第二十話 『23時46分』
忘れてしまった恋は、
本当に終わった恋なんだろうか。
もし、
心だけが覚えていたなら。
「......めちゃくちゃ好きだった」
その言葉が。
夕焼けの中で、
静かに響いていた。
梨乃は、
何も言わなかった。
ただ。
泣きそうな顔で、
悠真を見つめている。
風が吹く。
踏切の音が止む。
でも。
二人とも、
その場から動けなかった。
「.......なんでだろ」
悠真が、
小さく呟く。
「思い出せないのに、
そう思った」
胸が痛い。
苦しい。
でも。
この感情だけは、
嘘じゃない気がした。
梨乃は、
少しだけ俯いて。
それから、
小さく笑った。
「......私も」
その声は、
少し震えていた。
「たぶん、
同じこと思っていた」
夕焼けが、
ゆっくり夜へ変わっていく。
その景色を見ながら。
悠真は、
ふと気づく。
「......なあ」
「ん?」
「俺たち、
どこかで会ったことあるよな」
静寂。
梨乃の肩が、
少しだけ揺れた。
「......どうしてそう思うの?」
「分かんねえ」
悠真は、
苦笑する。
「でも、
初めて会った気がしない」
その瞬間。
梨乃が、
泣きそうな顔で笑った。
まるで。
ずっと待っていた言葉を、
ようやく聞けたみたいに。
夜。
部屋。
窓の外には、
静かな夏の街が広がっていた。
悠真は、
ベッドへ倒れ込む。
「......はぁ」
今日だけで、
感情が揺れすぎていた。
梨乃の笑顔。
涙。
懐かしい感覚。
全部。
胸の奥を掻き乱してくる。
「.......なんなんだよ、
本当に」
スマホを見る。
【23:44】
その数字を見た瞬間。
胸が、
嫌な音を立てた。
「......っ」
呼吸が浅くなる。
嫌な予感。
理由は分からない。
でも。
この時間を、
身体が覚えていた。
23:46
その瞬間。
部屋の電気が、
一瞬だけ点滅した。
「......え」
悠真は、
ゆっくり顔を上げる。
すると。
窓ガラスに、
”何か”が映っていた。
黒い髪。
人の形。
でも顔がない。
「っ!?」
振り向く。
誰もいない。
「......なんだよ今の」
冷や汗が流れる。
すると。
スマホが震えた。
【非通知】
時間は、
23:46。
嫌な寒気。
でも。
なぜか、
出なきゃいけない気がした。
「......もしもし」
ノイズ。
ザーッ.......という音だけが聞こえる。
そして。
小さな声。
『ーーまだ、
終わってない』
その瞬間。
部屋の時計が、
逆回転を始めた。
カチ、カチ、カチーー
「は.......?」
窓の外が、
ノイズ混じりに歪む。
世界が揺れる。
頭痛。
そして。
頭の奥へ、
一気に記憶が流れ込む。
白い空間。
巨大な”目”。
『また明日』
『忘れても、
また好きになる』
『世界正常化を開始します』
「っ.......!!」
悠真は、
頭を押さえて床へ崩れ落ちる。
その時。
スマホの向こうから、
今度ははっきり声が聞こえた。
『悠真』
その声は。
間違いなく、
梨乃だった。
『逃げて』
次の瞬間。
部屋の窓ガラスが、
バキンッ、と割れた。
そして。
暗闇の中から、
”黒い手”が伸びてきた。
第二十話読んでくださってありがとうございます!
今回は、
”終わったはずの世界”が、
本当に終わっていたのかーー
という部分を描いてみました。
そして、
”本当の終わり”はまだ来ていないのかもしれません。




