地を遊弋している』だと? なんだ?」
「魚の様なモノですよ」
「黒いモノが絨毯の様に蠢いているだと?」
「スライムか?」
「どうやら違うようです」
「じゃ、なんだ?」
「黒いなにかです」
「岩塊が浮いているだと? 酔っているのか?」
「事実、浮いているそうです」
理解出来るような理解できない様な報せが集まってくるが、分析しようにも未知なるモノをそう簡単に分析できるはずもない。
―― 解らないモノを狭量な知識で解るように分類しても、それは物事の本質を歪めて自分達が理解できるように都合よく分類しているに過ぎない。 したがって『解らないモノ』は『解らないモノ』として分類するのが基本となる――
と言った旨を私が艦橋部にいた皆に伝えたところ、全艦船に同文のまま通達されてしまった。
そしてこの方針の基に、分遣隊が派遣されていく。
その結果が、この面妖にして奇々怪々なる『未知なる現象』の報せの数々である。
なんにせよ、どうやら私達の想像の遥か上を征く未知の地である事は、確かなようである……。
かくして未知の地での『未知なる現象』を慎重かつ大胆に、そして精緻に分析した結果、当該事象は『未知なる現象』として分類される事になったのである。
ヒトはこれを『徒労に終わった……』とか『なにも解からなかった』と意気消沈するかもしれない。
だが、私としては『解からないと云う事が判った』という重要な成果があったのだ! と強弁せざるを得ない。
ここでの士気の低下は、諦観に結び付く。そして諦観は容易に虚無へと結びつく。
虚無の途に入り込めばヒトは、自暴自棄から極端な結果に飛びつきかねない。
理想の灯火を掲げて、現実を歩むには希望の光を見せねばならない。
そこで、数々の面妖にして奇々怪々なる現象のなかで、最も穏当そうな『白い森』へと向かう事にしたのだ。
『森ならば食料と木材の調達も容易なのでは?』と安易に考えたのも、また事実。
それが『あんな獰猛な森』だったとは……、想像の埒外だったと云える。
『未知なる現象』を相手にする際は、慎重の上にも慎重を期さねばならないのは至極当然であるのにもかかわらず、己等の力量を過信してしまったのだ。
誤算に誤算を重ねた結果は、眼を覆いたくなるような大失態となり、手痛い教訓となって我らに返って来た。
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艦船団で飛翔し、件の『白い森』付近へと至った我らは、離れた場所に着陸し、より詳しく『白い森』を調査すべく、其の際で様子を伺っていく。
離れた場所が選ばれたのは、勿論『白い森』の危険性を考慮してである。
未知の『白い森』から何が飛び出してくるか予想が出来ない以上、安全を優先するのは当然の事なのだ。
当初は、白い事を除けば何の変哲もない森だと思っていた。
だが近づけば近づくほどに、異様さが際立ってくる。
先ず生命の気配が全くと言ってよいほどに、皆無なのである。
そして驚きの白さを誇る樹もまた異様であった。
先ずもって、樹とは言えない様相である。簡単に云えば結晶のような様態といえるだろう。 便宜上、『結晶樹』と名付けたのだが、この『結晶樹』は上へと延びる速度が尋常ではない。そして上へと伸び切ったかと思えば倒壊して砕け散り、その破片から芽が生えるという生態のようであった。
そして更なる異様さを垣間見る切っ掛けとなったのが、この『結晶樹』がいわゆる普通の森林地帯に到達した時である。
一言で云って『侵襲』と言ってよいだろう。
倒れた『結晶樹』の破片が突き刺さった樹々が、あれよという間に枯死し朽ちたのだ。それのみならず目につく動植物の全てが『結晶樹』の破片に『侵襲・侵蝕』されて絶えたのだ。
この事に気が付いたのは僥倖の一言であった。
大型の熊らしき動物が白く結晶化して、割れた残骸を発見したからだ。
このような獰猛な性質を持つ植物は、観た事が無い。
そもそも植物なのかさえ判然としない。
そこで採取し研究するという暴挙に出てしまった。
この地に植民するにも、植生やらの知見は必要だという主張が成されたからだ。
今にして思えば、迂闊の一言であった。
そして技師と学者が、慎重に『結晶樹』の破片を容器に入れて厳重に保管する事になったのだ。
なんにせよ、このような危険地帯に長居は無用である事は言うまでもない。
簡単な整備を終えて、艦船団は大地より離陸し飛翔へと移る。
その際、幾隻かの艦船の船底の装甲が僅かに白くなっている事に気が付かなかったのだ。
移動の道中、報告のあった黒く蠢くモノを眼下に捉えた。
ある艦が高度を落として観察しようとするも、この黒く蠢くモノはその形を変えて空へとその触手を伸ばしてきた。
彼我の距離が縮まったことでその全容が判ったのだが、この『黒く蠢くモノ』は巨大な蟻の集団であった。其れも軍隊蟻に相当する蟻だ。
数と大きさは、規格外であるのだが……。
我らは、巨大生物の地帯に踏み込んでしまったのか?
