第24話 見つけてほしいもの
唐沢岳人のパソコンに残っていた匿名メッセージは、
過去五年間で百件を超えていた。
ただし、
すべて同じ人物とは限らない。
情報提供。
嫌がらせ。
ファン。
仕事の依頼。
その中に、
明らかに異質なものが七件ある。
共通しているのは、
八年前。
返す。
見た。
という言葉。
最古のものは三年前。
《忘れても、なくなったことにはならない》
二年前。
《あなたが持っているものを返して》
一年前。
《あれを見れば、まだ誰かを助けられる》
そして今回。
《戸鳴へ来て》
千尋は画面を見ながら考える。
脅迫なら、
もっと直接的でいい。
警察に出すぞ。
殺すぞ。
金を払え。
そういう言葉がない。
相手は、
唐沢に何かをさせたい。
「返してほしいだけ?」
折原が言う。
「なら郵送先でも送ればいい」
「会いたかった?」
「かもしれない」
「復讐」
「それもある」
だが、
霞ヶ瀬で先に二人を消した説明がつかない。
今回の事件は、
唐沢だけのためではない。
少なくとも見かけ上は。
そこへ波多野朔から連絡が入る。
「唐沢のことで?」
『それもあります。でも別件です』
「何?」
『過去の失踪者を洗っていて、共通点が出ました』
千尋は姿勢を正す。
「三つの場所?」
『はい。失踪そのものではなく、その前後』
「何が」
『管理会社の作業』
資料が送られる。
失踪者。
日付。
施設。
その前後二十四時間以内。
東央施設サービス、あるいは関連会社による、
深夜作業。
廃材搬出。
機材移動。
清掃。
点検。
「全部?」
『確認できた九件中七件』
多すぎる。
「車両は」
『大型バン、箱型トラック。会社は違いますが、一部同じナンバーが使われています』
「同じ車?」
『名義変更されながら』
千尋は資料を見る。
車。
搬出。
人が消える。
秋庭絵麻の未送信文。
《あの車は、廃棄物を運んでいない》
何を運んでいた。
答えは、
考えたくないほど単純だった。
「人」
折原が呟いた。
千尋は否定しなかった。
「過去の失踪者を運んでた?」
「まだ仮説」
「でも」
「証拠を取る」
その日の夕方。
県警へ匿名の封筒が届いた。
宛名。
《鳴瀬千尋様》
差出人なし。
中身は、
USBメモリ。
紙。
一枚。
《探す場所を間違えている》
折原が顔を上げる。
「今回の犯人?」
「可能性はある」
USBは隔離環境で確認。
動画が一本。
画質は悪い。
夜。
古い倉庫のような場所。
大型車。
人影。
誰かが荷台から降ろされる。
両手を後ろに回されている。
顔は映らない。
撮影日。
八年前。
秋庭絵麻が失踪した翌日。
「誰が撮った?」
「分かりません」
動画の最後。
カメラが揺れる。
遠くから、
カン。
一回。
カン。
二回。
そして、
カン。
三回。
大型車の後部扉が閉まる。
ガチャン。
千尋の背中を冷たい汗が伝った。
「これが」
折原が言う。
「閉まるって意味?」
志乃。
あのとき。
三回目が鳴る前に、
閉まる。
と言った。
動画の最後に、
黒い画面。
白い文字。
《三回鳴ったら、人ではなくなる》
折原が息を呑む。
「どういう意味ですか」
千尋は答えられなかった。
人ではなくなる。
荷物。
番号。
搬送物。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
最後に、
もう一文。
《私を探さなくていい》
数秒後。
文字が切り替わる。
《まだ消されていない人を、見つけて》
映像終了。
捜査室は静まり返った。
千尋は画面を見続けた。
「私」
折原が言う。
「秋庭絵麻ですかね」
「分からない」
「でも八年前の映像を持ってる」
「だからこそ、本人とは限らない」
誰かが、
秋庭絵麻を知っている。
誰かが、
八年前の搬送を知っている。
そして。
誰かが、
警察に見つけさせようとしている。
千尋は初めて、
今回の犯人について、
別の可能性を考えた。
六人を消した人間は、
事件を隠したいのではない。
むしろ。
「こいつ」
千尋が言う。
「私たちに見つけてほしいんじゃない?」
折原が顔を上げた。




