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『三点鐘―三回鳴る夜、人が消える―』  作者: asnt2026


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第26話 ゼロから始める

「ゼロから始めて」


電話の女が残した言葉を、鳴瀬千尋は何度も頭の中で繰り返していた。


ゼロ。


数字の零。


最初からやり直せという意味。


あるいは、


何かの名称。


「ゼロ便」


折原が言った。


「何?」


「過去の資料です」


机に紙の束を置く。


東央施設サービスと、その関連会社の運行記録。


廃材搬出。


資材移動。


機材回収。


何年分もある。


「通常便には全部番号があります。一便、二便、三便」


「それで?」


「欠番があるんです」


折原が一枚を指す。


深夜零時十五分。


車両番号。


作業員。


搬出物。


本来なら便番号を書く欄。


そこだけ、


《0》


「他にも?」


「あります」


八汐。


戸鳴。


霞ヶ瀬。


場所は違う。


会社名も途中で変わっている。


だが、


零という数字が何度も現れる。


「日付を過去の失踪と重ねて」


「やってます」


データを入力。


一覧が並ぶ。


最初の一件。


失踪の翌日。


0便。


二件目。


同日。


0便。


別の場所。


失踪前夜。


0便。


完全一致ではない。


だが偶然では説明しづらい数だった。


「波多野さんにも確認します」


折原が連絡する。


数分後。


波多野朔から返答。


兄が消えた日。


戸鳴隧道近くで、


夜間搬出作業が行われていた。


便番号。


0。


千尋は椅子から立ち上がった。


「会社を追う」


「東央施設サービスは解散してます」


「そこじゃない」


現在。


今も車を動かしているところ。


八汐で見つかったタイヤ痕。


戸鳴でも。


霞ヶ瀬でも。


車両そのものが必要になる。


過去の法人記録。


名義変更。


譲渡。


合併。


役員。


住所。


一本ずつたどる。


やがて、


現在も営業している会社へ行き着いた。


北辰環境輸送。


産業廃棄物。


不要機材。


建築資材。


地方にある、


どこにでもありそうな中規模運送会社。


「車両」


折原が画面を見せる。


大型箱型トラック。


ナンバー。


八汐裏手で採取されたタイヤ痕と、


車種が一致する可能性がある。


「令状取れる材料は?」


「まだ弱いです」


「弱くても積む」


千尋は過去の資料を見る。


北辰環境輸送の代表。


その前職。


東央施設サービス。


つながった。


翌朝。


捜査員が会社へ向かった。


表向きは通常の事情聴取。


千尋も同行する。


会社は工業団地の端にあった。


トラック。


倉庫。


事務所。


普通。


あまりに普通だった。


「警察です」


受付の女性が緊張する。


責任者が呼ばれる。


五十代の男。


名刺。


広瀬征二。


「八汐レイクホテルをご存じですか」


千尋が聞く。


「名前は」


「御社の車両が出入りしている可能性があります」


「うちは廃施設からの搬出もやりますので」


「戸鳴隧道は?」


「旧道関連の仕事なら」


「霞ヶ瀬療養館」


男の目が、


ほんの一瞬だけ動いた。


「昔、あったかもしれません」


「0便って何です?」


止まった。


明確に。


「……何ですか、それ」


「御社では使わない?」


「聞いたことありません」


千尋は男を見る。


嘘。


少なくとも、


知らない人間の反応ではない。


「過去の関連会社では使われています」


「昔の会社のことは」


「東央施設サービスにいましたよね」


男の顔から表情が消えた。


「二十年以上前です」


「その頃から0便はあった」


「覚えてません」


千尋はそれ以上追わなかった。


今ここで吐かせる必要はない。


外へ出る。


折原が小声で言う。


「絶対知ってましたよね」


「ああ」


「どうします?」


「監視」


「令状は」


「資料を集める」


その日の深夜。


北辰環境輸送の車両一台が動いた。


通常の運行予定にはない。


県警が追跡する。


千尋は無線を聞きながら地図を見る。


工業団地を出る。


国道。


県道。


山側へ。


「どこへ向かってる?」


折原が地図を見る。


「この先」


道路を拡大。


廃業した冷凍倉庫。


十年以上前に閉鎖。


土地所有者は、


別会社。


だがその代表者名。


東央施設サービス元役員。


「つながった」


トラックが倉庫へ入る。


捜査員から無線。


『荷下ろし始めました』


「何を?」


『コンテナです』


「中は」


『見えません』


その直後。


現場の無線が途切れた。


ザー。


「どうした?」


返事がない。


「応答して」


ノイズ。


そして、


無線機の向こう。


遠くで。


カン。


千尋の背筋が固まった。


カン。


「現場、離れて!」


返事なし。


千尋は車を出した。


三回目。


カン。


その直後、


無線の向こうで、


巨大な金属扉が閉まる音がした。

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