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春子と最強執事  作者: 白川れもん
17/20

春子VS佐代子

 土下座する紺を、周囲を気にしながら、結局、許した。


 そして、連れてこられたのは、だだっ広い、何もない公園の一ヶ所。


「本当に、ここで?」


 紺を見上げると、満面な笑み。

 呆れる。こんなの、他人に見られたら頭が狂っていると思われるだろう。

「はあ、気が重い……」



 先程、土下座から顔を上げた紺は、真剣に、こう言った。


「墨の主と、クイズ対決して欲しい!」



 現在、私の手には、どこで買ったのか「ちーん」と鳴る、あの、お店などにあるベルを両手に包んでいる。


 何故、クイズ?

 何故、公園?

 そして何故、ちーん?


 全ての疑問を投げ掛ける為、再び紺を見上げる。が、紺はすでに私に微笑みかけるだけ。

 そして、口を開いたかと思えば「このベルも、春子が持つと可愛く見える! 勝ったも同然」と、全く伝わっていない。


「あのさ、紺。これ、おかしくない?」


「何が? 春子はいつも可愛いよ!」


「いや、そうじゃなくて!」


「じゃあ何? 緊張しているの? 大丈夫、僕がいるし、内緒だけど、墨より僕の方が強い!」


 ドヤっと胸を張る。


「……そうなの?」


 同じSランクにも、順位とか、そういうのがあるのだろうか?

 気になり、つい、聞いてしまった。

 案の定というか、紺はご機嫌になり、饒舌になる。


「そうだよ! 僕はね、Sランクでも上の方で、なんなら、一番って言うくらい、強いし頭も良い! ま、墨は、あの通り、頭はスッカラカンの、筋肉だけの奴だから、僕にかかれば、余裕だよ!」


「誰が! 筋肉だけだって!?」


 これまたボリュームのおかしい声。

 紛れもなく、墨、という執事だろう。


「なんだ、意外と早かったね」


 視線は私のまま、背後から聞こえた墨の声に、答える紺。どこまでもぶれない奴。


「ほー! これが、紺の主か!!」


 突然、目の前に現れた。さっきまでは、まだ距離があると思ったのに。私を、真っ直ぐ見る。

 墨は、想像よりもずっと、細身で、派手だった。赤髪で、口元にピアス。

 服の上からでもわかる、筋肉質な身体。

 ヤンキー風の、普通に、好感の持てる外見。


「近寄るな、穢れる」


 まるで、視線だけでも、許されない、というように、紺が間に割って入った。

 私に背を向け、表情はわからないが、機嫌が良くないのは、明らかだ。


「おいおい! 何もしちゃいねーだろ! 俺は!」


「……視線がうるさかった! 僕の春子を惑わすな、この変質者!」


「はぁ?!!」


 紺の、なんとも理不尽な、怒りのぶつけ方。

 墨も納得のいかない、なんなら、手が出そうなくらい、紺に大声を出しかけた時ーー。


「止めなさい、墨」


 凛、とした、芯のある、美しい女性の声。

 墨の主だ、と直感した。


 たまらず、振り返る。


「ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」


 美しく長い白髪が、下へさらりと垂れる。

「いえいえ!」私の声に、深いお辞儀から頭を上げた。


 美人だった。

 あれ、紺のB専発言は、やはり嘘だったのだ! そう、思うくらい、切れ長の二重、通った鼻筋、美しく、ふっくらとした唇。そして、髪に似合う、真っ白な肌。

 背も高く、モデル並みに美しいボディ。


 勝てるわけがない! 


「あれ? お前の主、整形しただろ!」


「何を言う! 整形等という、小賢しい真似、俺の佐代子がするはずないだろう!」


「じゃあ、化粧が上手くなったのか。そういえば、前に見た時は、まだ未成年だったな。ま、どっちでもいいけど」



 化粧? そんな風には見えないけど……。

 まじまじと見ていたら、ふいに、佐代子さんが私を見た。びくっと身体が跳び跳ねる。私、失礼なことした! 

