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また、明日。  作者: 蒼空


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第十九話  『思い出せない恋』

人を好きになるのに、

理由なんてないのかもしれない。


気づいた時にはもう、

その人を目で追ってしまっているから。

放課後。


教室には、

夕焼けが差し込んでいた。


オレンジ色の光。


騒がしい教室。


笑い声。


でも。


悠真の視線は、

ずっと隣の席に向いていた。


「......」


梨乃は、

静かに教科書を鞄へ入れている。


その横顔を見るたび。


胸が、

少し苦しくなる。


「朝比奈ー」


友達が笑いながら肩を叩く。


「お前さっきから、

  転校生のこと見すぎ」


「......は?」


「分かりやすすぎだろ」


教室が少し笑う。


悠真は、

慌てて視線を逸らした。


「そんなんじゃねえし」


そう返したけど。


自分でも、

違和感はあった。


気づけば、

目で追ってしまう。


声を聞くだけで、

安心する。


知らないはずなのに。


「......」


その時。


梨乃が、

こちらを見た。


目が合う。


たったそれだけで、

心臓が跳ねた。


梨乃は少し困ったように笑って、

小さく手を振る。


その仕草が。


泣きたくなるくらい、

懐かしかった。


帰り道。


空は、

夏の夕焼けに染まっていた。


「......ねえ」


隣を歩きながら、

梨乃が口を開く。


「朝比奈くんって、

  彼女いたことある?」


「っ!?」


悠真は思わず咳き込む。


「な、なんだよ急に」


梨乃が、

少しだけ笑う。


「なんとなく」


夕焼けの風が吹く。


悠真は、

少し考えてから答えた。


「......ないと思う」


「思う?」


「なんか、

  自分の記憶信用できねえし」


その瞬間。


梨乃の表情が、

ほんの少し曇った。


「......そっか」


沈黙。


蝉の声だけが響く。


その時。


踏切の警報音が鳴った。


カン、カン、カンーー


悠真の足が止まる。


まただ。


この音を聞くたび、

胸が痛くなる。


「......朝比奈くん?」


梨乃が心配そうに見る。


すると。


頭の奥で、

一瞬だけ映像が流れた。


夜。


雨。


踏切。


泣いている梨乃。


『死なないで』


「っ......!」


呼吸が乱れる。


悠真は、

咄嗟に踏切の柵を掴んだ。


「朝比奈くん!?」


梨乃が慌てて駆け寄る。


その瞬間。


触れられた手の温度で、

また記憶が揺れる。


『また明日』


『忘れても、

  また好きになる』


知らないはずの言葉。


でも。


涙が出そうになるくらい、

大事だった気がした。


「......なんで」


悠真は、

掠れた声で呟く。


「なんで、

  お前といると苦しんだよ」


その言葉に。


梨乃が、

少しだけ目を見開く。


でも。


次の瞬間。


彼女は、

泣きそうな顔で笑った。


「......私も」


風が吹く。


夕焼けの光が、

二人を照らしていた。


梨乃は、

小さな声で続ける。


「一緒にいると、

  すごく苦しい」


胸が締め付けられる。


でも。


嫌じゃなかった。


むしろ。


この痛みを、

ずっと探していた気がした。


踏切が開く。


その瞬間。


梨乃が、

小さく呟く。


「......ねえ」


「ん?」


「もし私たち、

  前に会ってたとしたら」


夕焼けの中。


彼女は、

少しだけ寂しそうに笑った。


「ちゃんと、

  好きだったと思う?」


その質問に。


悠真は、

少しも迷わなかった。


「......たぶん」


胸の奥が熱くなる。


「めちゃくちゃ好きだった」


その瞬間。


梨乃の目から、

一粒だけ涙が零れた。

第十九話読んでくださってありがとうございます!


今回は、

”記憶を失った後の恋”

をテーマに描いてみました。


ここから、

失った記憶と、

今芽生えている恋が少しずつ重くなっていきます。

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