もしくは、我らが微細な大きさに縮んでしまったのか?
其れとも、これが普通の世の常なのか……。
大自然の厳しさの一端を垣間見る思いであった。
因みに『大自然の厳しさ』を味わったのは、軍隊蟻の集団も同じであった。
船底に張り付いていた『結晶樹の破片』が舞い散り、軍隊蟻の集団に降着したのだ。そして苛烈なまでの『侵襲・侵蝕』を開始したのである。
双方が喰って喰われてを繰り返す地獄絵図が現出するが、それはまた別のお噺であろう。
高度を上げて河沿いに翔ぶ事、更に五日。
補給と整備のため、開けた場所に着陸する。
そして一夜明けたその日の朝、五隻の艦船が白く覆われ結晶化していたのだ。
その周囲には逃げようしたのか、乗員達が砕け散っていた……。
事の重大性に気が付いた私達は、火を以って焼き尽くす事を決意し、砕け散った同輩たちを見送った。
火が効く事を看破した我らは、悲しみに暮れつつも、残存艦船を入念に検査していく事になる。都合七日間に渡り細部に渡って入念に検査し白いモノは全て焼き尽くしていく。この際、身の回り品の白いモノ、皿や調度品、肌着迄まで焼いたのでご婦人方は悲嘆に暮れていたが、致し方ない。
大抵の事は『未知の大地ゆえの緊急避難的処置』で罷り通りそうだな……とも考えたが、これでは『あの唾棄すべき執政官と同じではないかッ!?』と考えを改めていく。危険な兆候がある事を自認し、焦燥感に囚われる。
出来得る限り早く、安住の地を探さねばならない。
そして再び離陸し大空に舞い上がるが、その際この着陸地点に『白い汚物を消毒するには、火焔だーー~~!』とばかりに焼夷弾を投下し最後の後始末をする。
延焼を防ぐため二日ほど留まったのち、同輩たちを葬った地に別れを告げて安住の地を求めて翔ぶのだった。
着陸しては離陸し、離陸しては着陸しを繰り返す。
食料と飲料をこまめに調達するも、心休まる事が無い。
なにせ巨大な蜂やら、やたらと好戦的な動物やら、獰猛な植物やらと一揃いなのだ。 皆がウンザリしながらも、相当な距離を移動している。
本来であれば、多少の危険を冒してでも長く休息をとるべきなのだが、一度腰を据えると恐らく二度と動けなくなるだろう。
怨嗟の声を抑え、叱咤してでも移動を選択していく。
『ここは危険だッ!』と私の本能が囁くのだ。
ほどなく大湖を見つけるが着陸はせず、その畔の上空で待機し、近隣の地勢を調査すべく分遣隊を派遣する事に決した。
現状といえば、良く云えば『艦船団を分ける』、悪く云えば『離反』も視野に入るほどに、士気の低下が著しい。
……もはや此処が限界かも知れない。
此れ以上の旅は、私の単なる『自己満足に等しいのではないか』もしくは『無い物強請り【ないものねだり】』なのではないかと、己の抱く信条を危惧する。
理想を夢見るあまりに上ばかりを見て歩き、その末に躓く【つまづく】ともなれば、私を信じ、朧げな望みに付き合わっってくれた者達の行く末に影が差す。
だからこそ、私は最後の最後に、調査のための分遣隊を派遣したのだ。
