↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春子と最強執事  作者: 白川れもん
14/20

甘やかしたら、だめ、絶対

 最近、よく紺が怒るな、と思い始めた。


 些細なことで騒ぎ、もとから言うことの聞かない紺は、更に聞かなくなった。


 特に騒ぐのが、午後の授業。

 執事の授業だから、当たり前と言えば、当たり前なのだけれど……椿の執事、黄に、特に絡む。


「おい、弱虫。弱いと大変だね、この授業。楽じゃないもんね。ま、僕は強いから、暇なくらいだけど」


 得意気に紺が笑う。

 黄も、前回の件があるせいか、どことなく、紺にだけは、過剰反応を見せる。


「……負け犬こそ、よく吠えるというもの」


 一見すれば、見つめあっているように思えるが、目は氷のように冷たい両者。

 そこへ、私と椿が、割って入る。


「紺、駄目だよ!」


「黄、落ち着いて。最近、なんだか変よ?」


 優しい椿の声を、遮るように、鳴く紺。


「おい、弱虫! 僕がお前より弱い訳がない!」


「紺! 駄目ったら!」


 私の制止も、あまり効き目がない。

 私を飛び越えるようにして、紺が騒ぐ。


 また、前回の宥め方を、実践する。


「えっと、ほら、よく聞いて?」


 頭を撫で、軽く、抱き締める。軽く、なのは、やはり気恥ずかしい。

 最近、気づいたことだが、このとき、紺がよく私の肩に頭を擦り付けてくる。まるで、匂いをつける動物のように。


 そして、満足そうに、息を吐くのだ。先ほどまで怒りを宿していたとは思えないほど、穏やかな鼓動と、深呼吸。



 これまで、数回と様子を見てきたが、これは、確信しても良いだろう。



 紺は、私の、この行為を、待っている。

 頭を撫で、抱き締めるのを、待っているのだ。



「ねえ、紺?」


 確信した途端、紺が黄に、執拗に絡む理由も、同時に検討がつく。なるほど。


「んー? なあに?」


 今だ、私の肩や首筋に、ぐりぐりと頭を押し付けてくる。心なしか、背中に回る紺の腕にも、力が籠り、拘束されている気になる。


「紺は、最近、よく怒るよね。特に、午後の授業で、相手は黄」


 努めて冷静に、けれど、笑って話せることでもない。


「うん、だって、あの弱虫、ムカつくんだもん」


「でも、黄は、紺に何か言っているわけじゃないよ。いつも、紺から、黄に喧嘩を売るよね?」



「そうかな? 弱虫が先に睨んでくるんだよ」



「紺は、黄と喧嘩がしたいって風に、見えるんだけど?」


 ビクッと、紺が少し大袈裟に、身体を強張らせる。何が言いたいのか、理解したみたいに。


「そ、そんなことないよ!」


 僕は、春子以外が嫌いなだけ! と、更に私をきつく抱き締める。


「……はあ」


 ため息も、漏れるものだ。

「ねえ、紺。一回離れて?」


 午後の授業だが、幸い、今日はテストみたいなもので、主の名前順に一人ずつ体育館にて、佐川先生と面談という名の、何かをするみたいだった。

 先に終わった椿曰く、体育館に入った途端、不意を突いて主を攻撃したとき等の、執事の対応を見るのだとか。

 だが、主と執事によって内容は変わるらしく、私はまだわからない。


 一人ずつのため、その他の生徒は、とりあえず校庭で待機だった。

 三星の私は、まだまだ先だろう。


「……春子、怒ってる?」


 紺は、私の静かな怒りに、不安になったのか、私の背に回る腕のまま、距離を取った。私を捨てられた小動物みたいな目で見つめてくる。


「うん、怒ってる」


「ご、ごめんなさい!」


 伝わったのか、ぱっと私から離れ、なぜか目の前に正座をした。

 そして、何度も謝る。


「紺。どうして私が怒っているのか、わかってるの?」


「それ、は……」


 視線を泳がせ、瞬きの回数が早くなる。わかってないな。


「あのね、これ、私の想像だけどね。紺が黄に絡むのは、私にこうされたいからだって、思ったの」


 言いながら、ゆっくり近づき、抱き締める。そして、頭も撫でる。一連の動作を終えたあと、私は離れ、紺の顔を除き込んだ。違う? と。


 紺は下唇を噛み、潤んだ瞳で、私を見た。


「……そうだよ」


「どうして、こんなことのために、黄を……」


 私が言い終わる前に、紺は吠えた。


「こんなことじゃないよ! だって、ああやって怒らないと、春子は僕に触れてくれないから! 僕が、触ってって言ったら、春子は僕に、今みたいに触れてくれた?」


 言葉に詰まった。

 注意するはずが。あまりにも、紺が泣きそうで、それでいて切羽詰まったような、苦しそうな顔をするものだから、私は何も言えなくなった。

 怒る気にも、もうなれない。


「……僕、春子と仲良くしたいだけなのに」


 そういえば。

 周囲を見渡せば、皆、執事を尊重している様子が、窺えた。

 椿も、紺と揉める黄以外は、優しく、丁寧に話していた。「どうしたの?」「何か気になる?」など。


 私は、紺にこんな優しいトーンで話したことがあるだろうか。そして、気にかけてあげたことが、あるだろうか。


「…………紺、あの」


「僕は、ただ、春子に、もっとかまってほしい」



 消え入りそうな声で、呟いた。


「……ごめん、ね。私、ちょっと、冷たかったよね、紺に」


「は、はるこ」


 震えた声で、私を見上げた。

 同時に、私も紺に合わせてしゃがむ。


「ただし、これからは、もう少し、私の言うことも聞くこと!」


「……じゃ、じゃあ! 毎日、ぎゅーってしてくれる?」


 う、毎日、か。

 暫く考える仕草をしてから、決意した。


「いいよ。その代わり、紺が勝手に、今回みたいなことをしたら、怒るよ。許さないからね?」


 許さない、と言ったのに、紺の表情には、喜びが浮かんだ。


「わ、わかった! ありがとう、春子!」


 そして、ごめんね、とも。



 その夜、寝る前になって、妙にニヤニヤした紺が「ぎゅーってしよ」等と言われ、仕方なく、応じることにした。


 それ以降も、寝る、というタイミングで、紺が求めるものだから、眠気と戦いながら、私は答える。


 これは、ごく希にだが、そのまま寝てしまうことすらある。朝起きた時、目の前に満面の笑みを浮かべた紺がいる。そして、私達は、抱き合っている。

 という、なんとも言えない、叫びたくなるような状況。


 すぐに紺をベッドから押し出すけど、寝ているあいだ、朝まで。それも、嫁入り前の年頃の娘が……泣きたくなる。





 そんな生活のある日。ふと、これ、紺に嵌められたんじゃないか、という疑問が頭を過ったのは、言うまでもない。



 ただ、よく眠れるようには、なった。

Twitterもよければ見てね

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。