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また、明日。  作者: 蒼空


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第十八話  『君を知らないはずなのに』

記憶は消えても。


人を好きになる理由って、

案外ちゃんと心に残っているのかもしれない。

授業中なのに、

全然集中できなかった。


「......」


隣を見る。


柊梨乃。


転校初日だというのに、

静かにノートを取っている。


横顔。


黒髪。


細い指。


その全部に、

妙な既視感があった。


知らない。


今日初めて会ったはずなのに。


胸が、

ずっとざわついている。


「朝比奈、

  またぼーっとしてるぞ」


教室の声で、

慌てて前を向く。


教室が少し笑った。


でも。


その瞬間。


隣から、

小さな笑い声が聞こえた。


「......っ」


思わず振り向く。


梨乃が、

口元を隠して笑っていた。


その顔を見た瞬間。


頭の奥で、

何かが弾ける。


『また、

  授業聞いてない』


知らない記憶。


でも。


その声が、

あまりにも自然で。


「......え」


思わず固まる。


梨乃も、

少しだけ驚いた顔をした。


まるで。


同じものを感じたみたいに。


「......どうしたの?」


静かな声。


その一言だけで、

胸が苦しくなる。


「いや、

  なんでも」


そう返したけど。


全然、

なんでもじゃなかった。


昼休み。


教室は騒がしい。


でも悠真は、

ずっと窓の外を見ていた。


「......朝比奈」


声。


振り向く。


そこには、

梨乃が立っていた。


「屋上、

  行かない?」


その瞬間。


胸が、

大きく跳ねた。


理由が分からない。


でも。


”断っちゃいけない”


そんな気がした。


「......おう」


夏の屋上。


熱い風。


遠くで鳴る蝉の声。


フェンス越しの青空。


梨乃は、

フェンスの前に立ったまま、

しばらく黙っていた。


「......なんか変なんだよね」


ぽつりと呟く。


「何が?」


「朝比奈くん見てると、

  初めて会った気がしない」


心臓がお止まりそうになる。


悠真も、

同じだった。


でも。


それを言葉にするのが、

少し怖かった。


「......俺も」


その瞬間。


梨乃が、

ゆっくりこちらを見る。


風が吹く。


黒髪が揺れる。


その景色が、

なぜか泣きなくなるくらい綺麗だった。


「......夢、

  見るんだ」


梨乃が、

小さく言った。


「夢?」


「夜の駅前」


23時46分。


その数字が、

頭に浮かぶ。


「あと、

  壊れた空」


息が止まる。


「......っ」


頭痛。


ノイズ。


『また明日』


『忘れても、

  また好きになる』


断片的な声が、

頭の奥を駆け抜ける。


悠真は、

咄嗟に頭を押さえた。


「朝比奈くん!?」


梨乃が慌てて近づく。


その瞬間。


触れられた手の感触で、

また記憶が流れ込む。


雨。


泣いている梨乃。


『置いていかないで』


「っ......!」


呼吸が乱れる。


苦しい。


でも。


怖いより先に、

涙が出そうだった。


「......なんなんだよ、

  これ」


掠れた声が漏れる。


すると。


梨乃が、

少しだけ震える声で言った。


「......ねえ」


「......なんだよ」


「私たち、

  本当に初対面かな」


静寂。


蝉の声だけが響く。


そして。


悠真は、

ゆっくり梨乃を見る。


知らないはずなのに。


会いたかったと思ってしまう。


忘れているはずなのに。


また失いたくないと思ってしまう。


その瞬間。


悠真の口から、

無意識に言葉が零れた。


「......また明日」


梨乃の目が、

大きく見開かれた。


風が吹く。


そして彼女は、

泣きそうな顔で笑った。


「......うん」


その返事だけで。


胸の奥の何かが、

少しだけ満たされた気がした。


第十八話読んでくださってありがとうございます!


今回は、

”記憶がなくても残る感情”

を中心に描いてみました。


そしてここから、

二人は”失った記憶”ではなく、

”今の感情”で再び近づいていきます。

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