もしかしたら、『出来得る限りの事はしたんだ』と私自身を納得させるための派遣だったかもしれない。
そして己を納得させるために、私も総旗艦のカルーアから分遣隊旗艦を務める名だたる幸運艦トリアゾアに移乗し探索に出る事にしたのだ。
航行するにつれ、徐々に視界が悪くなる。
余りの視界不良ぶりに航行速度を半速に落とし高度も下げていく。
慎重に進んではいるが私の心情を表わしているかのように、相も変わらず視界は晴れなかった。
なにせ視界に入るは、白い靄と霧のみ。
このままでは空間失調を引き起こしかねない。
さらに高度を落としていく。
気鬱な雰囲気を払うべく熱い茶を求める。
程無くして茶を持ってきた者から受け取った。
意識を覚醒させるこの熱さが今は心地よい。
幾度か喉を潤しながら、変わり映えのしない景色を何の注意も払わずに、ただボンヤリと眺めていた。
ボンヤリと全景を捉えていたの功を奏したのだろうか、眼の端に光を捉える事が出来たッ!
ポロッ……。ガチャ、カラン……。
手からカップが零れ落ち、私の足元に転がる。
「つばさよ、あっ、熱ィいい!」
『翼よッ! あれが導きの光だ!』と言い掛けるが、熱い茶を溢してしまい、手に掛かってしまった。
折角の決め台詞を心ならずとも中断せざるを得ない。
誰だ、こんな熱い茶を求めたのは?!
奇声を上げる私を側仕えや艦橋部員が、『遂に疲労から精神的変調を迎えてしまったか……』とでも言いたげな憐れみを伴った眼で私を観ていた。
そんな事はどうでもいい!
良くはないけど、この際はどうでも良いッ!
それよりも、光を見失ってはならない!
「光だッ! おお、翼よッ! あれこそ導きの光だッ!」
私の歓声に釣られて、皆が同じ方向を見やり、そして歓喜の大歓声が捲き起こった。僚艦にも地表に光が在る事を伝えられていく。僚艦でも同じく大歓声が捲き起こった。否が応でも期待のみが膨れ上がる。
そんな各艦では、地上の灯りを確認すべく更に高度を落としていくのだが、其処で漸く山岳地帯に侵入している事に気が付いたのだった。
『雲を抜けたら、其処は山峰の只中!』なのだから心穏やかでは居られない。
殊にトリアゾアは先行していたため、山肌に急接近していた。
それどころか、もはや眼前に山肌が迫っていたのだ。
焦るどころか、死線のど真ん中に放り込まれ、それどころか其処から転げ落ちる寸前の状態と言って過言ではなかった。
「機関全速後進、急速上昇! 全力転舵、取り舵【左転舵】!
回避! つかまれぇぇ!」
私は怒号に近い咆哮の様な声で命令を発する。
だがこの際、誰が命令を発したかなど、其れこそどうでも良い。
誰もが同じ事を考えていたからだ。
それをいち早く『明確に声に出して発した』のが、たまたま私だったという違いしかない。
ギ、ギィィイイ~~。ミリ、ミリィ……。
船体が応力で軋む音が艦内を木霊する。魂の軋みと言ってよい。
身体が押さえつけられるほどの急速上昇と、艦体が傾斜するほどの急速転舵。
間に合えェェエエ~~! 再び同じ事を誰もが考える。
ゴオオォォ~~……。
ガリリッ!
