↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春子と最強執事  作者: 白川れもん
18/20

好きの感情

「ってことが、あったの!」


 後日、学校で、椿に佐代子さんのことを話した。

 椿は終始、感心した様子で、真剣に聞いていた。


「その佐代子さんって人は、凄い人だね! Sランクの墨さんを操れるなんて……同じレベルじゃないと、とても無理だよ」


「じゃあ、佐代子さんはやっぱり凄い人なんだ!」


「言うなら、Sランク主ってところかな? 憧れるね」


「Sランク主。主の中でも、あるの? そういうの」


「ううん、あるわけじゃないけど、執事を完全にコントロール出来る人って、とっても有利なの。就職とか、家賃とか。いろいろ関係してくるの」


「就職……」


 確かに、佐代子さんは大手企業に勤めていた。

 この世界のルールを、改めて実感する。

 違うのだ、全てが。執事がいる方が地位が上がり、自分も執事も強ければ、それは、数倍にも跳ね上がる。


 就職も、住居も。何もかも、特別を味わうことができるのも、執事持ちばかり。


「恵まれたんだなー、私」


「……春子はSランク執事だもんね」


「でも、全然、コントロール出来ないし」


 宝の持ち腐れ。本当に、この言葉は私だ。


「春子の言うこと、僕はちゃんと聞いてるよ!」



 ……午前中なので忘れていたが、紺は影になっているんだった。

 にゅーっと影が紺の姿形を取り「春子は可愛いから、それで良いんだ!」と胸を張る。


 そういう問題ではない。そのことは、椿にもわかるだろう。



「あのね、紺。そういう訳じゃないの」


「でも、僕は春子の言うことを聞く、良い子だ!」


「だから、そういうことじゃなくて!」


 なんと言えば伝わるのか。


「……紺より、弱いでしょ、私は」


「僕はその方が良い!」


「私は良くないの!」


 何度言えばわかるのか。

 私は、弱いままでいてはいけないのだ。


「あの、紺さん。春子が弱くて、どうして良いの? メリットは……あんまり無いと思いますが」


 椿が、おずおずと紺に話しかける。

 確かに、と私は思った。いつも自分の主張ばかりで、紺の意見を聞いていなかったのだ。

 こういうところでも、私の主としての余裕が無かった。



「…………」


 紺は、椿に一瞬だけ視線を寄越したものの、答える気はないのか、すぐに私の影に戻ろうとした。

 それを私が引き留める。


「紺、私も知りたい。答えて」


「え、春子も? うーん、理由なんか簡単だよ。春子が弱い方が、僕が守れる。良いところ見せられるでしょ」


「春子に、良いところを見せたいのですか?」


 紺は、嫌そうにしたものの、椿の質問にも答えた。


「春子に良いところを見せれば、僕から離れなくなるでしょ? 僕を必要とする。だから、僕は強くて、春子は弱くなきゃいけない」


 ?? 何を言っているのか、いまいち理解が出来ない。

 私が紺を必要とする? 私が紺から離れられなくなる? だから、なんだというのか。よくわからない。


「……なるほど。」


 椿は理解したように、頷いた。


「つまり、紺さんは、春子にはずっと、傍にいてほしいと。ずっと、守ってあげたいと。そういうことですか?」


 私は椿を勢いよく見る。

 そして、目を張る。何を言っている? それは、まるで。


「まあ、そういうことだよ」


 次は紺を、見張る。

 え、それって……まるで。


「まるで、恋人になるのを望んでいるみたいですね。いや、むしろ、それを通り越して夫婦かな?」


「こ、紺? あの、わかっていると思うけど……」


 恋人? 夫婦? 主と執事はそんな関係などではない。もちろん、そんな関係になれるわけもない。


「恋人? 夫婦? どうして、僕が春子にそれを望むのさ」


「…………だ、だよね!」


 あ、焦ったー!!

 なんだ、そういう意味じゃないじゃないか! 椿、変な聞き方するから! と、椿を見れば、真剣に紺を見つめていた。


「……紺さんは、春子が好きなのでは?」


「え」


「え?」



 私と紺の声が重なる。


「そ、そんなわけ!」


「好きってなに?」


 否定の言葉と、紺の疑問が重なる。


「あ、えっと、椿……」


 好き、の説明など、よくわからない。


「あの、好き、は。恋愛感情ではないですか、と、私は思いました。なので、紺さんは……その、例えば、春子に恋人ができたら、どう思いますか?」


 目を見開いた紺。「恋人? それって、口づけしたり手繋いだりするやつ」呟き、そして、じー、と私を無表情で見つめ、一言。



「殺す」



 とよく通る声を出した。

 決して大きくはないが、威圧感みたいなものが、包んだ気がする。


「春子は僕だけのモノだから」


 私は、唖然と紺を見つめる。

 え、もしかして、本当に、恋愛感情?


「……それは、恋愛感情だと思います。紺さんは、春子が好きなんです。きっと」



「……すき。すき。好きって、ずっと一緒にいて、ずっと暮らして、ずっと考えていたい気持ち? これが好きなのか! 僕、この感情に名前があるとは知らなかった!」


 物凄い発見だ! と、紺は微笑む。

 好き、好き、と繰り返す。



「あ、あの……?」



 私は椿を見る。どうしたらいいの、と。


「ごめん、春子。先生に相談した方が良いと思う。私、執事が主に恋愛感情を持つのは、初めて見るの」


 申し訳なさそうな椿に、私は何も言えず、紺は「好き。春子、好きだよ」と繰り返す。



 私はいつも、例外ばかりだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。