第29話 四十八時間だけが違う
捜査本部の壁一面に、
過去の失踪記録が並べられた。
十三年前。
九年前。
七年前。
五年前。
二年前。
失踪日。
場所。
0便。
怪談。
管理会社。
千尋は一枚ずつ見ていた。
何かが、
ずっと引っかかっている。
零号線が見つかった。
人間を運んでいたことも、
かなりのところまで分かった。
今回の六人がそこへ乗せられたことも。
なら。
事件は解けた。
そう考えていいはずなのに。
「違う」
千尋が呟いた。
折原が振り返る。
「何です?」
「過去の失踪日、全部並べて」
「並んでますけど」
「間隔」
折原が見る。
最初から次。
四か月。
その次。
一年七か月。
三週間。
二年。
八か月。
十一日。
ばらばら。
当然だ。
犯罪を隠すなら、
規則など作らない。
「今回」
千尋が別の紙を置く。
霞ヶ瀬。
一日目。
戸鳴。
三日目。
八汐。
五日目。
四十八時間。
四十八時間。
あまりに綺麗。
「目立ちすぎる」
折原の顔が変わる。
「組織が急に雑になった?」
「十五年近く隠してきた人間が?」
「じゃあ」
「今回だけ違う」
千尋はホワイトボードへ線を引く。
「零号線は人を消すための仕組み」
その横。
「でも今回の事件は」
48。
大きく囲む。
「見つけてもらうための仕組み」
折原が黙った。
「犯人は、警察に三件が関連していると気づかせたかった」
「だから四十八時間」
「規則を作った」
「三回の音も?」
「同じ」
共通点。
霞ヶ瀬。
戸鳴。
八汐。
本来、
怪談は全部違う。
白い女。
子どもの声。
電話。
それなのに今回だけ、
三点鐘が加えられた。
同じ犯人だと、
知らせるため。
「でも」
折原が言う。
「そんなことして何になるんです?」
「零号線を見つけさせる」
「だったら匿名で資料送れば」
「送ってる」
USB。
電話。
ヒント。
それでも、
警察が本気で動く保証はない。
一人の告発者。
証拠の不明な情報。
八年前。
秋庭絵麻。
警察は、
一人消えただけで、
事件性が低いと判断した。
千尋の胸に、
痛みが走る。
「一人じゃ足りなかった」
口から言葉が出た。
折原が見る。
「何がです?」
「警察を動かすのに」
一人消える。
事故。
家出。
自殺。
処理される。
なら。
二人。
さらに二人。
また二人。
四十八時間おき。
三つの有名心霊スポット。
メディアも騒ぐ。
警察も関連を無視できない。
「犯人は」
千尋が言う。
「警察が動く事件を作った」
折原が青ざめる。
「六人を使って?」
「そうなる」
正義ではない。
告発でもない。
無関係な人間を危険に晒している。
その時点で、
明確な犯罪。
ただ。
目的が、
零号線の隠蔽ではない。
むしろ破壊。
「組織に恨みがある人間」
折原が言う。
千尋の頭に一人浮かぶ。
秋庭絵麻。
そして。
鴻上志乃。
「まだ早い」
自分に言うように呟いた。
その日の夜。
零号線関係者の一人を確保した。
北辰環境輸送の元運転手。
四十七歳。
男は最初、
何も知らないと言った。
だが、
冷凍倉庫の証拠を見せると、
顔色が変わった。
「今回の六人を運んだ?」
千尋が聞く。
「知らない」
「嘘つかないで」
「本当に知らない」
「0便」
男の目が動く。
「何を運ぶ便?」
沈黙。
「人?」
男が俯く。
「俺は」
声が掠れる。
「箱しか見てない」
「人が入ってるって知ってた?」
答えない。
それが答え。
「今回の霞ヶ瀬、戸鳴、八汐」
男の表情が変わった。
「何」
「その三つは」
初めて男から言葉が出る。
「俺たちじゃない」
千尋が身を乗り出した。
「どういう意味」
「最近、変だった」
「何が」
「指示が」
男は唇を舐める。
「上から来てない」
「どこから?」
「知らない」
「六人を運んだのは?」
「俺らじゃない」
「零号線を使ってるのに?」
男が千尋を見る。
「誰かが勝手に使ってる」
部屋の空気が変わった。
「そんなことできるの?」
「できないはずだった」
「でも起きてる」
男は小さく頷く。
「中を知ってるやつなら」
「組織内部の人間?」
「元の人間か」
一拍。
「運ばれた側か」
千尋の手が止まった。




