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『三点鐘―三回鳴る夜、人が消える―』  作者: asnt2026


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第15話 幽霊のいない部屋

八汐レイクホテルの電話が鳴る仕組みは、ほぼ解明された。


「古い館内交換設備を生かしてあります」


技官が説明する。


残された配線へ外部電源を追加し、特定の電話を遠隔操作できる。


複数回線を順番に動かせば、


電話が人を追いかけているようにも見せられる。


《次は、あなた》


という声も録音可能。


折原が息を吐いた。


「じゃあ、八汐は人間が?」


「少なくとも電話は」


千尋は安心できなかった。


幽霊なら理由を考える必要はない。


人間なら、


目的がある。


「怖がらせるだけじゃない」


千尋は三地点の資料を見る。


霞ヶ瀬では、窓を移動する白い女から逃げるように人を動かす。


戸鳴では、声で人間を誘導できる。


八汐では、電話が逃げる方向を決める。


「怪異を使って、人を移動させてる」


そして、


決められた場所へ連れていく。


さらに鑑識結果。


霞ヶ瀬で見つかった白い繊維は、工業用不織布。


防護服に使われる素材だった。


「白い女も人間」


戸鳴では音響機器。


八汐では電話設備。


怪異の多くに人間の仕掛けがある。


だが千尋は新堂茉莉の研究資料を見て止まった。


霞ヶ瀬の怪談は十五年前からある。


女が見える。


白い女。


窓を移動する。


最後の窓まで来ると人が消える。


「今回のために作ったんじゃない」


折原も気づく。


誰かが、


何年も前から怪談を育てている。


その夜。


千尋たちは八汐レイクホテルで電話設備を再現した。


312号室。


リリリリリン。


311。


310。


順番に鳴る。


完全に説明できた。


「全部電源切って」


主電源。


補助バッテリー。


遠隔装置。


すべて停止。


「もう鳴らない?」


「絶対に」


撤収する。


廊下。


308号室を通り過ぎたとき。


リリリリリン。


全員が止まった。


館内電話が鳴っている。


技官が青ざめる。


「何で……」


「電源は?」


「全部切ってます!」


千尋は受話器を取った。


無音。


「誰?」


ザザ。


小さなノイズ。


その向こうから、


女の声。


「……見つけて」


千尋の手が止まる。


「何?」


切れた。


技官は断言する。


「この電話には今、音声を送る経路そのものがありません」


誰も何も言わなかった。


千尋は受話器を戻す。


その瞬間。


廊下の奥から、


カン。


一回。


仕掛けがある。


まだ見つけていないだけ。


説明できないことと、


説明できないものが存在することは違う。


千尋はそう考えた。


幽霊を信じたわけではない。


ただ、この事件について、


「あり得ない」


という言葉だけは使わないことにした。

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