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また、明日。  作者: 蒼空


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第六話  『君が望んだ今日』

忘れているだけで、

本当は最初から知っていたのかもしれない。


大事なことほど、

人間は簡単に失くしてしますから。

世界が軋んだ。


耳の奥で、

ガラスが割れるみたいな音が響く。


視界が白い。


頭が痛い。


でも、

それ以上に。


『ーー君を忘れるくらいなら、

  ずっと今日でいい』


その言葉が、

頭から離れなかった。


「......俺が、

  言ったのか」


気づけば、

そう呟いていた。


梨乃が苦しそうに眼を伏せる。


「......まだ、

  思い出さないでほしかった」


「なんで」


「君が壊れるから」


またその言葉。


でも今なら、

少しだけ意味が分かる気がした。


「俺、

  何を忘れる」


梨乃は答えない。


代わりに、

震える指でスマホを握りしめていた。


画面には、

まだ通知が残っている。


【ループ回数:38】


「......三十八回」


口にした瞬間。


頭の奥で、

知らない感情が揺れた。


懐かしい。


苦しい。


泣きそうになる。


「本当は、

  もっと多い」


梨乃が小さく言った。


「え」


「三十八回なのは、

  君が覚えてる回数だけ」


意味が分からない。


でも。


その言葉は、

妙に怖かった。


「......俺、

  何回死んでるんだ」


静寂。


その沈黙だけで、

嫌な予感がした。


梨乃は少しだけ笑う。


泣きそうな顔で。


「数えるの、

  やめたから分かんない」


胸が苦しくなる。


その言葉には、

”慣れ”があった。


何百回も繰り返した人間の、

壊れかけた諦めみたいな。


『思い出して』


周囲の人間たちが、

また合字に呟く。


感情のない声。


『君が望んだ』


『終わらせないって』


『また明日を』


「......っ!」


頭痛。


その瞬間。


また記憶が流れ込む。


夜の教室。


窓の外の雨。


机に突っ伏してなく梨乃。


『ごめん』


それは、

俺の声だった。


『俺、

  たぶんもう長くない』


息が止まる。


知らない。


そんな記憶。


でも。


心臓が、

潰れそうなくらい痛かった。


「......やめろ」


頭を押さえる。


梨乃が慌てて俺の肩を掴んだ。


「悠真!」


「なんだよそれ......!」


息が上手くできない。


知らない記憶なのに、

感情だけが本物すぎた。


「俺、

  なんでそんなことーー」


その瞬間。


世界がまたノイズみたいに揺れた。


ビルの輪郭が歪む。


空がちらつく。


まるで、

ゲームのバグみたいに。


梨乃の顔色が変わる。


「まずい......」


「何が」


「記憶が戻るの、

  早すぎる」


「は?」


「今までこんなことなかった......!」


その声には、

はっきり恐怖が混ざっていた。


次の瞬間。


ピシッ。


駅前の地面に、

黒い亀裂が走る。


「っ!?」


ありえない。


アスファルトの下。


そこには、

真っ黒な”何か”が広がっていた。


底が見えない。


闇みたいな穴。


『また明日』


周囲の人間たちが、

ゆっくりこちらへ歩いてくる。


『また明日』


『また明日』


『また明日』


「走って!!」


梨乃が俺の手を引く。


走る。


駅前を。


壊れ始めた夜を。


でも。


逃げながら、

俺は気づいてしまった。


梨乃の手が、

震えていることに。


「......怖いのか」


走りながら聞くと、

彼女は少しだけ黙った。


それから、

小さく笑う。


「怖いよ」


その声は、

今までで一番弱かった。


「だって、

  今の君はーー」


そこで、

梨乃は言葉を止めた。


「......?」


思い出したら、

  たぶん、

  もう戻れないから」


その瞬間。


世界が、

完全に止まった。


風も。


音も。


時間さえも。


そして。


夜空に、

巨大なノイズが走る。


『ーー38回目の修正を開始します』


知らない声が、

世界中に響いた。

第六話読んでくださってありがとうございます!


今回は、

主人公の”失われた記憶”と、

ループそのものの異常をかなり進めてみました。


ここから、

「なぜループしているのか」

だぇじゃなく、

”この世界自体が何のか”

にも近づいていく予定です。

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