表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/82

80 深く静かに、にじり寄る 其の二

 《 ガザニア傭兵連合国 とある傭兵団長 》



 如月殿との会談も好感触に終わり、夜が明ければ買収同意の覚書を取り交わす。

 おそらくは三日を経ずして最終合意に達し、契約書などに俺と如月殿が署名して買収が完了するだろう。

 これで各種の滞っている支払いも一括清算されることになる。まぁ……、お騒がせしたので、その支払いにも少しばかり色を付けて増額されるのは致し方ない。

 新たな傭兵団の運営でも、物資類の購入は必要になるからな。暫くは掛け売り【後払い】無しの現金払いになるだろうが、それは致し方ない。

 それに遅滞した給金も、ようやく支払える。此れにも詫び賃を些少なりとも上乗せするのが道義だろう。

 経営が傾いて団から離れた者達も少数いるが、その者達には俺が身銭で支払っているので、問題になる事はない。 また離れた者達に別段の感情を抱く事も無い。当たり前だが各々にも生活があるのだ。逆に言えば、生きていけないような給金しか払えなかったり、給与の遅配など本来は有ってはならないのだ。

 団を離れると言った者等に『申し訳なさげな表情』をさせてしまった俺の不徳が、身に沁みる。

 そんな奴等に給金を払わねばならない事から、俺も売れる物は全て売り払っているのだ。あの剣は確かに良い逸品だったが『買い戻す』よりも、まずは残った者の厚志に報いたいのだ。


 なんにせよ、『状況が好転した』といえる状態へと変じた事に、まずは安堵する。

 祝杯を挙げたい気分になり、手酌で酒を飲みながら会談の内容を思い出していく。

 そんな浮かれ気分で杯が進んで夜を迎えて、俺は自室の床に横たわり寝ていた。


 寝具はすでになく雑魚寝の状態だが、それ故に寝心地が殊の外に悪い。

 其れも一因なのだろうが、夢に魘【うな】されていた。


「ぐッ……。むゥ~ん……。ゥ、うう……うわァ――ッ!」

 床から跳ね起きるが、息が乱れ汗が頬を伝う。

 既に夜半を廻っているようだ。

 乱れた息を整えるべく大きく息を吸うが、体が僅かに震える。

 これは夜の冷えた冷気のせいか、はたまた夢見の悪さ故か……、判然としない。


 それにしても、なんて夢だ……。くそ、思い出しちまった!

 ベルザル領域での戦を見てからというもの、幾度か悪夢に魘【うな】される。

 しかも見る夢は各々違うが、どこか底の部分が似通っているのだ。

 要は、まだ覚えているって事なのだろうな……。


 ついでに、あの人のことまで思い出しちまったじゃねェか。

 今じゃ、その貌も朧気だがその言葉は今でも覚えている……、不思議なもんだな……。


 ・

 ・

 ・


 俺にも、傭兵稼業に就く際の『始めの振り出し』は勿論ある。

 当たり前だが、生まれた時から傭兵ってわけじゃない。


 まぁ、なんだ……、俺もご多聞にもれず、戦働きで『身を立て名を挙げよう』と自ら戦の場にその身を投じたその他大勢の内の一人だったわけよ……。

 まぁ、カッコよく言えば志願ってことだが、実態は其れしか道が無いってのが実情だ。 これで志願という言葉が適切かと問われれば、正直微妙な所ではあるな……。

 なんにせよ、農家の三男という立場で変わる事も無い、どうすることも出来ない『停滞する現実』に追いつかれ燻ぶっていた俺は、手っ取り早く立身するべく村の近くまで来ていた傭兵団を見つけて入団を志願したわけだ。 


 右も左もわからない俺は、幸先よく真面そうなその傭兵団に採用され、初期訓練の後は見よう見まねで動き、地を這い、走り抜け、死にそうに目に幾度も遭いながら、なんとか初陣を生き残った。

 参戦したその戦には勝ったのだが、その傭兵団は期待していた『乱取り』を決して許さなかったのだ。


 チッ……、ハズレの傭兵団か。 

 真面そうなんじゃなく、要領の悪い湿気【しけ】た傭兵団なんぞに入っちまった。 

 こんな湿気た傭兵団なんぞは、さっさと抜けて美味しい『乱取り【略奪・人攫い】』が出来る傭兵団に、入り直すかと考え始めていた。

 死にそうに目に幾度も遭ったってのに、乱取りが出来なきゃ、俺の立志伝も始まらねェ事になるからな。 だからこそ、欝憤が堪って荒れた口調で、同じ新兵仲間と話していたのだろう。


「増援が来るわけでもないのに、ここを死守してなんになるよ? 

