第二十二話 『38回目の少女』
忘れたはずの夜は、
時々夢みたいに戻ってくる。
そしてその夢は、
決まって大事なことだけを思い出させる。
時計の針は、
23時46分で止まっていた。
カチ、カチ、と音だけが響く。
進まない時間。
終わらない夜。
「......なんだよ、
これ」
悠真は、
震える声で呟く。
さっきまで朝だった。
学校も。
梨乃も。
ちゃんと
”明日”へ進んだはずなのに。
なのに今、
世界はまた23時46分へ戻っている。
『悠真?』
スマホ越しに、
梨乃の不安そうな声が聞こえる。
『何が起きてるの......?』
「......わかんねえ」
でも。
一つだけ確かなことがあった。
”何か”が、
終わりを拒否している。
そして。
あの少女。
『ーー38回目の悠真くん』
その言葉が、
頭から離れなかった。
翌朝。
......いや。
”翌朝”という表現が、
正しいのか分からなかった。
空が朝なのに。
悠真の部屋の時計だけは、
まだ23時46分を指したままだから。
「......気持ち悪ぃ」
制服へ着替える。
でも。
鏡を見るたび、
違和感が増していく。
自分の後ろに、
誰かが立っている気がする。
振り向いても、
誰もいない。
でも。
確実に、
”見られている”。
教室へ入った瞬間。
悠真の明日が止まる。
「......は?」
教室の一番後ろ。
窓際の窓。
そこに。
昨夜テレビへ映っていた少女が、
座っていた。
白いカーディガン。
長い黒髪。
でも。
今度は、
ちゃんと顔が見える。
年齢は同じくらい。
不思議なくらい整った顔。
だけど。
その目だけが、
異様に冷たかった。
教室の空気が、
一瞬で凍る。
少女は、
ゆっくり悠真を見る。
そして。
小さく笑った。
「おはよう、
38回目」
背筋があ凍る。
「......誰だよ、
お前」
教室が静まり返る。
でも。
”見えていない”みたいに。
少女は、
頬杖をつきあいながら笑う。
「ひどいなぁ。
何回も会ってるのに」
「......は?」
その瞬間。
頭の奥で、
激しいノイズが走った。
『また失敗した』
『38回目を開始します』
『対象:朝比奈悠真』
知らない記憶。
でも。
自分の声じゃない。
「っ......!」
悠真は、
頭を押さえる。
すると。
少女が、
少しだけ楽しそうに笑った。
「思い出してきた?」
「......なんなんだよ、
お前」
少女は、
静かに立ち上がる。
そして。
悠真の耳元で、
小さく囁いた。
「私は、
”最初の失敗”」
その瞬間。
世界が、
一瞬だけ歪んだ。
教室の景色が、
ノイズ混じりに崩れる。
窓の外。
空の向こう。
巨大な”目”が、
こちらを見ていた。
「っ......!」
悠真が息を呑む。
でも。
誰も気づいていない。
梨乃だけが、
教室の入り口で立ち尽くしていた。
そして。
信じられないものを見るみたいに、
少女を見つめている。
「......嘘」
梨乃の顔から、
血の気が引いていく。
少女は、
ゆっくり振り返る。
そして。
泣きそうな顔の梨乃を見て、
静かに笑った。
「久しぶり、
”39回目の梨乃”」
時間が止まった。
「......39回目?」
悠真が呟く。
その瞬間。
梨乃の瞳から、
涙が零れ落ちた。
第二十二話読んでくださってありがとうございます!
今回は、
新キャラクターと、
”ループ回数”の核心へ触れる回でした。
そしてここから、
”ループの始めり”そのものが少しずつ明かされていきます。




