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春子と最強執事  作者: 白川れもん
15/20

可愛い春子※紺視点

紺の視点です。

いつもより暴走気味なきがする……。

「ねえ、春子、ぎゅーってしよ」


 僕が笑顔で求めれば、春子は眠そうに目を擦りながら「はい」と両手を広げてくれる。


 春子は僕の腕にすっぽりと収まり、シャンプーの香りが鼻を擽る。僕も同じシャンプーのはずだけど、どうしてだろう? 春子の香りは、僕より心地よくて、ドキドキする。


 春子の頭に頬を擦りつける。暖かくて、柔らかい。


 春子は可愛い。もう離したくない。ずっとこうしていたい。それから、やっぱり可愛い。

 ……本当は、きっと、もっと言葉がある。可愛い以外の、春子に対する僕の感情を正確に表す言葉。でも、僕は、それを知らない。


 急に、春子が重くなった。

 もしや、と期待を胸に、耳を澄ます。


「…………」


 春子から、規則的な寝息が聞こえていた。


「ふふ、馬鹿だなあ」


 何回かに一度、こうして寝てしまう時がある。

 この瞬間が、僕は毎回、抱き潰してしまいたくなるほど、嬉しくなる。


 無防備で全く僕を警戒していない寝顔。

 僕を信用しているんだ、と思うと、満たされる。


 春子がどこまで察しているか知らないが、少なくとも、この瞬間を味わいたくて「ぎゅーってしよ」を、夜の、寝る前にしている。



「僕は……春子が思うより、ずっと」


 そう呟いて、止めた。

 ずっと、計算高くて、卑怯で、いやらしい。


 だけど、それを春子に知られてしまったら、僕は春子を失うことになるかもしれない。




 人間に使えるのだけは、嫌だ。

 そう、思ってた。


 外面ばかり良くて、嘘を簡単につき、裏切る。見ることだけは出来た僕は、春子に喚ばれる前から、ずっと、そういう汚い人間ばかり、眺めてた。


 いつか、自分が力を手に入れた時に、汚い人間を、難なく消せるように。



「本当に良いのか、紺よ」


 十八になった年、執事の偉いジジイが、僕に言った。


「この人間は汚れきっている。本当に、このような人間の執事になりたいと、希望すると?」


「……はい。僕は、この人間にします」


 暴力、窃盗、殺人、薬物、詐欺。

 刑務所を出たり入ったりしている、中年男。人間のグズの、集合体みたいな奴。


 そんな男の執事になりたいと、僕は希望した。


 ジジイや他の奴には言わなかったが、僕がこの人間を希望したのは、なにも執事として使えよう、など、微塵も考えていなかった。

 

 むしろ、その逆。

 破滅させ、殺そうと考えていた。

 



 ……執事は万能で便利だけれど、決して安全ではない。

 危険に陥れようと思えば、主だろうが、簡単だ。殺すことも、容易い。



 僕の計画は、こうだった。


 この男に付き、汚い人間を、若いのを中心に次々と殺し、一回、人間の歴史に、ストップをかけ、綺麗にする。

 そのタイミングで、主にも死んでもらい、人間の歴史を、新しいものへする。


 その頃から、僕は優秀だったし、これくらいのことなら、朝飯前だった。



 計画の実行を胸に、僕は男の執事になった。召喚された。その数日後に、僕の運命は大きく変わった。




 ベッドへ運んだ春子の寝顔に、顔を寄せる。

 そして、静かに、ゆっくり、口付けをした。ただ、合わせるだけの、優しい口付け。そして、ゆっくり、離れる。


「僕は運命の出会いをしたんだ……ねえ、春子」





 たまたま、主になった男と公園へ行ったとき。

 男は、そこにいる野良猫を、恐らく、殺すつもりで足を運んだのだろう。仮釈放だった男は、ストレスが大きかった。


 蓮の池の淵で、目的の猫を発見したが、先客がいた。



 それが…………春子だった。

 赤いランドセルを背負い、しゃがんで、楽しそうに、優しそうに、白黒の猫に話しかけていた。

 春子は、このとき、小学四年生だった。


「今日はね、学校のテストだったの。全然駄目だったけど、赤点のお陰で、やっと話しかけてくれる人がいて、友達になれそう! お前は友達、見つかった?」


 問いかけを理解しているのか、猫はにゃーと、鳴いて、足にすり寄った。


「そっかー、駄目だったか。そういう日もあるよ! 明日も明後日も来るから、一緒に友達、見つけよう」


 春子の言う友達、とは、飼い主のことなのか、猫仲間のことなのか。わからなかったが、心が洗われた気がした。


 今になって思えば、人間でいう「癒される」って感情だと思う。


「だから、希望を持っててね。待っている分だけ、きっと良い友達ができるよ! 私は信じてる。最悪、私が友達になってあげるから」



 恐ろしいことに、ここまで、独り言である。僕たちの存在に気づくとこもなく、猫に話しているとはいえ、誰もいない中、春子はずっと楽しそうに笑っていた。



 この子、良いな。

 この子が毎日来てくれるなら、この猫も幸せだろう。そう、心の底から思った。こんな人間もいたのか、と。





 隣で、男が動くのが見えた。


 男の目には、癒しなど灯っておらず、猫を狙っていた目には、今は楽しそうに無邪気に笑う小学生が映っていた。


 この子を殺すのか。

 瞬時に理解できた僕は、それより早く、男の喉を切り裂いた。男がそれに気づくより、血が吹き出すより早く、身体を拘束し、より、人気の無い、草むらの中へ連れ込む。


 そして、男が事態に付いていけず、唖然としている内に、口を押さえ、その両目を、抉ることにした。

 もう二度と、あの子が映らぬように。



 そのまま、じっとしていれば、喉や目から出血した男は、やがて動かなくなった。

 主が死亡した場合、数分後に、執事は強制的に還らされる。


 僕は身だしなみを整えて、女子小学生の元へ向かった。


「こんにちは、可愛い猫ですね。名前はなんと?」


 僕に出来ることは限られていて、時間までも、限られている。早急に、この子の名前を知る必要があった。


「あ……えっと、まだつけてなくて」


 突然現れた僕を見て、びくっとしたあと、様子を伺うように、おずおずと話始める春子は、あの時から可愛かった。


「そうなんですか。君の名前は? 君の名前から取ってつけてあげた方が、この猫も喜ぶよ」


「え、そ、そうですか? 私は……春子ですけど」


「春子? じゃあ、その猫、春って名前でも良いかも。僕はね、紺って言うんだ。春子、名字は?」


「こん……? あ、えっと、名字は、三星」


「三星春子、ね。わかった。良い名前だね。その猫、早く飼い主が見つかると良いね。僕みたいに」



 三星春子。

 僕はしっかりと頭に入れて、還った。いつか、春子の執事になるために。



 執事が主を変えることができるのは、主が死亡した時のみ。



 幸運にも、あの時の僕の行動は正解で、すぐに春子の執事になることが出来た。

 春子に適正が無かったため、召喚には時間がかかったけど。それでも、見てるだけでも楽しくて。

 全然、苦じゃなかった。



 今、僕はとても幸せだ。

 春子もそうだと良いなあ。


 僕もベッドに入り、春子を抱くようにして、眠りにつく。明日の春子も楽しみだ。



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