 挙句に全滅するなんて馬鹿のすることだぜ? そう思うだろう、お前ら! 

 ぎゃはは――グッ? ゲハ!? な、なん――」


 突然、胸元を掴まれたかと思うと地面に強かに打ち付けられ押し付けられる。

 全く身動きが取れない上に、仲間たちは殺気に当てられたのか微動だにしない。

 その殺気をまき散らしている此の傭兵団を率いる団長を、ただ茫然と見つめているだけだ。

 その団長から、静かではあるが圧力がある言葉が流れていく。


「ケツに殻を付けたままのヒヨコ風情が知ったふうな口をきくな……、くそガキが」


「やめろ。こいつはまだ若い新兵だ。まだ学ぶ時間はある」


「学ぶ時間もなく、自分がなぜ死んだかも理解できずに死んでいく新兵がいる。

 そして学んだことも碌に活かせずに死んでいく新兵もな……」


「そのために俺達がいる。そうだろう? お前は働き過ぎだ。

 すこし休め。このままでは保たんぞ? 

 そういえば、近くに教務団の告解助祭がいたな。告解でもするといい」


「ふざけろよ、俺は自分で殺した奴らに許しを請う事なぞしない。

 奴等だってそんな事は望んでいない。

 告解助祭がいるなら、自分で自分の告解でもしてろ。ついでに教会上層部の告解でも聞いてやれば良いのさ。 腐った教会がしている蛮行を糺すことも出来ずにいる己の恥辱ぶりに身悶えて、自裁すらできないことを大いに悔やむだろうがな!」


 副長がやんわりと取り成してくれてはいるが、団長から伝わる圧は緩むこともなく、また体に伝わる圧も緩むことはなかった。そして、眼を真っ直ぐに見られながら言葉が紡がれていくのだが、団長の眼に宿る色は蔑みではなく憐憫・諦観などだ。


「新兵の初陣、しかも最前線での平均生存時間をしっているか? 三十ビヨだ。だが、おまえは今回運よく生き残った。そんな運よく生き残ったお前の代わりに、誰かが骸になっている。その託された刻を活かすも殺すも、全てはお前次第だ。……無為に過ごすな」


 そういうと、やっと組み敷かれていた身体が解放された。

 立ち去っていく隊長たちを地に横たわりながら、ただ茫然として見送った。

 その後、しばらくして身を起した。


「な、なあ……俺、なにか気に障る事でも言ったのか?」


「さ、さぁ……戦いの後だから、気が立っていたんじゃねーのかな? 一種の八つ当たりだろ?」


「だよな~。おお、怖えェ~~、マジ、ビビったわ……」


「ギャハハ。お前のあの時の顔! マジ、笑える!」


「う、うるせー。気分直しに酒でも飲もうぜ?」


「いいねェ~。其れと戦勝祝いだ、後方に戻ったらイイところに行こうぜェ~?」


 そんな感じで、その場は無為に流れていった。

 何も学ぶことなく……、生き残った偶然が、自分の実力なのだと過信して……な。

 まぁ、それでもなんだかんだで、その傭兵団には暫くの間というには語弊があるほどに長い期間いる事になった。

 あの頃のおバカな俺にしちゃ、最良の、そして最高の判断だったな。


 相変わらず乱取りは出来なかったが、給金やらは良く、何よりその傭兵団は強かったのだ。それに神官崩れまで在籍しており負傷の治療が出来たことも大きい。それに加えて教練課程が用意されているので、生き残る術なども修得できる。それらを体得し尽くしたら、さっさと抜けちまおうとも考えていた訳だが、ズルズルと居続けたわけだな。理由は俺にもわからん……。


