執事あり、の授業②
先ほどのが準備体操としたら、これからどうなるのか、気が気ではない。
どんな戦争が始まるのだろうか。
本当に、そう思い、覚悟していると、手渡されたのは、はちまき。ご存知、赤色の長細い布、はちまきだ。
「では、これより騎馬戦を始める!」
騎馬戦?
騎馬戦ってあの、運動会とかでやるやつだよね?
「ねえ、椿。騎馬戦って、普通のやつ?」
「えっと、普通かどうか分からないけど、執事が主を抱えて、主が他の主のはちまきを奪うんだよ。この前も、こういう授業だったの」
「……普通と違うね」
私の知っている騎馬戦は、三人で馬をやり、上に乗る人が大将の、あの騎馬戦だ。
佐川先生が、吠えた。
「さあ、皆、準備だ! 執事は主を抱え、守り、逃げ回れ! そして、主の皆は、はちまきを奪え! ちなみに、はちまきを奪うのは、主のみ。執事は、はちまきに触れないこと」
生徒は、すぐに、はちまきを頭に巻く。
そして、執事は主を、それぞれの抱え方で持ち上げる。
ある執事は、お姫様抱っこ。
椿を見れば、黄に背負われていた。
おんぶ、だろう。黄は小さいのに、やはり執事なのだ。平気そうな顔をしている。
あ、遠くの方に、山本くんがいた。
「わー! 本当に、双子なんだね!」
小さい双子。小学生くらいだろうか。
小さいのに、目力はある。そしてキッチリしている。
髪もきちんとセットしてあるし。
二人で山本くんの、手と足。頑張って抱えている。ように見えるだけで、顔は涼しい。
力は執事なのね。
「可愛いね、紺!」
紺に話しかけたのが、まずかった。
「そう? ぜんっぜん可愛くないね。だって、笑ってないし、生意気そうだ」
あ、やばい。そう思った。
紺は、嫉妬深かった。
「あ、そ、そうだ! 私たちも準備しましょう!」
「準備って、何の?」
紺は、可愛らしく傾げる。
「いや、今、佐川先生が言ってたし、皆準備しているでしょ?」
「佐川って、だれ? 僕、何も言われてないよ。春子、話聞けって言わなかった」
残念そうに、眉を下げるが、口元は笑っている。
全く手のかかる執事だ。
「えっと、私がはちまきを奪うから、紺は私のはちまきが奪われないように、私を抱えて逃げれば良いの」
……たぶん。
騎馬戦ってそういうゲームだよね?
「あ、私が地面に落ちても駄目なの!」
そうだ、確かこんな感じだった。
「春子を誰にも触れさせなければいいんだ! そう?」
「ま、まあ、だいたいそうで……あ、でも、皆のはちまきは取らないと」
よいしょ、と言いながら、紺は、視界から消えた。
「え、あれ、紺?」
「なに?」
私の足の間から、声がした。
下を向けば、紺の後頭部がよく見える。
「……何してるの?」
「こうするの!」
ぐわっと、紺は起き上がり、私の身体は中に浮く。
「きゃああーー!」
もしかしなくても、肩車されたのだ、紺に。
視界が高い、広い。
高さから恐怖が襲ってくる。
「な、ななななな! なに! ちょ、紺!」
思いっきり紺の頭にしがみつく。
怖い怖い怖い! なんなの!
「だって、この方が、はちまきを取られないよ? それに、これなら春子は落ちないよ!」
「そういう問題じゃないの! 周り見て! 誰も肩車なんてしてないから! 怖いから!」
「大丈夫! 僕、絶対に落とさないよ!」
任せて! と笑顔でこちらを向く。
馬鹿だ、なんて馬鹿な執事を入手したの、私……。
私は紺の頭や髪、耳と、掴んだり、叩いたり。とにかく嫌がらせを試みる。
「くすぐったいよ、春子?」
「降ろしてよ! 痛いでしょ?」
「ぜーんぜん、平気! 春子からなら、僕にとっては何だってご褒美だよ」
下から見上げる春子も可愛い、と喜んでいる。
痛さも感じないのか、それとも、本気でご褒美なんて異常なことを言っているのか、わからない。
降ろして! 平気! と押し問答を繰り返すうち、ピーっと佐川先生が合図した。
「では、始めるぞ!」
このままでは、本当に始まってしまう。
「ちょ、ちょっと待って下さい、佐川先生!」
周りの生徒のヒソヒソした声も聞こえる。
そうだよね、反則だよね。肩車なんて、誰一人いないもん。
背負われてる人が、ほとんどだもん!
