第25話 消えたカード
唐沢岳人が隠していたメモリーカードは、
自宅にはなかった。
事務所。
貸倉庫。
車。
撮影機材。
銀行の貸金庫。
考えられる場所を一つずつ潰す。
何も出ない。
「本人に聞ければ早いんですけどね」
折原が言う。
「だから探してる」
千尋は唐沢の行動履歴を追っていた。
失踪直前の一週間。
コンビニ。
撮影スタジオ。
飲食店。
事務所。
そして、
古いコインロッカー。
駅。
「ここ、二回行ってる」
「何で?」
「初日は三分。翌日は十二分」
防犯カメラを確認。
唐沢がロッカー前に立っている。
何かを入れた。
翌日、
取り出している。
「中身見えませんね」
「その後」
唐沢は駅を出る。
車へ。
次に向かった場所。
郊外の古い寺。
「寺?」
二人で現地へ。
住職に写真を見せると、
唐沢を覚えていた。
「来ましたよ」
「何をしに?」
「墓参りだと思っていました」
「誰の墓ですか」
住職は首を傾げる。
「墓地には入りませんでした」
「では?」
「納骨堂の裏にある古い石碑の方へ」
案内される。
苔むした石碑。
その後ろ。
地面。
わずかに掘り返された跡。
鑑識が慎重に調べる。
小さな防水ケース。
中に、
メモリーカード。
ラベル。
《8/19 八汐》
千尋と折原が顔を見合わせた。
県警へ持ち帰る。
データを複製。
再生。
最初は、
八汐レイクホテル。
八年前。
唐沢が撮った映像。
手持ち。
隠し撮り。
『やべえって』
若い唐沢の声。
『何やってんだよ』
遠く。
作業員が大型車の後部を開けている。
二人。
三人。
その中に、
女性。
腕を掴まれている。
顔。
一瞬だけ映る。
秋庭絵麻。
折原が息を止める。
映像の中で絵麻が抵抗する。
男が何か言う。
聞こえない。
唐沢は物陰に隠れて撮っている。
『警察……』
唐沢の声。
『いや、無理だろ』
カメラが揺れる。
別の男が唐沢へ近づく。
映像が途切れる。
次のファイル。
唐沢が誰かと話している。
顔は映らない。
男の声。
『見たのか』
唐沢。
『何も見てません』
『カメラ』
『撮ってないです』
『カード出せ』
映像終了。
だが、
カードはここにある。
唐沢は別のカードを渡したか。
あるいは、
コピーした。
最後のファイル。
音声のみ。
唐沢。
泣いている。
『俺は知らない』
男。
『なら、それでいい』
『あの女は』
『忘れろ』
『どこ連れてくんですか』
長い沈黙。
『荷物の行き先を、運ぶ側は知らなくていい』
千尋の手が止まる。
荷物。
三回鳴ったら、
人ではなくなる。
すべてがつながり始めている。
音声は続く。
男。
『明日、警察が来る』
『何て言えば』
『女は自分から車に乗った』
唐沢の呼吸。
『でも』
『言えるな?』
沈黙。
そして。
『……はい』
音声終了。
折原が椅子へ深く座り込んだ。
「完全に嘘だった」
「ああ」
八年前。
唐沢は、
脅された。
だが、
それだけではない。
金も受け取っている。
証拠も隠した。
警察へ嘘をついた。
秋庭絵麻を助けられる可能性を、
自分で閉ざした。
そして現在。
その報いのように、
戸鳴隧道で消えた。
だが千尋は、
そこに単純な復讐だけでは説明できないものを感じていた。
「このカード」
折原が言う。
「犯人が欲しかったんですよね」
「たぶん」
「なのに唐沢を攫った」
「場所を聞き出すためかもしれない」
「まだ犯人はカードを持ってない」
「そうなる」
折原がメモリーカードを見る。
「じゃあ、これを手に入れたことが犯人に知られたら」
千尋は顔を上げる。
同時に。
捜査本部の電話が鳴った。
折原が取る。
「はい」
表情が変わる。
「鳴瀬さん」
「何?」
「県警の代表番号に」
「誰から」
「分かりません」
折原が受話器を差し出す。
千尋が取る。
「鳴瀬です」
無音。
「もしもし」
ザー。
わずかなノイズ。
その奥で、
呼吸。
「誰?」
返事なし。
「秋庭絵麻?」
息が止まった。
ほんの一瞬。
そして。
女の声。
低く、
静かに。
『見つけたんですね』
千尋は立ち上がった。
「何を?」
『八年前』
「あなたは誰?」
答えない。
「六人はどこ?」
沈黙。
「生きてるの?」
女が小さく息を吐く。
『まだ』
千尋の身体が固まる。
「まだって何」
『急いでください』
「場所を言って」
『あなたなら、もう分かる』
「分からないから聞いてる!」
初めて声を荒らげた。
電話の向こう。
しばらくして。
『運ぶ側は』
千尋の目が見開く。
メモリーカードの音声。
男が言っていた。
――荷物の行き先を、運ぶ側は知らなくていい。
女が続ける。
『行き先を知りません』
「何?」
『でも、止まる場所は決まってる』
「どこ」
ザー。
雑音が強くなる。
『ゼロから始めて』
そこで通話が切れた。
千尋は受話器を握ったまま動かなかった。
折原が聞く。
「何て?」
千尋はゆっくり顔を上げた。
「ゼロから始めろって」
意味はまだ分からない。
だが、
それが次の扉を開く言葉だということだけは、
なぜか分かった。




