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『三点鐘―三回鳴る夜、人が消える―』  作者: asnt2026


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第27話 荷物

冷凍倉庫へ着いたとき、


シャッターは閉まっていた。


追跡班の車は外にある。


だが、


捜査員二人がいない。


「開けて!」


管理者の到着を待っている時間はなかった。


緊急性あり。


工具でシャッターをこじ開ける。


内部。


暗い。


冷凍設備はとうに停止している。


それでも、


冷気のようなものが肌を撫でた。


「佐藤!」


「宮田!」


名前を呼ぶ。


返事なし。


ライト。


古い棚。


木箱。


コンテナ。


床にタイヤ痕。


そして奥。


「いました!」


二人。


無事。


金属製の区画に閉じ込められていた。


「何があった?」


佐藤が息を整える。


「トラックの荷台を確認しようとしたら、後ろからシャッターが」


「人は?」


「見てません」


「運転手」


「いません」


逃げた。


倉庫内部を捜索する。


何もない。


少なくとも、


最初はそう見えた。


折原が古いパレットを動かす。


床。


金属製の輪。


「これ」


引く。


床板が開いた。


地下。


階段。


千尋はライトを向ける。


「地下室?」


図面にはない。


また。


図面にない場所。


降りる。


地下は広かった。


予想よりずっと。


コンクリート。


蛍光灯。


一部は最近まで使われていた形跡。


簡易ベッド。


水。


食料。


薬。


そして、


壁際。


鎖ではない。


だが、


人間を一時的に拘束するためのベルト。


折原が声を失う。


「これ……」


千尋は答えなかった。


床に落ちているもの。


女性用の髪留め。


子どもの靴下。


古い財布。


壊れた眼鏡。


「鑑識」


声が低くなる。


「全部」


奥には、


ロッカー。


開ける。


中には透明袋。


一袋ずつ、


番号。


名前はない。


財布。


スマートフォン。


身分証。


腕時計。


指輪。


その中に、


古い運転免許証。


千尋が見る。


十三年前に失踪した男性。


名前。


波多野修一。


波多野朔の兄。


「……生きてる?」


折原が聞く。


分からない。


免許証がここにある。


それだけ。


だが、


人がここを通った。


明らかに。


「人を運んでた」


折原が呟く。


今度は千尋も否定しなかった。


産業廃棄物ではない。


荷物。


人間。


秋庭絵麻が見たもの。


唐沢が見て、


嘘をついたもの。


三回の音。


扉が閉まり、


人ではなくなる。


すべてが一つの形になり始めた。


奥の机。


紙の資料はほとんど処分されている。


シュレッダー。


焼却跡。


ただ、


一枚だけ棚の裏へ落ちていた。


表。


日付。


識別番号。


搬入。


搬出。


行先。


名前なし。


人間を、


番号で記録している。


「これって」


折原が指す。


《A-061》


その横。


《移送済》


次。


《A-062》


《国外》


さらに。


《A-063》


空欄。


人間を番号で扱う。


千尋の胃が重くなる。


「人身取引」


言葉にしたのは折原だった。


「そう見るべきね」


「こんなの……何年」


「分からない」


壁。


古い汚れ。


削られた文字。


誰かが爪か硬いもので書いたらしい。


《名前を忘れない》


その横。


人名。


いくつも。


消されかけている。


千尋はライトを当てる。


一つ。


二つ。


知らない名前。


そして、


絵麻


それだけ。


姓はない。


ただ、


確かに書かれている。


秋庭絵麻。


ここへ来た可能性がある。


八年前。


この地下に。


千尋のスマートフォンが鳴った。


波多野から。


「もしもし」


『何か見つかりました?』


声が硬い。


どうして分かった。


おそらく捜査車両を見た誰かから聞いたのだろう。


千尋は迷った。


「お兄さんの免許証が見つかりました」


沈黙。


長い。


『……どこで』


「今は言えない」


『生きてますか』


「分からない」


『十三年ですよ』


千尋は目を閉じる。


『生きてますか』


同じ質問。


「分からない」


それしか言えない。


電話の向こうで、


波多野が息を吐いた。


『分かりました』


声が変わっていた。


怒りでも悲しみでもない。


何かが、


切れそうな声。


『見つけてください』


「探します」


通話を終える。


そのとき、


折原が奥から呼んだ。


「鳴瀬さん!」


「何?」


小さな部屋。


新しい。


最近まで使われていた。


テーブル。


ペットボトル。


毛布。


床。


何か落ちている。


スマートフォン。


電源は切れている。


証拠袋へ。


背面。


傷。


ケース。


折原が写真を確認する。


「これ」


行方不明者。


藤枝琴葉。


所有していたスマートフォンと、


機種とケースが一致。


六人のうち一人が、


ここを通った。


千尋の心臓が速くなる。


「全員の痕跡を探して!」


なら、


まだ近いかもしれない。


生きている可能性がある。


机の下。


紙。


最近印刷されたもの。


六つの番号。


その横に、


日時。


1日目。


3日目。


5日目。


六人。


一番下に赤字。


《一時保留》


「何を保留?」


折原が言う。


千尋は紙を握った。


誰かが、


六人をここまで運んだ。


だが、


その先へはまだ送っていない。


電話の女。


――まだ。


あの言葉。


六人は、


まだ生きている。

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