第二十六話 『終わりたくなかった夜』
”また明日”
その言葉を、
何度も繰り返してきた。
でも本当は。
明日が来ることが、
怖かっただけなのかもしれない。
23:46
時計の秒針が、
静かに止まった。
その瞬間。
病室の空気が、
変わる。
窓の外。
夜空に、
黒いヒビが走っていく。
ミシ、ミシ、と。
世界そのものが、
壊れていく音。
「......っ」
梨乃が、
息を呑む。
最初の世界。
全部が始まった夜。
でも。
前とは違った。
今の悠真は、
全部知っている。
この後、
全部知っている。
その後、
自分が願いば世界は止まる。
何度も繰り返した、
終わらない23時46分が始まる。
だから。
今度こそ、
願ってはいけない。
「......梨乃」
悠真は、
ゆっくり笑う。
苦しい。
怖い。
身体は、
もうほとんど動かない。
でも。
最後くらい、
ちゃんと笑いたかった。
「泣くなよ」
梨乃は、
何も言わない。
ただ。
涙を零しながら、
首を振っている。
「......無理」
その声が、
痛いくらい震えていた。
「無理だよ......」
病室の電気が、
チカッ、と点滅する。
空のヒビが、
さらに広がる。
世界が、
この瞬間を境に壊れ始めている。
「......ねえ」
梨乃が、
悠真の手を握る。
冷たい。
でも。
その温度だけは、
確かだった。
「行かないで」
静かな声。
でも。
今まで一番、
必死だった。
「お願いだから......」
悠真は、
ゆっくり目を閉じる。
本当は。
自分だって嫌だった。
まだ生きたい。
もっと話したい。
もっと、
一緒にいたい。
夏祭りとか。
放課後とか。
普通の未来とか。
全部、
欲しかった。
「......っ」
涙が滲む。
頭の奥で、
声が響いた。
『終わりたくない』
最初の願い。
世界を壊した感情。
『まだ、
梨乃といたい』
ノイズが広がる。
病室の景色が、
歪み始める。
まずい。
このままじゃ、
また同じことになる。
すると。
病室の隅に、
白い少女が現れた。
彼女は、
静かに悠真を見つめている。
「......選んで」
その声は、
少しだけ優しかった。
「また繰り返すか」
『ERROR』
『ERROR』
どこかで、
あの声が鳴っている。
白い少女は、
涙も流さずに続けた。
「それとも、
本当に終わらせるか」
悠真は、
震える手を握り締めた。
苦しい。
怖い。
でも。
梨乃を、
終わらない夜へ閉じ込める方が、
もっと嫌だった。
「......梨乃」
ゆっくり目を開く。
梨乃は、
泣きながらこちらを見ていた。
「ちゃんと、
明日へ行け」
その瞬間。
梨乃が、
崩れるみたいに泣いた。
「嫌だって言ってるじゃん......!!」
その叫びが、
胸を引き裂く。
でも。
悠真は、
静かに笑った。
「......ごめんな」
時計が、
最後の音を刻む。
カチ。
その瞬間。
悠真の身体から、
力が抜ける。
「......悠真?」
梨乃の声が震える。
返事はない。
静寂。
そして。
夜空のヒビが、
一気に広がった。
世界が、
白い染まっていく。
『最終修正を開始します』
あの声が響く。
でも。
今までとは違った。
白い少女が、
小さく笑っていたから。
「......これで、
やっと終われるね」
その言葉と同じに。
世界は、
完全な白へ飲み込まれた。
第二十六話読んだくださってありがとうございます!
今回は、
”最初の夜”での本当の選択を書きました。
そしてここから、
物語はいよいよラストへ向かっていきます。