 因みにこの傭兵団の運営方針が、何処でもやる普通の事だと当時は思っていたものさ。至って馬鹿だろ? 普通の傭兵団に神官崩れもいなければ、教練課程なんぞ、ありゃしないのにな……。


 後で気が付いたんだが、他の傭兵団に行った新兵は、その時点でほとんどが生き残ってはいない。そのほとんどが初戦を運よく生き残っても後には死傷しており、骸になるか重傷を負っていたのだ。


 いまにして思えば、あの団長は『自分の若かりし頃を俺に投影していた』のかもしれないな……。 


 そんな俺も、暫くしてその団を離れる事になった。

 『傭兵として新たな戦場に赴き、それなりの戦功を挙げていき大成したのだ』と言いたいが、そうではない。

 なんというか、行軍中に立ち寄った村の娘と、デキちまってな……。

 戦地の近傍に布陣するも、運よく戦端が開かれる事も無く対峙するだけで済んだ。結局、手打ちして講和に至り戦は終わったのだが、その帰路で退団する事になったのだ。

『戦場で魂【たま】を張っても、結局最後は散るが定めだ。命を繋ぎ紡げるならば、それに越したことはない、お前はここに残れ。花が咲く時間は思いのほか短い。見届ける者がいる』

 そんな言葉を掛けられて、体よく追い出されたわけよ。

 『……ちッ、団員の事をよく見ていやがる』と感心したもんさ。

 そんなこんなで、紆余曲折も無く一直線にその村娘と結ばれて、気が付けば子を為していたという次第だ。


 立身を夢見て飛び出した俺が、いつの間にか村に住んでいるのだからな。不思議この上なしとは、この事だろう。

 それでも『後悔はあるかと問われれば、ある』と答えよう。

 『あの時の隊長の言葉の真意が理解できなかったこと』が、その後悔だ。

 そんな愚かで血に塗れた俺には分不相応なほどに、穏やかな時間が流れていく。

 こんな満ち足りた時間を過ごすのは初めてだった。


 いつしか、この穏やかな時間を過ごす事が、変わらぬ日常なのだと錯覚し始めた頃、近くで戦が始まった。あれよあれよという間に、戦火は燃え広がり俺の村も戦場になった。そして……、滑稽なことに俺は自分の妻子を逃がすために、この場に踏みとどまっているのだ。 

 立場は違えど『あの時の状況と同じ』だと、その時に気が付いた。

 そう……、いまにして、漸く判ったのだ。

 あいつ等は、あの獣人達は村の者達を逃がす時間稼ぎに、あの場に踏みとどまっていたのだ。


 ――『増援が来るわけでもないのに、ここを死守してなんになるよ?』――

 全くその通りだな。


 ――『挙句に全滅するなんて馬鹿のすることだぜ?』――

 全くその通りだ。


 だがな、たとえ無理だと判っていても『やらねばならん事もある』し、『やり通さねばならんこともある』のだ。


 彼奴らは、見事にその任を果たした。

 ならば俺が為すべきことは『ただ一つ!』 ということになる。

 ふははッ、自然と嗤いが零れ出る。

 これは自分に向けたモノなのか、向かってくる敵に向けたモノか。

 それを知る者は、当人しかいない。そして、おそらくは当人すらも判っていないだろう。


 そして俺は手傷は負ったが深手は負わず、なんとか生き残った。

 教練の成果がいかんなく発揮された訳だな。 そう、『俺はやり遂げた』のだ。

 ……だが、護るべき妻子は無惨に死んでいた。

 俺の握り締めたこの拳には、何も残らなかったわけだ。

 ただ、あるのは『虚無』だった。


 あの傭兵団長は、その身で、血の涙を流してこの事を学んだのだろう。

 そして、それを俺らに伝えようとしていたのだ。

 ――『戦いを生業とする者は、戦いの場で散るのが定め』――

 それは、倒す者、倒される者の双方が判ってやっているのだから、まだ納得はできる結末だろうさ。

 だがな、そんな覚悟もない無辜の、しかも力無き者を巻き込んでどうするんだよ……。

『魂【たま】を賭けるなんざ、魂【たま】を賭けれるだけの度量と覚悟と技量を示して、初めてできる事だ。なにせ、しくじれば魂【たま】を喪うんだからな。おふざけ半分でやっていい火遊びじゃねェんだよ……。ましてや力なき者を享楽がてらに殺すなんざ、罷り間違ってもやっていい事じゃねェェんだッ!』