眼下を岩肌が通り過ぎるが、完全に回避できずに船底をこすった異音が聞こえ、続いて衝撃が伝わる。
ダメかァーーッ! 誰もが同じ焦燥感に囚われた。
「まだだ、まだ終わらん! トリアゾアの幸運の翼は、まだ翔ぼうとしている!
トリアゾアを、信じろ!」
私は衝撃から体勢を立て直し、全ての伝声管を開いて艦内の乗員に向けて叱咤激励を飛ばしていく。
損傷を受けながらも水平飛行に移ったトリアゾアであったが、艦内ではまた別種の緊迫感溢れる応答が轟いていた。
「六番気嚢隔壁に損傷! 気嚢圧急速に低下!」
「造念材が漏出! および船底接触面付近で火災発生!」
「――トイレが損傷! 一時貯留槽に亀裂!」
深刻な損傷の報告が一斉に上がり始める。
「緊急閉鎖! それと消火!」
何と何処を緊急閉鎖するかなど議論の余地はない。
だがトイレを後回しにしたツケは、後日大きくなって返って来たが、それは別の話である。
ビィィィイイイイッ――!
なんにせよ、またもや聞きなれた、そして本来は聞きたくはない警報が艦内に鳴り響く。
「七番及び八番も気嚢圧が低下! 艦体が傾斜しつつあります!」
「三番から五番の圧力弁を開放しろ!」
「火災が延焼しています! 法弾庫に不燃剤の注入を開始しました!」
鳴り響く警報と轟く損傷の報告を受けながら、私は光の元を探るように目を凝らしていく。
「街だッ!」
急速に距離が狭まる光景を視界に収めながら、別の危惧を抱く。
……飛び越せるか?!
街に突っ込む訳にはいかない。なんとしても其れだけは避けなければッ!
「機関室、なんとか出力だけでも維持しろ!」
私の意を汲んだのか、艦長が的確な指示を出してくれている。
艦体構造に歪みが出ているのだろう。
機関出力が上がるにつれて、艦体が微振動をしている。
そんな微振動を感じつつも、街を飛び越えるのが観えた!
「よし、越えたぞ!
あとは、やる【不時着する】しかない!
全隔壁を閉鎖しろ!
操舵手、無事に着陸【不時着】させてみろ! お前の腕が頼りだ!」
「……了解。やってやりますよ、期待して下さい!」
この場面で無理ですとは言えず、威勢よく応えていく。
だが内心、此処まで来れば腕の問題じゃない。最早、運任せだとも考えていた。
其れでも、期待に応えなければならない。
ならば、自分にやれる事だけは、きっちりとやり通すと腹をくくった。
「出来得る限り、艦軸を保ちながら水平に進入します。
接地の数瞬まえに艦首を上げるので、それを機に機関を停止させます!
後は祈っていてください!」
急速に大地が迫って来る。
「地表面を確認。現在の進入角および進路を維持」
「機関室、機関停止の準備」
「艦の傾斜を補正中。艦軸を維持」
静まり返った艦橋に操舵手の声だけが響いていた。
「総員、耐衝撃姿勢を採れ!」
迫りくる大地を観ながら、艦長が指示を出す。
「五・四・三【艦首上げ】」
「機関、緊急停止!」
「二・一・接地!」
ドゴォ――~~ンン!
形容しがたい衝撃と爆音が鳴り響くも、艦の乗員達はそれどころではない。
艦は船底を大地に盛大に擦りながら、土煙と火花を盛大に撒き散らしているのだ。
振動に耐えるために身体を固定しているので、碌に対応が出来ない。
もはや艦の構造を信じて待つしかない。
不時着の衝撃に耐えられなければ、分解し炎上するしかない。
乗員達も放り出されるか、炎に捲かれて助からないだろう。
従って、乗員達はいま自分が出来る事に専念している。
「「「止まれェェエエ――ッッ!!!」」」
それは文字通りに懸命な祈りであった。
お読み頂きありがとうございました。




