一触即発
授業後。
今回、改めて知った、私のコントロール不足。
紺から主導権を握れず、辺りを一掃。そして、ますます私を見る目が冷たくなっていく、クラス。
帰りのホームルーム前。つまり、少しの休み時間みたいなものにも、ひそひそと、相変わらず遠巻きに私への視線を感じる。居心地が悪い。
別のクラスの生徒まで増えてきた。
そんな中、一人笑顔で私の傍にいる紺。
「春子、今日の晩ご飯は何だろうね? お腹空いたなー」
また夕飯の話か。
いつだったかも、言っていたな……。
「執事ってお腹空くの早いの?」
それとも、私が居心地の悪さに空腹など感じていないだけか。
「春子だからだよ、僕は」
私だからお腹が空くって、どういう意味? と首をかしげる。
「だって、春子、弱いから。僕に流れてくる力が弱いから、すぐお腹空くんだ」
「紺に流している、私の力?」
そんなもの、いつ出している?
腕を見ても、どこを見ても、何も出ていない。紺を見ても、普通の生徒と、馬鹿力以外は変わらない。
「あれ? 春子知らないの?」
首をかしげ、そして、何か思い立ったように、次第に満面な笑みを浮かべる紺。
「春子はしょうがないなー! 僕がいなきゃ、何にも知らないんだから! ……でも、春子はそのままで良いんだよ」
よしよし、と私の頭を撫でる。
「ちょ、そういうのいいから! で、私の力って何? 紺に命令する力?」
今まで、散々言われてきた、執事を操る系の力、だろうか。
「うーん。それとは、ちょっと違う。僕らは食力って呼んでる。まあ、法力とも言うけど」
「食力? 法力?」
さっぱり分からず、混乱する。
「僕らは春子みたいな主が必要でしょ? 主がいないと、こっちに来れない。でも、一度来てしまえば、維持は簡単なんだ。食べ物からでも、僕らは力を得ることが出来る」
もちろん、主の食力が強いに越したことはないけれど。と、笑った。
なるほど、食事からでも得られるから、食力なのか。
「じゃあ、私の食力は、どこから?」
そもそも、私のどこに食力なんてあるのか。
「春子、放課後予定なければ、どこか行かない?」
その時、何も知らない椿が話しかけてきた。
紺の機嫌が一気に悪くなる。
「……邪魔するなよ、春子は今、僕と話してるんだ。一人で行けば?」
冷たい声と態度に、椿は怯んだ。
それを見た黄は、椿を庇うように前に出る。
「……黄」
驚いたように椿が声を出すと、黄は可愛らしい声で紺に向かい合った。
「椿守るの、自分の役だから」
紺はどうでもよさそうに返す。
「ふーん、あ、そう」
紺は私に視線を戻し、いつもの笑顔で、話しかけようと、口を開いた時。
黄が声を上げた。
「自分、こんな我が儘で自分勝手。主の言うこと聞かないデレデレなだけの奴に、負けない」
紺の眉が、ピクリ、と反応した。
あ、やばい。何故か、そう理解した。
「……春子の前で、僕を侮辱するなんて……死にたいんだ?」
目は光を宿しておらず、ゆっくりと黄に視線を移した。
怒りが私まで届く。
「こ、紺! 駄目よ!」
「黄! 止めて!」
私と椿の焦った声が室内に響き、他の生徒達は談笑を止め、周囲から視線を感じる。
「止めないで椿。執事でありながら、主の友人に何度も高圧的な態度をとり、牽制するのは、執事の恥。執事の恥は、主の恥でもある」
黄が、意図的に私を見た。
視線に気づいた紺は、更に怒りを増す。
「春子まで侮辱するの? 許さない。この、弱虫が! 僕と春子の邪魔をする、くず」
「駄目よ、紺! 止めて、こんなところで!」
私はすぐに止めにかかった。このままでは、黄を殺してしまうかもしれない。
それは椿も感じたのか、黄を抱き締めて止めている。いや、言い聞かせている?
効果はあるらしく、黄は、戦意を若干失い欠けている。
一方の紺は
今だ唸り、噛みつく寸前の大型犬のように、相手を睨んでいる。私の声なんか、届いていない。
抱き締める……か、そうか、そういう方法もあるのか、と、私も見習うことにした。
「こ、紺! 駄目よ、えっと、聞いて?」
横目で椿を見つつ、見よう見まねで紺を抱き締める。
頭を撫で「落ち着いて」と声をかける。
黄と紺では、かなりの体格差だから、椿のようにはいかないが、なんとか同じ方法を試みた。
なかなかに恥ずかしいが、背に腹は代えられない。
ぐるるるるる、とひたすら唸っていたはずの紺が、いつの間にか聞こえなくなった。
効果あったのか? と、紺を見れば、戦意はどこへやら。嬉しそうに私にすり寄っている。猫ならば、ゴロゴロと喉を鳴らしていただろう。
「春子~、もっと撫でて~!」
あまりの豹変ぶりに、呆気に取られる。
「こんなんで良いの……?」
「ねえ、春子ー! もっと僕にくっついて、ぎゅーってして!」
ニコニコと上機嫌で甘えてくる紺に、脱力し、次第に怒りを覚える。
なんだ、そんなに怒ってなかったのではなかろうか。
横目に黄を見れば、椿に言い聞かされて、頷き、飴を貰っていた。
マスクで表情はわからないが、嬉しそうにしている。紺の事など、恐らく頭から飛んでいる。
執事は皆、こうなのだろうか。
「はい、もうお仕舞い」
担任もクラスに入ってきたし、ちょうど良い、と手を離す。
「え、何で? もっと! 春子ー」
知らん振りして席につけば、不貞腐れ「また怒れば撫でてくれるの?」と私の様子を伺う。
「違う! もう先生来たから終わりなの」
不満気な紺を無視し、ホームルームを受けた。
この時、きちんと紺に説明していれば、これから起こることを防げたかもしれない。
数時間後、私は後悔した。
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