第二話 覚えてない
人は、
同じ一日を何度も繰り返したら、
何を信じるんだろう。
記憶か。
感情か。
それともーー。
「......また失敗した」
その言葉が、
頭から離れなかった。
駅前。
23時46分。
同じ景色。
同じ夜。
目の前には、
さっきと同じ女子。
だけど今度の彼女は、
笑っていなかった。
「待って」
自分でも驚くくらい、
声が震えていた。
「今、俺......」
死んだ。
そう言おうとして、
喉が詰まる。
現実感がない。
でも覚えている。
白いライン。
轟音。
押された感触。
「......覚えてるんだ」
女子ーー柊 梨乃は、
少しだけ目を見開いた。
その反応が、
逆に怖かった。
「なんなんだよこれ」
「落ち着いて」
「落ち着けるわけーー」
言いかけた瞬間。
頭が痛んだ。
ズキッ、と。
脳の奥を搔き回されるみたいな痛み。
思わず顔を押される。
その瞬間。
知らない記憶が、
一瞬だけ頭をよぎった。
『また炭酸?』
笑い声。
夜のコンビニ。
でも、
そんな記憶は知らない。
「......っ」
「見えたの?」
梨乃が小さく呟く。
「何が」
「......ううん」
彼女は誤魔化すように視線を逸らした。
駅の時計。
23時48分。
秒針の音だけが、
妙に耳につく。
カチ、
カチ、
カチーー。
「時間がない」
梨乃が立ち上がる。
「今日は少し早い」
「だから何の話してんだよ」
「......君、
今日0時前に死ぬの」
言葉が止まる。
風が吹いた。
冗談には聞こえなかった。
「は?」
「正確には、
あと十一分くらい」
「いや意味分からねぇって」
「分からなくていい。
だから今日は、私の言う通りにして」
その言い方が、
妙に必死だった。
まるで本当に、
何度も同じ失敗してきたみたいに。
「......なんでそこまで」
聞いた瞬間。
梨乃は、
少しだけ悲しそうに笑った。
「好きな人には、
死んでほしくないから」
心臓が跳ねた。
でも言葉は、
告白みたいな甘さじゃなくて。
もっと、
ずっと重かった。
「......初対面だろ、俺たち」
そう言うと、
彼女は黙った。
その沈黙が、
何より怖い。
「ねぇ」
数秒後。
梨乃が静かに言う。
「君は、
”また明日”って言葉、好き?」
「.......普通じゃね」
「そっか」
彼女は少し笑った。
でも、
その笑顔はどこか壊れそうだった。
「私は嫌い」
「なんで」
「明日が来るとは限らないから」
その瞬間。
また頭痛。
視界が揺れる。
知らない景色が見えた。
夜の踏切。
閉じた遮断機。
泣いている梨乃。
そしてーー
『また明日』
誰かの声。
それが自分の声だと気づいて、
鳥肌が立った。
「......っ、ぁ」
息が詰まる。
今日のはなんだ。
夢?
記憶?
「まだ、
思い出さなくていい」
気づけば、
梨乃がすぐ近くにいた。
「まだ、
思い出しちゃだめ」
「なんで」
「君が壊れるから」
意味が分からない。
でも、
彼女の声は震えていた。
スマホを見る。
23時54分。
「......帰る」
無理やり言った。
これ以上、
ここにいるとおかしくなる。
そう思った。
でも、
梨乃は俺の制服の袖を掴んだ。
「行かないで」
その声は、
今にも泣きそうだった。
「今日はダメ」
「だから何がーー」
その時。
踏切の警報音。
カン、カン、カンーー。
梨乃の顔色が変わる。」
「......早い」
「え?」
「なんで今回ーー」
言い終わる前に、
彼女は俺の手を掴んだ。
冷たい。
「走って」
「は?」
「お願いだから!!」
その瞬間。
頭の奥で、
知らない”記憶”が重なった。
何度も。
何度も。
何度も。
同じ音。
同じ夜。
同じ涙。
ーーそして。
『ごめん』
誰かが泣いていた。
次の瞬間。
世界が大きく揺れた。
駅の時計。
23時46分。
「......また失敗」
目の前で、
梨乃が泣いていた。
でも今度は。
「......え?」
彼女が、
俺の顔を見て固まる。
「なんで」
その顔が、
初めて本気で同様した。
「なんで、
今回は記憶が残ってるの......?」
第二話読んでくださってありがとうございます!
今回は、
”違和感”と”記憶”をかなり意識して書いてみました。
実は、
何気ない会話や描写にも少しずつ意味を入れています。
特に、
・炭酸
・踏切
・「また明日」
・時間のズレ
この辺は今後かなり重要になっていく予定です。
もう少しでも続きが気になったら、
感想やブックマークしてもらえると嬉しいです!




