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『三点鐘―三回鳴る夜、人が消える―』  作者: asnt2026


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第8話 二人目の失踪

戸鳴隧道へ到着したとき、パトカーの赤色灯が入口の木々を赤く染めていた。


鳴瀬千尋は車を降りる。


「二人は?」


最初に見つけた制服警官へ尋ねる。


「まだです」


「中は?」


「二名が確認中です。反対側にも配置しました」


「出てきた人間は?」


「ゼロです」


「車は?」


「入口近くに一台。唐沢岳人名義です」


また同じだ。


人間だけがいない。


「折原」


「はい」


「最後の連絡は?」


「二十時十二分のSNS投稿。その数分後に十一秒の音声。その後は何もありません」


「携帯は?」


「二人とも電源が切れてます」


千尋はトンネルを見る。


昼間ならただの旧道だろう。


今は入口の向こうが黒い穴にしか見えない。


「入ります」


折原が言う。


「当然」


二人でトンネルへ入る。


数十メートル進む。


空気が変わる。


外より冷たい。


水滴。


古いコンクリートの臭い。


千尋は床を見る。


足跡。


複数。


警官のものと混じっている。


「先行した二人は?」


無線。


『現在中央付近。人影なし』


「落とし物は?」


『今のところ――』


声が途切れる。


「どうした?」


『赤い靴があります』


千尋と折原が顔を見合わせた。


「触らないで。場所を確保して」


さらに進む。


やがて警官二人。


その先。


道の中央に、小さな赤い靴。


「子どもの?」


折原が呟く。


「みたいね」


鑑識を待つ。


千尋はライトで周囲を照らす。


壁。


排水溝。


天井。


どこにも子どもが来たような痕跡はない。


「唐沢たちの映像、クラウドに上がってない?」


「確認させます」


数分後。


折原のスマートフォンが鳴る。


「ありました」


「見せて」


撮影データが断片的に自動保存されていた。


通信が不安定だったため全部ではない。


最初。


唐沢と琴葉の会話。


足音。


子どもの声。


『……たけと』


千尋は黙って聞く。


二人が戻ろうとする。


カン。


一回。


カン。


二回。


そして。


『八年前のこと、覚えてる?』


千尋が画面を止めた。


「もう一回」


再生。


『八年前のこと、覚えてる?』


「唐沢の反応を」


映像を拡大。


顔色が変わっている。


驚いた。


というだけではない。


知っている人間の反応。


「八年前」


千尋が呟く。


何かが引っかかる。


だがまだ形にならない。


映像を進める。


途中でファイルが切れる。


次の断片。


赤い靴。


《返して》


そして、


女の声。


『あなたは、私を知ってる』


唐沢。


『俺は何もしてない』


『見てただけ』


折原が息を呑む。


「これ、幽霊じゃないですよね」


「誰かが唐沢を知ってる」


「犯人?」


「分からない」


次。


エンジン音。


唐沢が叫ぶ。


『走れ!』


映像が激しく揺れる。


そこで唐沢の姿が消える。


「巻き戻して」


何度見る。


唐沢は前にいる。


一瞬カメラが壁へ振れる。


戻る。


いない。


単純にその間に横へ移動した可能性もある。


だが。


横に行ける場所がない。


少なくとも図面上は。


「壁」


千尋が言う。


「はい?」


「この辺り、点検スペースない?」


折原が図面を見る。


「記載なしです」


まただ。


霞ヶ瀬も図面にない通路があった。


千尋は壁をライトでなぞった。


色の違う部分。


補修跡。


「調べて」


鑑識が近づく。


そのとき。


トンネルの奥。


カン。


全員の動きが止まった。


折原が千尋を見る。


一回。


数秒。


カン。


二回。


誰も声を出さない。


千尋はライトを奥へ向けた。


黒い道。


何もない。


三回目。


来ない。


「進みます」


千尋が言った。


折原がついてくる。


十メートル。


二十メートル。


そのとき無線。


『鳴瀬さん、反対側の班からです』


「何?」


『誰も出ていません』


「了解」


『それと――』


一拍。


『トンネルの外に大型車のタイヤ痕らしきものがあります』


千尋の足が止まる。


「いつの?」


『鑑識待ちです。ただ新しい可能性があります』


大型車。


映像にもエンジン音。


人間が消えた。


幽霊よりはるかに具体的なものが、ようやく一つ現れた。


その夜。


午前一時過ぎ。


唐沢岳人。


藤枝琴葉。


二人とも発見されなかった。


霞ヶ瀬の二人に続き、


四十八時間後。


二つ目の場所から、


また二人が消えた。

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