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一章『ガラクタ天使』  (一)

ちょっとだけグロ含みます。

 適当に流してる授業を終えて、なんとなく一緒に居る蓮とバカみたいな話しながら帰る。これが日常。因みに俺等は帰宅部だから、帰るのがとてつもなく早い。

 今日は十一月十一日で、ポッキーの日で、良い日とも俺の町では言われている。十一が二つ並んでるから、良い良い、みたいな。

「あれ、今日ってポッキーの日だよね?」

 もこもことして暖かそうな手袋してる蓮。今日は一段と寒いからな。そして、その手袋でこれまたもこもことした暖かそうなマフラーを、鼻の近くまで上げる。

 俺より少し目線が下の蓮が問った。

「そうだよ。彼女でも居たらポッキーゲームして、恥ずかしそうにしてるところでキスするんだけどな」

「そうそう。僕はそのまま押し倒しちゃうかも!」

「とんだ変態野郎だな」

「えー、それは竜斗にも言えた事じゃない?」

「少なくともお前よりは違うかな」

 いつから一緒に居て、いつから一緒に行動するようになったのか。なんていうことは分からない。俺は別に蓮の事を好いているわけでもない。けど、一緒に居る。蓮もそうだと思う。

「あー、早く彼女欲しいな」

「そうだねえ」

「一度は言ってみてぇよな……『彼女家まで送んのめんどくせー』ってな」

「それじゃあ彼女が傷つくよ?」

「大丈夫、多分お前にしか言わないから」

「……そう」

 少し嬉しそうに言いやがった。ムカツク奴だ、多分ってつけたのに。

「竜斗」

「んー?」

「ポッキーゲームしちゃおうか、僕等で。どうせなら僕の家に泊まっていけばいいよ、明日は丁度土曜日なんだし」

「お前本気?」

「半分本気かなあ」

 半分冗談なんだな、良かった。ついにゲイに目覚めたかと思ったぜ。

「でも断ってやる、今日はハクの誕生日なんだ」

「あの例の美人姉ちゃん?」

「そうそう」

「名前は確か……有野白亜だっけ」

「ああ。だから明日にしよう、明日でもまだ間に合うさ」

「全然間に合わないけどね」

「まあ、そういうことだ、帰ったらメールでもしてやるから、待ってろ」

「ハイハイどうも。どうせ俺は白亜ちゃん以下の存在ってことだ、悲しいなあ!」

「ガキかよ。じゃあな」

「うん、バイビー」

 蓮は軽くウィンクして、自分の帰る方向へと向かった。そう言えばアイツ、豪邸だったけな。そんなことを考えながら自分の家に入る。

「ただーいま」

 いつもなら返事があるのに、ない。買い物にでも行ってるのだろうか。呑気だな。

 ちょっと待て……靴がちゃんとある。父さんも今日はハクの誕生日だから早く帰って来てるんだよな。母さんの靴も父さんの靴もちゃんとある。ハクの靴は、ない。あると思ったんだけどない。どうしてだ? ハクは毎日俺の家に来ては、母さんの晩御飯作りに手伝ってたのに。今日は誕生日だから恥ずかしかったのか? いや、それはない。だってアイツ、今年以外の過去の誕生日は全部、俺が帰ってくる前に俺の家に居たし。

