第二十一話 『残されたエラー』
終わったはうの夜が、
もう一度始まるなら。
それは、
誰かがまだ”明日”を諦めていないからなのかもしれない。
窓ガラスが砕け散る。
バキンッーー!!
「っ!?」
悠真は反射的に後ろへ飛び退いた。
次の瞬間。
暗闇の中から、
黒い手が部屋へ伸びてくる。
生き物みたいに蠢きながら。
「なんだよ、
これ......!」
呼吸が乱れる。
忘れたはずだった。
終わったはずだった。
なのに。
身体だけは、
この恐怖を覚えていた。
『逃げて』
スマホの向こうで、
梨乃の声で響く。
「梨乃!?
お前どこにーー』
その瞬間。
黒い手が、
悠真の足元を掴んだ。
「っ!!」
冷たい。
いや。
”存在を削られる”感覚。
触れられた場所から、
机がノイズみたいに歪む。
「うぁ......っ!!」
悠真は咄嗟に、
机を蹴って黒い手を振り払う。
その瞬間。
部屋の景色が、
一瞬だけ切り替わった。
夜の駅前。
壊れた空。
23時46分。
「......っ!」
頭痛。
記憶が流れ込む。
『世界正常化を開始します』
『エラー因子を修正』
『記憶削除完了ーー』
そこでノイズ。
まるで。
”何か”が正常化を妨害したみたいに。
「......まさか」
悠真は、
息を呑む。
終わっていなかった。
完全には。
自分たちは、
まだどこかで世界に残っている。
『悠真!!』
スマホ越しに、
梨乃が叫ぶ。
『そこから離れて!!』
次の瞬間。
黒い手が、
天井いっぱいに広がった。
「っ.......!」
部屋そのものが、
黒く浸食されていく。
壁。
床。
時計。
全部。
ノイズ混じりに崩れていく。
『エラー因子を再確認』
あの声。
感情のない、
機械みたいな声。
でも今度は、
前より不安定だった。
『......修正、
失敗』
その瞬間。
黒い手が、
突然動きを止めた。
「......え」
ノイズが走る。
ザーッ......ザーッ......
そして。
部屋の奥から、
別の声が響いた。
『だから言ったじゃん』
女の声。
知らない。
でも。
そこかで聞いた気がする。
『この世界、
もう壊れてるんだって』
その瞬間。
黒い手が、
一斉に消滅した。
部屋に静寂が戻る。
悠真は、
荒い呼吸のまま立つ尽くした。
「......誰だ」
スマホの向こうで、
梨乃も息を呑んでいる。
『今の声......』
その時。
部屋のテレビが、
勝手についた。
砂嵐。
ザーッ......ザーッ......
そして。
画面の中に、
一人の少女が映る。
白いワンピース。
長い黒髪。
でも。
顔だけが、
ノイズで見えない。
少女は、
ゆっくりこちらを見る。
そして。
小さく笑った。
『ーーはじめまして。
”38回目”の悠真くん』
時間が止まる。
「......38回目」
その言葉。
忘れたはずなのに。
胸の奥が、
嫌なほど覚えていた。
少女は、
ノイズ混じりに続ける。
『今回は、
ちゃんと終われるといいね』
その瞬間。
テレビ画面が、
真っ黒に落ちた。
静寂。
部屋には、
時計の音だけが残る。
カチ、カチ、カチーー
でも。
時計の針は。
23時46分から、
一歩も進んでいなかった。
第二十一話読んでくださってありがとうございます!
今回は、
”終わったはずの世界”に残っていた違和感を
本格的に動かしてみました。
そしてここから、
「ループの正体」そのものへ、
物語がさらに踏み込んでいきます。