 私に目が来て、そして、気づいた。あ、化粧が濃い、と。

 紺の話は本当だったのか!


「紺さん、お久しぶりです。そして……貴女が主さんですね? わたくし、日野佐代子ひのさよこと申します」


「あ、わ、私は、三星春子です」


「……想像よりずっと、若々しくて、可愛らしくて、驚きました。この度は、墨が騒がしくて申し訳ありません。度々、注意はしているのですが、どうにも、ボリュームが下がらなくて」


 私への褒め言葉を、紺に向けて言った辺り、この佐代子という人は、よくわかっている人だ。

 案の定、紺は一瞬で気分が良くなる。


「まあね! 僕の春子は世界一だ! とても可愛くて優しいから、墨なんて許してあげるよ!」


「ありがとうございます」


 佐代子さんと墨は、関係がしっかりしているのか、あのうるさい墨が、佐代子さんの後ろで、静かに見守っているだけ。全く口を挟んでこない。

 佐代子さんに任せているのか、佐代子さんが話している時は、大人しくしている条件なのか。


 凄いな、そう思った。

 紺は、私より話して、決定権まで出している。違いが明確だった。




「さて、この場で勝負、と聞いております。なんでも、どちらが可愛いか、という勝負だとか」


「あ、その、それが……これみたいで」


 私は、両手で包んでいた、お店の呼び鈴「ちーん」を顔の前に出した。

 佐代子さんは、一瞬、引くように、目元がピクピクしたと思ったら、次の瞬間には、咳をして、切り替えた。


「……では、やりましょうか。ルールはありますか?」



「いや、ないよ! 春子は墨の、佐代子は僕の質問に答えてもらうだけでいい」


「質問に答えるだけなの?」


 そんな事で、可愛さなんてわかるだろうか?


「うん。どれだけ僕らの事を知って、理解しているか。それだけで、僕と墨には十分だから」


 ……そんなんで良いのか。

 派手に土下座したわりには、案外、大したことない。


「じゃあ、僕からね、佐代子に質問! 墨の趣味は?」


 一瞬の迷いもなく、ベルを鳴らす佐代子。「ちーん」


「散歩している犬の犬種を当てること」


「正解~、さすが長年、主なだけあるね」



 ほえー、そういう質問に答えるだけで良いのか。

 ぼーっと眺めていたが、気づいた。

 私、紺のこと知らなくない!? 何も、答えられないのでは? ヤバイ!!

 そんな事で良いのか、って思っていたけど、私には「そんな事」じゃなかった!

 これ、ストレート負け確定じゃない?


「あ、あのさ、紺?」


 どうしよう、と相談するために、一歩踏み出せば、墨はすでに側にいた。


「じゃあ、次は! 俺だな! 春子よ、よく聞け! 紺の好きなものは、何だ!?」


「え、あの、まって、えっと……」


「答えるときは、ベルだよ、春子!」


 紺は嬉しそうに、私に話す。

 なんて言うべきか。


 そんな紺を見て、答えを閃いた!

