第28話 零号線
冷凍倉庫の地下から出た証拠によって、
捜査は一気に拡大した。
県警だけでは足りない。
広域捜査。
入管関連。
組織犯罪対策。
複数の部署が動き始める。
だが千尋にとって、
事件が大きくなることは、
安心材料ではなかった。
大きくなればなるほど、
六人がどこにいるのかが見えなくなる。
北辰環境輸送。
東央施設サービス。
別名義の運送会社。
人材仲介業者。
廃施設管理会社。
倉庫。
港。
複数の会社がつながっている。
一つの巨大組織が、
上からすべて指揮しているわけではなかった。
むしろ逆。
それぞれが、
自分の役割だけを知る。
拾う。
一時保管。
運ぶ。
書類を作る。
別名義へ変える。
さらに運ぶ。
誰も全体を知らない。
だから、
一か所捕まえても、
全体像が出ない。
「運ぶ側は行き先を知らない」
千尋が言う。
唐沢のメモリーカードに残っていた言葉。
その通りだった。
「じゃあ、ゼロって」
折原が資料を見る。
「搬送の最初?」
「あるいは表に出せない便」
押収したパソコン。
復元データ。
その中から、
暗号化されたフォルダが見つかった。
ファイル名。
0-LINE
「ゼロライン」
折原が読む。
内部には、
地図。
地点。
番号。
霞ヶ瀬。
戸鳴。
八汐。
冷凍倉庫。
別の倉庫。
港近くの施設。
「線路じゃない」
千尋が言う。
一本の地下道ではない。
道路。
倉庫。
管理通路。
廃施設。
車両。
人間を表から消したまま移動させる、
点と点のつながり。
「零号線」
捜査員の一人が呟いた。
その呼び名が、
いつの間にか捜査本部内で定着した。
零号線。
人間を人間として扱わない、
存在しない輸送路。
ファイルの中には、
過去の識別番号。
一部だけ個人情報。
千尋たちは失踪者と照合する。
一致。
一件。
二件。
三件。
霞ヶ瀬。
戸鳴。
八汐だけではない。
県外。
別の廃墟。
閉鎖された工場。
使われなくなった林道。
「心霊スポットだけじゃない」
折原が言う。
「でも多い」
不自然なほど。
事故。
家出。
自殺。
遭難。
心霊スポットなら、
どれも説明として受け入れられやすい。
そして、
目撃者が幽霊を語れば、
人間の痕跡はさらに薄くなる。
怪談。
恐怖。
噂。
犯罪者にとって、
便利な煙幕。
千尋は吐き気を覚えた。
十五年。
あるいはもっと長い。
誰かが、
人間を消すために、
怪談を育てた。
「秋庭絵麻の番号、あります」
折原の声。
千尋が振り返る。
古いデータ。
個人名なし。
だが失踪日。
年齢。
性別。
所持品。
一致する。
識別番号。
0-214
搬入地点。
八汐。
搬送。
冷凍倉庫。
その先。
空欄。
「行き先がない」
「途中でデータ消されてる?」
「可能性はあります」
生存。
死亡。
国外。
何も分からない。
ただ、
秋庭絵麻は確かに零号線へ乗せられた。
そこだけは、
ほぼ間違いない。
「今回の六人は?」
検索。
新しいデータ。
暗号化された別領域。
六つの仮番号。
存在する。
千尋の心臓が鳴った。
「状態」
折原が読む。
《HOLD》
「保留」
全員。
まだ移送されていない。
「場所は」
座標なし。
ただ、
拠点コード。
Z-4
「Z-4を探す」
複数候補。
県内だけでも四か所。
倉庫。
旧加工場。
廃配送センター。
山間部の資材置場。
警察が同時に動く。
千尋も一地点へ向かう。
結果。
空。
別班。
空。
三か所目。
過去に使った痕跡のみ。
残る一つ。
海沿いの旧物流センター。
無線。
『内部に生活痕あります』
千尋が立ち上がる。
『でも誰もいません』
遅かった。
また。
机に一枚だけ紙。
六つの番号。
全部に、
《移動》
千尋の拳が固くなる。
「いつ」
『今日の午前四時前後と思われます』
数時間。
届かなかった。
壁に、
黒いペンで文字。
《近づいている》
誰が書いた。
捜査員がその下を照らす。
さらに小さな文字。
《でも、まだ違う》
千尋は写真を見る。
犯人が、
警察の動きを見ている。
誘導している。
そして何より。
零号線が存在することを、
警察に見つけさせようとしている。
「犯人は組織側?」
折原が聞く。
千尋は答えなかった。
本当にそうなら、
どうして自分たちの犯罪網を、
ここまで露骨に見せる。




