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また、明日。  作者: 蒼空


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第十七話  『知らない君』

人は、

全部を忘れても。


”好きだった気持ち”だけは、

案外どこかに残っているのかもしれない。

教室の窓から、

夏の風が吹き込んでいた。


「朝比奈ー、

  聞いてるかー?」


「......え?」


悠真は、

慌てて顔を上げる。


教室が笑いに包まれた。


「ぼーっとしすぎだろ」


「昨日ちゃんと寝たか?」


「......たぶん」


適当に返す。


でも。


本当に、

ずっと変な感じだった。


朝からずっと。


胸の奥が、

落ち着かない。


まるで、

何かを忘れているみたいな。


「......」


窓の外を見る。


青空。


蝉の声。


それなのに。


踏切で見た、

あの女子生徒の顔だけが離れなった。


「誰だよ......」


小さく呟く。


その時。


ガラッ。


教室のドアが開いた。


「転校生を紹介する」


担当の声。


教室が少しざわつく。


悠真は、

なんとなく顔を上げた。


そして。


息が止まる。


「今日からこのクラスになる、

  柊梨乃さんだ」


黒髪。


静かな目。


でも。


どこか困ったみたいに笑う表情。


朝、

踏切で会った少女だった。


「......っ」


胸が、

強く鳴る。


知らない。


はずなのに。


見た瞬間。


涙が出そうになった。


「柊です。

  よろしくお願いします」


その声を聞いた瞬間。


頭の奥で、

ノイズが走る。


『悠真』


誰かが、

自分を呼ぶ声。


『また明日』


知らない記憶。


雨。


夜の駅。


笑う梨乃。


「......っ」


思わず頭を押さえる。


「朝比奈?」


友達が不思議そうに見る。


「顔やばいぞ」


「......なんでもない」


でも。


全然なんでもよくなかった。


担任が、

空いている席を指差す。


「柊は、

  朝比奈の隣な」


時間が止まった気がした。


教室がざわつく。


でも。


悠真の耳には、

何も入ってこない。


梨乃が、

ゆっくりこちらへ歩いてくる。


その度に。


胸が苦しくなる。


懐かしい。


会いたかった。


でも。


”何を”なのか分からない。


梨乃は、

悠真の隣で立ち止まる。


そして。


少しだけ笑った。


「......よろしく」


その瞬間。



悠真の頭に、

一瞬だけ映像が流れる。


23時46分。


壊れた世界。


泣いている梨乃。


『忘れても、

  また好きになって』


「っ......!」


ガタンッ、と椅子が鳴る。


教室中の視線が集まった。


「朝比奈?」


担任の声。


でも。


悠真は、

梨乃から目が離せなかった。


すると。


梨乃が、

ほんの少しだけ目を見開く。


まるで。


”気づいた”みたいに。


そして。


誰も聞こえないくらい小さな声で、

彼女は呟いた。


「......思い出した?」


その言葉に。


悠真の胸が、

痛いくらい熱くなる。


でも。


思い出せない。


名前も。


記憶も。


全部曖昧なのに。


それでも。


この人を、

絶対に離したくないと思った。


その時。


窓の外で、

踏切の音が鳴る。


カン、カン、カンーー


その音に混ざって。


悠真は、

確かに聞いた気がした。


『また明日』

第十七話読んでくださってありがとうございます!


今回は、

”本当の明日”での再会を書いてみました。


ここから、

”記憶を失った二人”が、

もう一度関係を作っていく物語になっていきます。

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