↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春子と最強執事  作者: 白川れもん
11/20

執事あり、の授業①

 授業中、紺の機嫌が悪かった。

 こう、表現しにくいが、私にも紺の気持ちも分かるらしい。

 感情の強さに比例して、私にも伝わるのか、かなり、機嫌が悪い。

 あれかな? 山本くんのことかな。


 などと考えていると、それを読み取ったのか、更に悪くなる。


「僕より山本のことを考えるんだね」


 と、いじけているように、思える。

 仕方ない。このままでは午後の授業に影響してしまうし、私は紺の主だ。


 丸眼鏡をかけた数学教師は方程式の解き方の説明で忙しく、口を動かしている。

 こそっと、消ゴムを落とした。 

 足元に落ちた消ゴムを、屈んで拾う。


 その一瞬。影を見つめた。


「山本くんより、私は、紺、だよ」


 丸眼鏡先生の説明に混ざり、消された私の声。

 それでも、執事には、完全に届いていると、感じた。


「春子おぉぉぉ!」


 うわーん、と、私の両足を、影から生えた紺の両手が抱き締める。


「ひっ!」


 あまりにも突然の出来事に、声が漏れる。

 というか、今の紺の声は、結構な音量だった。


 咄嗟に、室内を見渡せば、私をチラチラと注目している生徒。

 丸眼鏡先生を見れば、幸い、一人気づかず、説明の最中。どんだけ集中しているんだよ。


 足など、覗かなければ、机に隠れて、わからないもの。


 何事もなかったかのように、振る舞う。


 結局、誰にも何も言われなかったが、授業が終わるまで、私が抵抗するまで、紺はずっと私の足を抱き締めていた。


 全く、面倒な執事だ。




 午後になり、やっと、紺が出てきた。

 他の生徒は召喚している。


 ここで、椿に聞くべきだった。何故、私達は体操着なの? と。着替える必要があるの? と。


 屋外の、これまた巨大なグラウンドに並んだ私達。いつだかの屋内グラウンドによく似ている広さだが、空が広々と見える。


 どこからともなく、教師らしき声が聞こえた。


「それでは、いつも通り、準備体操を始めます」


 どこからの声だろう、と見渡していると、他の生徒達が、何やら準備体操を、それぞれ始める。

 私もやるのかな? と、真似ようとした。


「あ、あのね、春子!」


 椿が近くに来てくれて、何やら説明をしようと、口を開いた時。



 ピーーーーっと、合図らしき、音。

 その瞬間だった。

 周りの生徒が、走り出した。

 どこに向かっているのかは、わからない。

 それぞれに、全速力だった。


「え、え? 何、何? 椿?」


「あ、えっと、ごめん!」


 全力で走って行ってしまった。



 私がおどおどしていると、上空から、風を切る音。

 上を見上げた、その刹那。


 目の前で、岩が粉々になっていた。

 そらはもう、砂のように、綺麗に、だが、私には、粉は当たらない。


 そして、次いで見える、たくさんの岩。

 あら、雨かな? と思うくらい、たくさんの、それも、かなりの大きさの岩が、頭上の遥か遠くから、降ってくる。


「…………え?」


 これ、やばくない? 私。命の危機じゃない? だから、皆逃げたんじゃないの? 青ざめるのがわかる。血の気が退いていく。


「大丈夫だよ、春子! 春子は僕が守る! 一瞬たりとも、春子に触れさせない!」


 次いできた、目の前の岩も、同様に粉々になる。そして、私には、当たらない。

 紺がやっているのか。そう、頭で思っていても、肝心の紺がどこにも見えない。



 否、目で追えないのだ。

 影らしきものは、さっきから見えてる。目の前を通る、影。それしか、見えないのだ。


 こわい。怖い怖い。無理!


 私はついていけず、頭を両手で覆い、しゃがんで出来るだけ小さくなった。

 地面が見えるが、見たくもない。目に最大の力を入れて、瞑る。紺がいると分かっていても、怖い。死ぬのではないか、と。



 きっと、紺は、私の頭上のみの岩を粉々にしているのだろう。 

 周りで、岩が地面にぶつかる大きい音がする。

 他の生徒が執事に命令しているような声も、微かに聞こえる。

 それは、まるで戦場みたいだった。


 こんなのが準備体操? 正気?

