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『三点鐘―三回鳴る夜、人が消える―』  作者: asnt2026


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18/20

第18話 後から生まれた怪談

新堂茉莉が残した研究資料は、


事件資料として読むには奇妙なものだった。


十五年前。


《三階に女が立っている》


十二年前。


《白い女が窓から見ている》


八年前。


《窓を移動する》


五年前。


《最後まで来ると人が消える》


少しずつ増えている。


「普通の都市伝説にも見えます」


折原が言った。


「問題はこれ」


千尋は投稿者名を並べる。


全部違う。


だが文章が似ている。


句読点。


改行。


「〜らしい」


「〜という話」


そして不自然なほど、


具体的な日時を書かない。


戸鳴も同じ。


最初は、


《子どもの声が聞こえる》


それだけ。


数年後、


《振り返ってはいけない》


さらに、


《名前を呼ばれる》


八汐も。


最初は、


《電話が鳴る》


後になって、


《出ると女の声》


さらに、


《電話が部屋を移動する》


「全部成長してる」


「誰かが足してる?」


「それを調べる」


県警のサイバー部門へ依頼。


古い掲示板。


ブログ。


閉鎖済みサイト。


キャッシュ。


可能な限り集める。


すると、


奇妙なことが分かった。


投稿場所は違う。


アカウントも違う。


しかし一部で、


同じネットカフェ。


同じ公共Wi-Fi。


同じ端末環境。


完全一致ではない。


だが偶然にしては多い。


「一人?」


折原が言う。


「一人とは限らない」


千尋は首を振る。


「何人かが役割でやってた可能性もある」


「何のために?」


答えがない。


怪談を有名にして、


何になる。


観光客が増えるわけでもない。


むしろ、


廃墟侵入者が増える。


「怖がらせたい?」


「十五年も?」


不自然だ。


そこへ波多野朔から電話が入った。


『面白いもの見つけました』


「面白いって言い方やめて」


『失礼しました』


「何?」


『三つの場所、昔は同じ施設管理会社が関わってます』


千尋は立ち上がる。


「会社名」


『東央施設サービス』


唐沢岳人が働いていた会社。


「いつ頃?」


『霞ヶ瀬が十二年前から八年前。戸鳴周辺は十年前から七年前。八汐は九年前から六年前』


重なる。


怪談が複雑になった時期と。


「資料送って」


『もう送ってます』


パソコンに届く。


会社概要。


廃施設の巡回。


危険区域管理。


撤去準備。


警備。


一見普通。


だが数年前に解散。


理由は経営悪化。


「関係者は?」


『代表は行方不明』


「行方不明?」


『三年前から』


「他は」


『転職、死亡、所在不明。それと』


波多野が少し間を置く。


『過去の社員に何人か、暴力団周辺者との接点がある』


千尋の表情が変わった。


「確実?」


『確定じゃありません』


「その状態で断定しないで」


『元記者なので』


「便利ね、それ」


通話を切る。


折原が資料を見る。


「怪談を作った会社?」


「まだ分からない」


しかし。


管理会社が入った。


その後、


怪談が強くなる。


偶然。


そう片付けるには、


三ヶ所全部で起きている。


さらに解析担当が呼ぶ。


「鳴瀬さん」


一つの古い投稿。


八汐レイクホテル。


九年前。


《夜中に内線が鳴った。女の声が聞こえた》


投稿者。


アカウント削除済み。


だが、


同じ人物が二週間前、


別の掲示板に投稿していた。


《八汐に行くなら裏手から入れる》


そこには、


通常知られていない管理用入口の説明。


千尋の目が止まる。


怪談を流している人物は、


場所の内部を知っている。


これは噂ではない。


現場を知っている人間。


「誰かが作ってる」


折原が呟く。


「昔から」


千尋は画面を見る。


なら。


今回の犯人は、


十五年前から活動しているのか。


それとも、


昔からある仕組みを、


誰かが今利用しているのか。


答えはまだ出ない。


だが一つだけ確かだった。


三つの怪談は、


自然に生まれたものではない可能性が高い。

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