第二十七話 『明日の向こう側』
別れは、
いつだって悲しい。
でも。
その悲しみの先に進むことを、
人は”生きる”と呼ぶのかもしれない。
白い光。
どこまでも、
どこまでも続く真っ白な世界。
音もない。
風もない。
ただ。
静寂だけが広がっていた。
「......ここは」
梨乃は、
ゆっくり目を開く。
見覚えがあった。
何度も訪れた、
あの白い空間。
でも。
どこか違う。
空気が、
穏やかだった。
壊れかけていた世界の不安定さも。
巨大な”目”の圧迫感も。
もうない。
「......悠真?」
思わず名前を呼ぶ。
返事はない。
当然だった。
分かっていた。
分かっていたのに。
胸が苦しい。
「......っ」
涙が溢れる。
止まらない。
何度も失った。
何度も救おうとした。
でも。
今度こそ本当に、
終わってしまった。
「そんな顔すんなよ」
声。
聞きなれた声。
梨乃が顔を上げる。
そこには。
朝比奈悠真が立っていた。
制服姿のまま。
いつものように、
少し困った顔で笑っている。
「......悠真」
言葉が出ない。
夢かもしれない。
幻かもしれない。
それでも。
悠真は、
ゆっくり歩いてくる。
そして。
梨乃の前で立ち止まった。
「泣きすぎ」
「......うるさい」
「目真っ赤じゃん」
そのやり取りが。
あまりにも、
いつも通りで。
余計に涙が出た。
「......なんで」
声が震える。
「なんで、
笑ってられるの」
悠真は、
少しだけ空を見上げた。
真っ白の空。
でも。
その先には、
静かに朝がある気がした。
「だってさ」
悠真は、
笑う。
「やっと明日が来るんだろ」
その言葉。
梨乃は、
何も言えなくなった。
今まで。
二人はずっと、
夜の中にいた。
23時46分。
終わらない時間。
終わらない別れ。
でも。
ようやく。
その夜が終わる。
「......私」
梨乃が頷く。
「怖い」
本音だった。
悠真がいない明日。
自分だけが生きる未来。
想像するだけで、
胸が潰れそうだった。
すると。
悠真は、
少しだけ笑う。
「知ってる」
そして。
優しく続けた。
「でもさ」
風が吹く。
白い世界に、
初めてが吹いた。
「俺も怖かった」
梨乃が顔を上げる。
悠真は、
どこか照れくさそうに笑った。
「死ぬかも」
「消えるのも」
「忘れられるのも」
その声は、
少しだけ震えていた。
「でも」
悠真は、
真っ直ぐ梨乃を見る。
「梨乃が生きてくれるなら、
それでいい」
その瞬間。
梨乃の涙が溢れる。
止まらない。
でも。
今までとは違う涙だった。
悲しいだけじゃない。
寂しいだけじゃない。
「......ずるい」
「何が」
「最後まで、
かっこつけるところ」
悠真は笑った。
「そうか?」
「そうだよ」
二人で、
少しだけ笑う。
その時。
白い世界の向こうに。
眩しい光が見えた。
朝日だった。
初めて見る、
本物の朝。
悠真は、
その光を見る。
そして。
静かに言った。
「行けよ」
梨乃は、
首を振る。
「嫌」
「子供か」
少しだけ笑い声が重なる。
でも。
もう時間は残っていなかった。
悠真の身体が、
少しずつ光になっていく。
「......あ」
梨乃の顔が青ざめる。
悠真は、
気づかないふりをした。
「梨乃」
最後に名前を呼ぶ。
「幸せになれよ」
その言葉に。
梨乃は泣きながら叫んだ。
「無理だよ!!」
「なんで」
「悠真がいないのに!!」
静寂。
悠真は、
少しだけ目を見開く。
そして。
今までで一番優しく笑った。
「じゃあ」
光が広がる。
「また会おう」
その瞬間。
悠真の姿が、
朝日に溶けて消えていった。
第二十七話読んでくださってありごとうございます!
今回は、
物語最大の別れを書きました。
次回、
いよいよ最終話。
『また、明日』
というタイトルの意味が、
本当の意味で明かされます。




