第十六話 『はじめての明日』
朝は、
誰にでも平等に来る。
昨日を失った人にも。
大切な誰かを、
忘れてしまった人にも。
蝉の声が聞こえた。
眩しい光。
カーテンの隙間から、
朝日が差し込んでいる。
「......っ」
悠真は、
ゆっくり目を開けた。
白い天井。
見慣れた自分の部屋。
でも。
何かが、
おかしかった。
「......朝?」
掠れた声が漏れる。
スマホを見る。
【7:12】
朝だった。
23時46分じゃない。
夜でもない。
ちゃんと、
”次の日”が来ていた。
「......は」
頭が真っ白になる。
夢だったのか。
そう思いかけて。
胸の奥が、
ズキッと痛んだ。
理由は分からない。
でも。
とてつもなく、
大事なものを失くしてしまった気がした。
「......なんだよ」
起き上がる。
窓の外。
通学する学生。
青空。
普通の朝。
それなのに。
胸の中だけが、
ぽっかり空いていた、
まるで、
誰かがいなくなったみたいに。
「......気持ちわりぃ」
呟きながら、
制服へ着替える。
鏡を見る。
そこには、
少しだけ痩せた自分が映っていた。
でも。
ちゃんと生きている。
心臓も、
普通に動いていた。
「......病気」
その言葉が、
ふと頭をよぎる。
でも。
その先が思い出せない。
ノイズみたいに、
記憶がぼやけていた。
学校へ向かう。
夏の朝。
湿った風。
見慣れた通学路。
でも。
歩くたびに、
妙な違和感があった。
”何か”を探している感覚。
知らないはずなのに。
ずっと、
誰かを待っていた気がする。
その時。
踏切の音が鳴った。
カン、カン、カンーー
悠真の足が止まる。
胸が、
強く痛んだ。
「......っ」
頭の奥で、
何かが揺れる。
『また明日』
知らない声。
でも。
泣きそうになるくらい、
懐かしい声だった。
「......誰だよ」
気づけば、
そう呟いていた。
すると。
踏切の向こう側。
一人の女子生徒が立っていた。
黒髪。
見覚えのある横顔。
でも。
知らない。
はずなのに。
その瞬間。
彼女がこちらを見た。
時間が止まる。
胸が、
苦しいくらい鳴る。
彼女も、
少しだけ目を見開いていた。
まるで。
”同じ違和感”を感じているみたいに。
風が吹く。
蝉の声。
夏の匂い。
その中で。
彼女は、
少し困ったみたいに笑った。
そして。
小さく口を動かす。
『また明日』
踏切の音で、
声は聞こえなった。
でも。
悠真には、
何かが温かくなる。
思い出せない。
名前も。
記憶も。
全部失ったはずなのに。
それでも。
”もう一度、
この人を好きになる”
そんな確信だけが、
心に残っていた。
第十六話読んでくださってありがとうございます!
今回は、
”夜の終わり”の先にある、
本当の朝を書いてみました。
そして最後の
「また明日」は、
今までとは少し違う意味を持っています。




