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『三点鐘―三回鳴る夜、人が消える―』  作者: asnt2026


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17/19

第17話 声を作る場所

戸鳴隧道から見つかった音響機器は、全部で四台だった。


排水設備。


壁の点検口。


天井裏。


そして旧非常電話ボックス。


「よくこんなところに」


折原が呆れたように言う。


「心霊マニアが見つけなかったのが不思議ですね」


「見つからないように仕込んだんでしょう」


千尋は一台を見た。


古い。


傷だらけ。


だが内部だけ新しい部品へ何度も交換されている。


「少なくとも十年近く使われていた可能性があります」


技官が説明した。


音声はトンネル内の反響を利用している。


一方向から聞こえるように思わせ、


別の場所から鳴らす。


場所によっては、


前から聞こえた声が、


数歩進むだけで後ろから聞こえる。


「名前を呼ぶのも?」


「今回追加された音声ですね」


唐沢岳人。


藤枝琴葉。


二人の名前。


「匿名アカウントから情報を送ってる」


千尋が言う。


「行く人間が分かってれば、名前くらい用意できる」


「じゃあ八年前っていう声も?」


折原が聞く。


技官が首を振る。


「それが分からない」


登録されている音声。


泣き声。


子どもの笑い声。


「ねえ」


「こっち」


名前。


それだけ。


唐沢たちの映像に残っている、


《八年前のこと、覚えてる?》


《あなたは、私を知ってる》


この二つだけが存在しない。


「別の機器?」


「可能性はあります」


「全部調べた?」


「確認できる範囲では」


千尋はトンネルを歩く。


足元に赤い靴。


証拠として回収されたものと同じ型が、


もう一足見つかった。


左右そろっている。


新品。


「演出用」


折原が言った。


「でしょうね」


赤い靴。


子どもの声。


誰かが怪談を作っている。


単に驚かせるだけではない。


どうすれば人間が怖がるかを、


よく理解している。


千尋は壁の一点で止まった。


「ここ」


例の女の声が聞こえた場所。


壁。


何の変哲もないコンクリート。


叩く。


コン。


反響が少し違う。


「空洞?」


調べる。


古い点検口が塗装で塞がれていた。


開ける。


中には細いケーブル。


だが音響機器ではない。


古い電話回線。


「どこにつながってる?」


「追わないと分かりません」


技官が作業を始めた。


数分後。


隧道の管理棟跡へつながっていることが分かった。


完全に使われていないはずの回線。


「向こうから音声を流せる?」


「理論上は」


「今も?」


「回線自体は生きてません」


「なら違う」


千尋が立ち上がる。


そのときだった。


「ねえ」


全員が止まった。


子どもの声。


トンネルの奥。


技官が機器を見る。


「電源落としてます」


「全部?」


「全部です!」


折原がライトを向ける。


「誰かいる!」


返事なし。


「ねえ」


もう一度。


今度は近い。


千尋は走った。


折原も続く。


曲がりなどない。


一直線。


声がした場所。


誰もいない。


床。


壁。


天井。


「録音?」


折原が聞く。


「してる」


千尋は胸ポケットのレコーダーを見る。


記録中。


後から聞けば分かる。


それ以上、


声はしなかった。


捜査終了後。


録音を確認する。


水滴。


足音。


折原の声。


技官。


そして、


「ねえ」


入っていた。


一度目。


はっきり。


二度目も。


「機械止めてたんですよね」


折原が言う。


「そう聞いてる」


「じゃあ誰かが近くに」


「そう考えるのが普通」


千尋は再生を止める。


その直後。


録音の波形に、


もう一つ音があることに気づいた。


声の直前。


小さな金属音。


カン。


一回。


ただし、


現場にいた誰も、


その音を聞いていなかった。

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