 其処からというもの俺は『虚無』に捉われたのか、記憶が曖昧だ。

 もしかしたら、俺は俺の手で『虚無』を生み出したかもしれない。

 我に返ったのは、全身に返り血を浴びて川に浸かっていた時だったからな……。

 だが最後に斬った……、殺った奴の貌は、なぜか覚えている。

 彼奴は、俺が飛び出した生まれ故郷で『俺の後をちょこちょこと尾いて回り、笑っていたあの時のガキ』だ……。

 月日の流れは早いもんだ。何でお前が此処にいるんだよ……。

 お前も『託された刻を無為に過ごした』のか?

 俺は『託された刻を無為に過ごした』んだろうな。

 お前、どう思うよ? ガキの面影を残した死に顔を思い浮かべながら、問いかけた。



 俺はあまりにも辛すぎる村を離れ、雲のように流れ流れて、またぞろ傭兵をやっている。

 酒場で旨くも無い食事を薄い安酒で流し込んでいたその時、酒の肴に供される話を小耳に挟んだのだ。あの傭兵団長率いる団が壊滅し、団長は戦死したらしい。

 聞けば『あの傭兵団らしい最後』だった。

 防衛を請け負った街を護るために、最後の最後まで踏み止まっただと……。

 それをこいつ等は、笑い話にしていやがる……。


 あの人は、こんな安酒場で『酒の肴』にされて、笑われてよいお人じゃねェはずだ……。語られざる英傑なんだ。あの団長と傭兵団がいたからこそ、踏み止まったからこそ、その街はいまもあるんだろうがよ……。


 ギリッ……、無意識に歯を食いしばり、手を握りこむ。

 ……俺は、何をやっているんだ? 

 これこそ、『無為に過ごす』ってやつじゃねェかッ!


 まずは『託された刻を有為に過ごす』ために、その傭兵団と団長を酒の肴として嘲笑っていた酔客を叩きのめし、その店を出禁になっちまったが気分は実に爽快だ。青天白日の心持ちって奴よ。


『お前の代わりに誰かが死んでいる。その託された刻を活かすも殺すも、全てはお前次第だ。……無為に過ごすな』か……。

 あまりにも重い……、今からでも俺にできるだろうか……。この無為に過ごした刻を埋める事が……。 


 ――『やるか、やらないかであって、やれるかではない』――

 畜生、なんでまた思い出すんだ! 思い出しちまったら、『やらざるを得ない』だろうがよッ!


 それからというもの、血の滲む様な仕事を請け負ったが、己の信念は貫いていく。意気投合する者らと友誼を交わし、徐々に賛同する者を集めていく。

 仲間が増えれば、こなせる仕事も増えるが、様々な軋轢も増えていく。

 そんな大小の軋轢も説得し、最終的には理解を無理やりにでも得られたのは幸いだった。


 例えば――「閣下、俺達は自分の魂【たま】を賭けるのですよ? ならば自分の定めた律に則るのは当然じゃありませんか。力無き者に『力』を貸すのは吝かではありませんが、魂魄まで差し出す気は毛頭ありません。他の者のために戦いもしますが、己の魂魄の闘いでもあるのです。他者を護る気概も、自分の定めた律を守る覚悟すらない者が戦場に立っても、何の役にも立ちません。こいつのようにね……。武人の志を理解していると評判の閣下ならば、お判りでしょう?」

「ひッ?! ……わ、わかっておる」

「さすがは、武人の心を知る閣下でございますな。話の判る御仁で、感服致しました」――とかだ。


 おいおい、閣下の前の机に敵将の首級を置いただけじゃないか。何をそんなにビビっているんだ? この敵将の首級にビビったのか? それとも俺にか? 

 それにしても、何ふざけた事を言っているんだ、こいつは?

