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春子と最強執事  作者: 白川れもん
19/20

好き。

「春子、好きだよ。凄く好き」


 紺は「好き」とよく言うようになった。

 その「好き」が、果たして恋愛感情なのか、私はまだ怪しんでいる。

 例えば、お気に入りのおばちゃんの作るコロッケや大好きなシュークリーム。どちらも取られたくないし「好き」だ。


 紺のは、そういう「好き」の可能性もある。

 なにせ私達は執事と主。役割も、生きている意味も、考え方も、恐らく違うだろう。



「あのさ、紺? ちょっと話したいんだけど」


 まず、私は話し合いの場を設けることにした。

 「好き」と連発されるのも、恥ずかしさがある。控えられるなら、控えてほしかった。特に、人前。


「嫌だ。僕は春子が好きなんだ。やっと言葉が見つかったんだよ? 好きな時に、春子が好きだと伝えたい」


「紺、嫌じゃないの。貴方は私の執事。私の言うことを聞くのが普通でしょ?」


「弱い春子に強すぎる僕。執事が主に恋をする。どちらも普通じゃない。ということは、言うことを聞かなくても、僕たちなら普通のことだよ」


 何を言っているのか…執事は執事らしくするのが一番に決まっている。

 それなのに。


「とにかく、恥ずかしいから止めてよね、人前では特に!」


「恥ずかしいって……春子、照れているの?」


 嬉しそうに、そう、それは満面の笑みで紺は問う。


「恥ずかしいのは、照れてるんじゃなくて……」


 私が弁解しようと強めの言葉を発すると、紺は追いかけるように笑う。


「照れているんだ! ふふ、僕に好きだと言われるの、そんなに恥ずかしい? 春子も僕のことが好きなんだね!」


 きゃっきゃっとまるで両想いが発覚し、耐えられない、というようにはしゃぐ紺。



「ちょっと待って! どうしてそうなるの!?」


「そうか、春子も僕が好きなんだ! 僕も好きだよ! 両想いだね! ってことは……そうだ! 今から僕たちは恋人になるんだ!」


「は!? ちょ、何言って……」


「僕たちは恋人になったんだ……ふふ、恋人か……僕、初めてだよ! そうだ! 報告しなきゃ!」


 否定するより先に、初めてなの!? 本当に? っていう衝撃より先に、紺は走り出していた。

 私の部屋を満面の笑みで出た。


 紺が走る反動により、私の身体が浮く。


 それを察したのか、紺は物凄い早さで引き返して来た。


「紺! ちょっ、危ないでしょ! 私達は二メートルしか……って、わっ!!」


 次の瞬間、私を抱き上げた。

 横抱きにし、少し頬を染めながら、真っ直ぐに私を見た。


 その表情に、悔しいが、顔が良い。格好いいと感じる自分がいた。

 忘れかけていたが、紺の容姿はめちゃくちゃ優れている。

 こういう時に、それを使ってくるのはゲーム上で言うチートバグというやつかもしれない。


「紺、あの……」


 言いたいことはたくさんあるのに、依然として顔を見上げることしか出来ない私。


「行こう!」


 幸せそうに微笑む紺に、どこへ? と聞き返せなかった。




「まあ! お付き合いを始めたの? それは嬉しいわ~! 良いことじゃない! 紺ちゃんなら大歓迎よ」


「ううん、お付き合いじゃないよ、春子のお母さん。僕たちは恋人になったんだ!」


「紺ちゃん、いい? 恋人は、お付き合いをしている状態なのよ。恋人とも言うし、お付き合いとも言うわ。で、紺ちゃんは彼氏で、春子は彼女になるのよ」


「……僕が彼氏?」


「ちょ、待って! お母さん、変なこと教えないでよ! 紺は間違えてるの! 勘違いなの!」


 私が吠えるが、二人の耳には入らなかったよう。


「彼氏っていうのは、彼女を守るよの。紺ちゃんが春子を守るの! って、あら? 今までと変わらないわね~」


「春子を守るのが彼氏である僕の勤め」


 真剣に、呟き、繰り返すように、紺は頷いていた。

 そして、目を輝かせた。


「春子に近づく男は僕が排除する!」


「そうよ! 紺ちゃん、その意気! 頑張って~」


 そして、どうしてここまで仲良くなったのか、二人でハイタッチをしている。


「ねえ! 聞いてってば! 紺のは勘違いで! 私は付き合った覚えはないの!」


 力一杯、声を張ると、二人でこちらを見た。

 笑っているのが怪しいが、注目されたため、力説する。


「だから、紺は勘違いしてて! 私は主と執事の関係のままで良いいの!」


「春子ったら、まあ~。やーね、恥ずかしがっちゃって……」


「春子は照れ屋だからね! 僕もそれは知ってたし。だから、大丈夫だよ! そんなところも好きなんだ!」


「あら~!! 紺ちゃん、男前じゃない!! うちの春子をよろしくね」


「任せてよ!」


 二人して頷き、そして、二人の間では決定事項になっているらしい。

 はあ、疲れる……そして面倒くさくなってきた。


 家の中だけなら、まあ良いか。


 そう思う、私であった。




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