 ここが、私の前世と変わらない世界、と、いつか言ったな。あれは、嘘だ。こんなの、無かった。



 ピーーーー。

 どれくらい経ったのか、わからないが、開始同様の音が、聞こえた。


 恐る恐る、目を開ける。


 目の前には、変わらない紺の笑顔。


「……紺?」


「うん、僕だよ。怖かったよね、でも、もう終わったよ!」


 笑顔で、爽やかで、まるで、何事も無かったかのよう。

 服装に乱れた様子はないし、汚れもなければ、傷もない。


 あれ、夢でも見てたのかな、と、立ち上がった。



 …………夢じゃなかった。

 綺麗だった校庭は、大や小の岩だらけ。


 他の生徒は、それぞれ木やら近くの体育倉庫などから、顔を出した。


 そして、気づく。

 私の周りだけが綺麗で、そのままの校庭。


「おい、見ろよ、あれ」


「…………やば」


「流石、Sランク」


 こそこそと、私を見、話ながら近づいてくる、若干髪を染めた、初日に紺に沈められたと思わしき生徒達。

 その他の生徒も、こそこそと、恐らく話題は同じであろう会話をしながら、校庭に戻ってくる。


「春子ー! 平気だった?」


 息を切らしながら駆け寄って来てくれた椿に、涙が出そうになる。


「椿ー! 何なのよ、これ!」


 恐怖しかない、クレイジーなことが、準備体操? ちっとも笑えなかった。


「ごめんね。置いていっちゃって。でも、春子には紺さんがいるから、大丈夫だと思ったの」


「いや、大丈夫だったけど」


 紺を見れば、変わらぬ笑顔。ニコニコニコニコ。

 何だか落ち着いてくるのは、気のせいか。


 それにしても、教師は生徒を殺しにでもくるの? この学校は。


「あのね、これは避けながら、どれだけ執事を駆使して、岩を砕けるかって、やつなんだけど……」


「は? 意味わからない」


 そんな事をする必要が、ある?

 もう修行じゃん。レベルが上級だよ。


「いいや。意味ならあるぞ、三星!」


 どこから来たのか、すぐ目の前には、佐川先生。

 体力測定した時の執事先生か。


「いいか、Sランクを持つ三星春子。執事というものは、いつ如何なる時も、主を守らなければならない。そしてまた、主も自らを守らなければならない。そう、例え、岩が降ってこようともな!」


「はあ、それで、えっと、どうして砕く必要が?」


「良い質問だ! 主はいつでも常に、執事をコントロールする必要がある。そして執事は、主の為、日々、強くあるべきなのだ。それらを兼ね備えているのが、この岩投げ回避だ。同時に鍛えられる。これに越したことは他に無かろう!」


「いや、だとしても、岩じゃなくても良いですよね?」


「いいや、岩以外は考えられん!」


 なんだこの教師、テコでも動かないような雰囲気を出してきた。


「いやいや、岩じゃなくても」


「いいや、岩しかない。俺には岩しか投げれない!」


 いや、知らねえよ。

 あれ? こんな面倒くさい先生だったっけ?


「とにかく、次の授業に入るぞー!」


「…………」


 納得いかないな。

 うーん、と首を捻って考えていた。どういう質問すれば、納得するか。

 このモヤモヤを、どうしたら取れるか。


「春子、春子!」


「ん? なに紺」


 ニコニコの笑顔で、紺は言った。


「僕があの変態マッチョ、沈めようか?」


 あれ、幻聴かな? というくらい、紺の声が低かった。

 すぐに返事が出来ないくらい。


「い、いや、沈めないで……」


「そう? わかった。でも、ムカついたら、いつでも言ってね!」


 僕に任せて! と、ドヤ顔だけれど「沈めてくれ」なんて、言う機会など、後にも先にもないと思った。





読んでくださりありがとうございます。

26日更新予定だったのですが、早めに完成したので、ちょっとフライング。

でも話が長くなりそうなので、途中で切りました。

次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。