 ――『町を陥として住民を全て捕縛して連れて来い、抵抗すれば好きにしてよい。どうだ良い条件だろう?』――だと?

 ヒトとして信義に悖るだろうがよッ! 二度と戯言を俺に言わないようにワカラセておく。


 他にも――「俺たちは傭兵とはいえ武人でもあるのですよ? 殺しは戦場でって決まってるんでさ。 見境もなく殺しはしません。そこらの街の無頼漢や殺し屋と一緒にしてもらっては困ります。 いま一度繰り返しますが、俺たちは傭兵であり武人でもあるのです。

 金で殺しを請け負う薄汚い浅学菲才な戦士にも、小さいが譲れない矜持ってやつが、確かにあるんですよ。

 ちょうど商会長の股の間に二個ぶら下げているような、ね。

 そして、こいつが傷つけられると激痛で身悶えるのです。

 ならば、そんな激痛を齎した奴が雇い主であったとしても、憂さ晴らしに殺っちまいたくなるのは、至って当然でしょう? お分かりいただけるでしょうか、商会長殿?」 「……」――とかだ。


 あの時、おれは無言で額の汗を拭う商会長を、いまここで殺っちまうか考えていた事は本当だ。それが伝わったのだろう、ひたすら無言で汗を拭う商会長を俺は睨みつけている。

 なにが『競合相手の商会主の妻子を攫ってこい』だ……、ついでに『店の使用人もバラして、強行犯に見せかけろ』だと。

 こいつは、俺の心を搔き乱した。詫び賃をもらう事にしよう。

 詫び賃の払いについて、『否』と云えなくするために『ここで殺【バラ】してやろうか、それともこの事を他の商会に暴露【バラ】してやろうか』と穏和に説得したら、慌てふためき『冗談だ』と云い繕ってきた。うむ、面白くも無い『冗談』に貴重な時間を割いて付き合ってやり、講評までしたのだからお代は後ほど商家に請求しておくことにする。

 因みに幾日か後、俺の寝首を掻きに侵入者が夜分に密会しに来たが、丁重に交渉して亡骸にしてやった。手間賃割増の増額された詫び賃を請求しておく。

 この事件は、物取りの強行犯として処理された。

 良かったじゃないか、誰にとっても『無意味だが、不快な上に有害な冗談』で、世間を騒がせなくて……。 

 まぁ、犯人不明の殺人が起こったが、物騒な世の中だからな。不可解な出来事など、稀によくあるって事だろうよ……。



 こんなことが結構な頻度で繰り返されていくうちに『あそこは客を選ぶ』との評が立ったが、請け負った契約は完遂した。しかも水面が乱れる事も無くだ。『立つ鳥、跡を濁さず』を実践し示した。『割高だが、復興込みで長く観ると割安』という絶妙な位置取りで、団も徐々に大きくなっていき、確かな定評を得るに至った。


 この余勢を駆って、更なる飛躍を目指し団を大きくするべきかとも思案したが、踏み止まった。急激に大きくしていくと統制が効かずに規律が乱れて自壊する事があるのを知っていたからだ。俺の知っている実例だと、急激に勃興した傭兵団の団長が戦場で配下の傭兵に、後ろから刺されて亡くなるという事があったのだ。どうやら報酬がらみの逆恨みらしい。これまた稀によくある事例と言えるだろう。


 そこで綱紀粛正を兼ねて監査を行うと宣言したら、傭兵団を辞める者達が出始めた。元から不満があったようで、此れ以上厳しいのは願い下げだと離れたのだ。

 俺に隠れて不正や暴虐な振る舞いがあったのかと危惧したが、ほんの些細な値切りや手間賃の要求位で略奪や暴行と云った深刻な案件は無かった。まぁ、膿を出すには、これからも定期的にやらねばならないだろう。全く気が重いことだぜ……。


 ・

 ・

 ・


 そういや、あんな事、そんな事、こんな事もあったな……。

 様々な事を思い出すが、それ故に目が完全に醒めた。

 完全に目が醒めると、寝る前に考えていた事も思い出す。


「投票剣……か」

 簡素な箱に厳重にしまい込まれて、壁に立てかけられている物に視線を送りながら、はてさてどうするかと思い悩む。

お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