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春子と最強執事  作者: 白川れもん
13/20

一触即発

 授業後。


 今回、改めて知った、私のコントロール不足。

 紺から主導権を握れず、辺りを一掃。そして、ますます私を見る目が冷たくなっていく、クラス。


 帰りのホームルーム前。つまり、少しの休み時間みたいなものにも、ひそひそと、相変わらず遠巻きに私への視線を感じる。居心地が悪い。

 別のクラスの生徒まで増えてきた。


 そんな中、一人笑顔で私の傍にいる紺。


「春子、今日の晩ご飯は何だろうね? お腹空いたなー」


 また夕飯の話か。

 いつだったかも、言っていたな……。


「執事ってお腹空くの早いの?」



 それとも、私が居心地の悪さに空腹など感じていないだけか。



「春子だからだよ、僕は」



 私だからお腹が空くって、どういう意味? と首をかしげる。



「だって、春子、弱いから。僕に流れてくる力が弱いから、すぐお腹空くんだ」



「紺に流している、私の力?」


 そんなもの、いつ出している?

 腕を見ても、どこを見ても、何も出ていない。紺を見ても、普通の生徒と、馬鹿力以外は変わらない。


「あれ? 春子知らないの?」


 首をかしげ、そして、何か思い立ったように、次第に満面な笑みを浮かべる紺。


「春子はしょうがないなー! 僕がいなきゃ、何にも知らないんだから! ……でも、春子はそのままで良いんだよ」


 よしよし、と私の頭を撫でる。


「ちょ、そういうのいいから! で、私の力って何? 紺に命令する力?」


 今まで、散々言われてきた、執事を操る系の力、だろうか。



「うーん。それとは、ちょっと違う。僕らは食力って呼んでる。まあ、法力とも言うけど」


「食力? 法力?」


 さっぱり分からず、混乱する。


「僕らは春子みたいな主が必要でしょ? 主がいないと、こっちに来れない。でも、一度来てしまえば、維持は簡単なんだ。食べ物からでも、僕らは力を得ることが出来る」


 もちろん、主の食力が強いに越したことはないけれど。と、笑った。


 なるほど、食事からでも得られるから、食力なのか。


「じゃあ、私の食力は、どこから?」


 そもそも、私のどこに食力なんてあるのか。



「春子、放課後予定なければ、どこか行かない?」



 その時、何も知らない椿が話しかけてきた。

 紺の機嫌が一気に悪くなる。


「……邪魔するなよ、春子は今、僕と話してるんだ。一人で行けば?」


 冷たい声と態度に、椿は怯んだ。

 それを見た黄は、椿を庇うように前に出る。


「……黄」


 驚いたように椿が声を出すと、黄は可愛らしい声で紺に向かい合った。


「椿守るの、自分の役だから」


 紺はどうでもよさそうに返す。


「ふーん、あ、そう」


 紺は私に視線を戻し、いつもの笑顔で、話しかけようと、口を開いた時。

 黄が声を上げた。


「自分、こんな我が儘で自分勝手。主の言うこと聞かないデレデレなだけの奴に、負けない」


 紺の眉が、ピクリ、と反応した。

 あ、やばい。何故か、そう理解した。


「……春子の前で、僕を侮辱するなんて……死にたいんだ?」


 目は光を宿しておらず、ゆっくりと黄に視線を移した。

 怒りが私まで届く。


「こ、紺! 駄目よ!」


「黄! 止めて!」


 私と椿の焦った声が室内に響き、他の生徒達は談笑を止め、周囲から視線を感じる。


「止めないで椿。執事でありながら、主の友人に何度も高圧的な態度をとり、牽制するのは、執事の恥。執事の恥は、主の恥でもある」


 黄が、意図的に私を見た。

 視線に気づいた紺は、更に怒りを増す。


「春子まで侮辱するの? 許さない。この、弱虫が! 僕と春子の邪魔をする、くず」


「駄目よ、紺! 止めて、こんなところで!」


 私はすぐに止めにかかった。このままでは、黄を殺してしまうかもしれない。


 それは椿も感じたのか、黄を抱き締めて止めている。いや、言い聞かせている?

 効果はあるらしく、黄は、戦意を若干失い欠けている。


 一方の紺は

 今だ唸り、噛みつく寸前の大型犬のように、相手を睨んでいる。私の声なんか、届いていない。



 抱き締める……か、そうか、そういう方法もあるのか、と、私も見習うことにした。


「こ、紺! 駄目よ、えっと、聞いて?」


 横目で椿を見つつ、見よう見まねで紺を抱き締める。

 頭を撫で「落ち着いて」と声をかける。


 黄と紺では、かなりの体格差だから、椿のようにはいかないが、なんとか同じ方法を試みた。

 なかなかに恥ずかしいが、背に腹は代えられない。



 ぐるるるるる、とひたすら唸っていたはずの紺が、いつの間にか聞こえなくなった。


 効果あったのか? と、紺を見れば、戦意はどこへやら。嬉しそうに私にすり寄っている。猫ならば、ゴロゴロと喉を鳴らしていただろう。


「春子~、もっと撫でて~!」


 あまりの豹変ぶりに、呆気に取られる。


「こんなんで良いの……?」


「ねえ、春子ー! もっと僕にくっついて、ぎゅーってして!」


 ニコニコと上機嫌で甘えてくる紺に、脱力し、次第に怒りを覚える。

 なんだ、そんなに怒ってなかったのではなかろうか。


 横目に黄を見れば、椿に言い聞かされて、頷き、飴を貰っていた。

 マスクで表情はわからないが、嬉しそうにしている。紺の事など、恐らく頭から飛んでいる。



 執事は皆、こうなのだろうか。



「はい、もうお仕舞い」


 担任もクラスに入ってきたし、ちょうど良い、と手を離す。


「え、何で? もっと! 春子ー」


 知らん振りして席につけば、不貞腐れ「また怒れば撫でてくれるの?」と私の様子を伺う。


「違う! もう先生来たから終わりなの」


 不満気な紺を無視し、ホームルームを受けた。



 この時、きちんと紺に説明していれば、これから起こることを防げたかもしれない。

 数時間後、私は後悔した。






Twitterはじめたので、よろしくお願いします!

次話投稿内容や更新は、Twitterにて呟きますので、繋がって頂けたら嬉しいです!

ちょこたたん (@tyokotata66)

https://twitter.com/tyokotata66?s=09



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