最終話 『また、明日。』
「また明日」
それは、
約束の言葉だった。
叶うか分からない。
会えるか分からない。
それでも。
大切な人に、
明日を願うための言葉。
蝉の声が聞こえる。
眩しい朝日。
青空。
どこまでも続く夏の空。
莉乃は、
ゆっくり目を開いた。
「……」
病院でもない。
白い世界でもない。
いつもの自分の部屋だった。
カーテンが揺れている。
窓の外から、
子供たちの声が聞こえる。
時計を見る。
【7:08】
朝だった。
本当の朝。
23時46分じゃない。
止まらない時間。
進み続ける世界。
「……終わったんだ」
ぽつりと呟く。
胸が痛む。
ちゃんと生きている。
ちゃんと朝が来た。
なのに。
涙だけが止まらなかった。
数ヶ月後。
夏は終わり。
季節は秋へ変わっていた。
世界は変わらない。
学校も。
街も。
みんなの日常も。
何も変わらない。
ただ一人。
莉乃だけが、
全部を覚えていた。
放課後。
帰り道。
踏切の前で足を止める。
カン、カン、カン――
警報音。
夕焼け。
あの日と同じ景色。
でも。
もう隣には誰もいない。
「……馬鹿」
小さく笑う。
そして。
少しだけ空を見上げた。
「ちゃんと生きてるよ」
返事はない。
それでも。
どこかで聞いてくれている気がした。
その時だった。
踏切の向こう側。
一人の男子生徒が歩いていた。
見たことのない制服。
見たことのない顔。
でも。
なぜか。
心臓が大きく跳ねる。
男子生徒も、
こちらを見た。
目が合う。
時間が止まる。
知らない。
初めて会う。
それなのに。
胸の奥が、
懐かしさでいっぱいになる。
男子生徒は、
少しだけ首を傾げた。
そして。
困ったように笑う。
その笑顔が。
あまりにも。
あまりにも。
懐かしかった。
「……あ」
莉乃の目から、
涙が零れる。
男子生徒が、
少し慌てた顔をする。
「えっと……」
聞いたことのない声。
でも。
聞きたかった声。
「大丈夫?」
その瞬間。
莉乃は泣きながら笑った。
「……うん」
男子生徒も、
つられて笑う。
風が吹く。
秋の風。
踏切が開く。
そして。
二人はすれ違う。
その時。
男子生徒が、
何気なく振り返った。
「じゃあ」
夕焼けの中。
どこか照れくさそうに。
当たり前みたいに。
彼は言った。
「また明日」
その瞬間。
莉乃は、
涙を流しながら笑った。
「……うん」
世界は進む。
季節も進む。
人も変わる。
別れもある。
でも。
きっと。
明日は来る。
だから。
また。
ここまで『また、明日。』を読んでくださり、本当にありがとうございました。
この物語は、
「終わらない夜」
ではなく、
「明日へ進むための物語」
でした。
何度失っても。
何度泣いても。
人は前へ進かなければならない。
そして。
大切な人との思い出は、
消えるのではなく、
きっとどこかに残り続ける。
そんな願いを込めて書きました。
第1話から続いてきた
23時46分
ループ
「また明日」
忘れたくない気持ち
その全てが、
この最終話へ繋がっています。
もしこの物語を読み終えたあと、
大切な誰かに「また明日」と言いたくなったなら。
作者として、
これ以上嬉しいことはありません。
最後まで読んでくださり、
本当にありがとうございました。
了