「なんだ、三星はまだなのか? じゃあ、先にルールを説明する。執事ランクに合わせて、点数が比例する。Dは一点、Cは二点、Bは三、Aは四、Sは五 点! はちまきに小さく印がついているからをなー!」
え、なにそれ! と、私は慌てて確認すると、S五、と書いてあった。本当だ!
「なお、はちまきを奪った点数の合計を、そのまま今日の授業の点数にする! 頑張れよ! 自分のはちまきも、点数に含まれるからな!」
……ということは、え? 私、もう五点持っている、ということ?
「やったね、春子!」
いやまてまてまて!
つまりは? もしかしなくても、皆もこのはちまきを狙うのでは?
「紺! やっぱり降ろしてよ! ねら、狙われる!」
「大丈夫だよ! 僕が阻止するから」
満面な笑みで、僕は頼りになるでしょ? と喜んでいる。
そんなこと、求めてないから!
「ちょ、紺、本当に……」
「では、始め!!」
もたもたしているうちに、始まってしまった。
最悪だ! 今さら紺に訴えても、地に足が着いたら負けてしまう。
周囲を見渡せば、私のはちまきを視界に入れている人がちらほら。
やっぱり、私かな?
「おい、俺と組もうぜ」
「えー? あ、なるほど、五点狙うわけね、良いよー」
こそこそと、聞こえる。
最悪だ。チームでも組んでやられるくらいだ。
どうしようか迷っていると、紺が動く。
「きゃっ!」
紺にしがみつきながらも、見ると、どうやら背後から狙われていたみたいだ。
「ちっ! おい、そっち行ったぞ!」
なに? もう、皆、私じゃん!
Sランク潰そうチームじゃん!
「春子! ほら、こいつの取れるよ!」
物凄い勢いで走りながら、紺は私に訴える。
視界には、誰かのはちまき。相手は気づいているにも関わらず、紺の速さに付いていけていないみたいだった。
「いや、わたひも無理だから!」
風圧が凄い。
紺の頭に、両手でしがみつかないと、維持できない。
目の前に、はちまきがあって、手を伸ばせば届く。タイミングをみて、何度も紺は寄ってくれるが、怖くて片手も離せない。
「春子? 取らないの?」
「こ、怖いの!!」
え、大丈夫? と、一度距離を開け、他の生徒たちとの距離が一定の範囲まで来ると、紺は私を見た。
心配そうに、眉を下げている。
「だから、肩車は駄目だって……言ったのに」
「ごめん、春子、そんなに怖かったの? ごめんね、僕のせいだ。じゃあ、お詫びに僕がゲームを早く終わらせるね!」
「え?」
何をするの、と聞く前に、紺は動いた。
緩めていた腕に、再び力が入る。怖い。
それでも逃げまいと、目を開ける。
なんと、紺は執事を蹴った。足を払い、胴体に蹴り。
私の足を掴んでいるため、動かせるのは足だが、それはないだろう。
「うわっ!!」
反動で執事は、バランスを崩し、主を地に落としてしまった。それどころか、執事も地面に伏せ、悶えている。
「ちょっと! 何をしているの! 駄目でしょ、紺!」
「だって僕、執事への接触については、なにも言われてないもん」
「だからって!」
紺は次へ行くと、鮮やかに落としていく。
紺の上にいるからこそ、見える行動。私には影くらいしか見えないから、きっと相手は驚いているだろう。
「だ、駄目だって!」
引っ張ったり、叩いたりして制止させようとしたが、紺は制止を聞かない。
そうして、どんどん落としていき、やがて私の周りには誰一人いなくなった。
……そして誰もいなくなった、だ。
ピーっと合図が鳴り、佐川先生が満面な笑みを見せる。
そして、私に近づいてきた。
「よくやった、三星! だがな、お前には課題がある! 執事、全く制止出来てないからな。これから先、コントロールが出来ないと、何も出来なくなる。いいか? これは基礎中の基礎だ! 執事のコントロール、お前の宿題だ!」
「……はい」
今回、痛感した。
点数は五点入ったけど、主としては、全く果たせていないだろう。
紺を見れば、反省した様子もなく、ニコニコしている。
怒っている様子を出せば、紺は驚き、視線を忙しなく動かし、やがて。
「もう肩車しない、ごめんね」と、私にすり寄ってくる。
先が思いやらせる。
けど、執事の失態は主の失態だ。
なんとかしなければ、宿題。
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