 だが、それは、とてもリスクが高いというか、気恥ずかしいというか。

 たが、他に思い付くものはないし、紺は期待の眼差しでいっぱい。「ちーん」



「えっと……わ、私?」


 しーん、と静まり返るように思える。

 間違えただろうか、自惚れだと、ドン引きだろか? 消えてしまいたい、と顔を伏せたとき。



「正解だ!! よくわかったな!」


 墨の驚いた、大きな声が聞こえた。

 ほっとするのもつかの間、紺が飛んできた。


「春子~!! やっぱり僕のことを理解しているんだね! 僕も、春子のことなら任せて!」




 二問、三問、とどんどん進んでいった。

 私への質問は「紺が守りたいと思う人」「紺の一番のお気に入り」など、これまで私は、答えに困ることはなく、全て「私」と答えてきた。


 そして、全て正解だった。喜んで良いのか、ドン引きするべきなのか、微妙なところ。



「最終問題! 墨の夢は?」


 紺が佐代子さんに問う。


「…………」長い沈黙の後、佐代子さんは「執事界で、最強になること」と答えた。


「ざんねーん! はい、佐代子は失格」


 紺の高らかな声に、佐代子さんは無表情で答えた「そうですか」と。

「答えは、墨から教えてもらうんだね」


 紺は、もうどうでも良さそうにしていて、私に視線を移し「春子、チャンスだよ!」と笑う。



「では! 俺も同じものを! 紺の夢は?」


 紺の、夢? もちろん、将来の夢だろう。

 なんだろう? わからない。これまで聞いたこともないし、流石に「私」と答えるのは、違う。

「私の執事であり続けること」これも違う気がする。「私と一緒にいること」これも、変だ。


 そもそも、紺の夢に、私はいないかもしれない。




 ベルを鳴らし、素直な感情「わからない」と答えた。

 紺、ガッカリしただろうか。

 チラリ、と視線をやると、目を見開いて私を凝視していた。ああ、やっぱり、ガッカリしているんだ。

 信じられない、と思っているんだ。私は主なのに。予想も出来ない。



「春子……僕、なんで?」


 よろよろと、私に近づいてくる紺。


「あ……ごめん。私、紺のことーー」


 本当は何も知らないの! と、叫ぶ寸前。



「どうして………………わかったの!? 春子は、やっぱり僕の春子だったんだ! 流石だよ! 僕が春子のことを知っているのは、当たり前だけど、春子も僕を知ってくれていたなんて!! 相思相愛ってやつだったんだ!」



「……え?」


 何の話だ? と首を傾げている間にも、紺は私に抱きつき「春子!」「春子~」と猫のように頭を擦り付ける。


「流石だな! 正解だ! 紺の夢は、わからない、だ! 完敗だ、悔いは無い!」


「そうね。良い関係が築けているようですね、三星さんと紺さん。羨ましいです。わたくしは、まだまだでした。お恥ずかしい限りです……勝負してくださり、ありがとうございました」


 再び、深く、お辞儀をする佐代子さん。

 それに合わせ、墨も同じ動作。


 そっちの方が良い関係築けているよね?


「あの、こちらこそ! ありがとうございました」


 私はお辞儀をする。が、紺は感動しているのか、私から離れようとせず、まだ「春子!」を繰り返している。


 紺の様子に苦笑いしていると、佐代子さんが目を細めた。


「主と執事、という関係は、まだのようですね。ここで会ったのも縁。せっかく負けてしまったので、何かあれば、気軽に相談して下さい」



 佐代子さんは、名刺を手渡してきた。

 見れば、大手企業で企画の仕事をしているという文字。


「佐代子さん、あの、良いんですか?」


 相談しても、良いのだろうか?

 年齢も何も違う、大人の女性。だけれど、私にとっては、初めて会ったSランク執事を持つ、主。

 私には、相談したいことが山のようにある!

 だが、佐代子さんには、私に用など何もないはず。




「もちろんです。わたしくも墨も、友は少ないですし、Sランク執事を持つ人は、滅多にいません…………その、周りから、奇妙な眼で見られることもあると思います。それに、わたくしなら、人生としても、主としても、お手伝いする事が出来るかと思いますから」



「あ、ありがとうございます! 私、まだよくわからないことだらけで……連絡しても、良いですか?」



「もちろんです。待っていますね」


 ふわっと柔らかく笑う佐代子さんは、やっぱり美人だった。

 こういう人が、Sランクを執事にしている、と思うと、納得する。


 私とは、全く違う。

 しっかりもしていないし、大手企業に勤められる気もしない。Sランクをコントロールすることも、出来るか危うい。



 目標にしたい! そう、思える人だった。日野佐代子さん。




 この勝負が、後に佐代子さんから「わたくしが負けた可愛い春子さん」と呼ばれる日が来ることになるとは、思ってもみていない。




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