 今日はたまたまだな。そう思おう。

「ゲホッ」

 リビングにニ三歩近付くと、異臭が漂ってきた。

「なんだよ……?」

 嗅いだ事の無い、吐きそうなくらいの鉄のような臭い。大きな魚でも捌いたのだろうか。

 リビングのドアを開けた。

 異臭の正体が、分かった。

「ははっ、おいおいおい、なんのゲームだよ、これ」

「もうやめろよ、くせえからさ」

 返事がない。無視かよ。

「救急車呼ぼうとしたらさすがに返事するよな」

 電話に手をかけ、自分の携帯電話の番号を押す。本当に救急車のとこに電話いったらヤバいからな。

 両親の居る方に振り返る。起きない。返事も無い。ドッキリにしちゃあ、デキすぎてるぜ。俺の両親やるな、凄いよ。

 鮮明に映る景色。鮮やかすぎる血と、一切動かない、両親の死体。

「そうか、これ本物か!」

 俺はやけに冷静だった。何故か悲しくも無かった。俺はここまで酷い人間だったのか。

 玄関のドアの開く音がする。

「ごめんねおばさーん、友達と話してたら遅くなっちゃって……」

「おう、ハク」

「竜ちゃん……なんで、そこに突っ立ってんの? おばさんは?」

 まあ、本当の事言うしかないよな。嘘吐いても後々バレるし。

「死んでる」

「……は? 冗談やめてよね、おじさんは? 帰って来てるっぽいけど」

「死んでる」

「いや、冗談でしょ?」

「ハク、お前これ冗談に見える?」

 俺の教科書やら何やらが入ったバックから、携帯の着信音が響いてた。

「で、でも!」

 ハクが声を荒げる。どうして俺の言葉を信じてくれないんだろう。俺は、ホントの事言ってるだけなのに。

「あのなあ、俺がお前の誕生日にこんな嘘吐くと思うか? 吐かねえだろ!」

 いつの間にか途切れた着信音に虚しさを感じた。

「そうだけど……」

「だけど、なんだよ。俺だって嘘だと思いたいさ。でも、触ってないけど……これ絶対死んでるから」

「分かんないじゃない! とにかく、救急車呼んで!」

「救急じゃねぇ、警察だ」

 ハクは俺の言葉を無視し、靴を脱ぎ捨て、俺の両親の元へ向かう。まず、うつ伏せになってた母さんを仰向けに直し、心臓に突き刺さってるナイフを引っこ抜いた。また、そこから新しい鮮血が出てくる。

「ひっ……」

 ハクが短く悲鳴を上げる。バカな奴。

「お、おばさん……」

 泣き崩れた。母親の居ないハクが、自分を本当の娘の様にしてくれた俺の母さんを、どれだけ愛していたか。計り知れない。

「おじさん、おじさん」

 今度は母さんの隣で仰向けに倒れてた、父さんの名前を呼ぶ。返事は勿論ない。

「どうして……」

 俺はハクが、酷い顔になって泣いているのをただ呆然と見ていた。

「どうしてよ、どうして……おばさん……」

 静かに泣く。静かだからまだいいけどさ、喚かれちゃあ頭にキンキン響くからやめてほしいね。

 俺はどうして泣いてないんだろう。重松清の『タオル』という作品を、国語の授業で読んだ事がある。祖父が死んで、主人公がそれを自覚できなくて泣けなかった話。ま、最終的には、泣けたんだけど。今俺は、その状態なのだろうか。

 俺は、警察に電話した。

「……警察の方ですか?」


                 *


 数分ほどして、警察が来た。

「こりゃ酷い、心臓一突きだ……」

 ハクは、泣き疲れて一点を見詰めている。放心状態かな。そりゃあそうだよなあ。

「坊やが第一発見者かい?」

 怪しそうに俺の顔を覗き込む。外には野次馬が沢山居て、ガヤガヤと煩い。

「ああ、はい、そうですが」

「坊や……悲しくはないのかい? 何故、泣かない?」

 そうか、俺を疑っているのか。両親が殺されて、普通はハクのように泣くのに泣いていないし、冷静すぎるから。

「ああ……おじさん、重松清の『タオル』って作品読んだ事ありますか?」

「あるよ。それがどうしたんだい?」

「多分、俺今それなんですよ。死んだ事を自覚できてなくて、泣いてない。俺、帰って来てから親に触れてないし」

「……そうか」

 これで疑いが晴れるといいんだけどな。

 警察のおじさんはどこかへ行った。

「おい」

 俺は一段と低い声で、ハクに話しかける。ハクがちょっと動いた。

「ハク、行くぞ」

「どこに……?」

 やっと出せた声は、一日中出していない声のように掠れていた。

「お前の、親父んとこだよ」

「なんで?」

「俺は孤児院なんて嫌だね。お前のとこに住む。ハクの親父さんさ、良い人だからきっと了承してくれるだろ」

「そう、だね、パパなら良いって言うと思うよ」

 俺達の動きは相当早いものだったらしく、警察の人は俺達の行動に気付かなかった。後々、叱られることになるんだけど。


「あぁ。なんか、シロツメクサ落ちてたんだろ?」


                 *


「あーあ、こんなことになるならもっと話しときゃよかったなあ」

「おばさんと?」

「おう、父さんともな」

 こういう時、幼馴染が居てくれて助かる。少しは、気が紛れるから。

「そっか……」

 もう、話せないんだよなあ。

 瑠璃色の空が、俺等の悲しみを吸い取ってくれるような気がして、俺等は空を見ながら歩いてた。遠回りしてハクの父さんのとこに行ったから、ちょっと疲れたな。

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