4.1
外で見た綿雲は空にふわりと浮かんでいて、わたしをなんとなく物悲しい気分にさせた。
「おはよう。今日も早いね」
リビングルームに戻ったわたしは、大あくびをしながら部屋を出てきた朽木さんと鉢合わせになった。
「今日もポスト探しをしてたのかな?」
「おはようございます。今日は深呼吸をしてきただけですよ」
笑顔を交わしてすぐに、朽木さんは洗面所に入っていった。
わたしは椅子に腰を下ろして窓越しに空を眺めた。
青に薄ぼんやりと馴染んだ雲ばかりの空で、さっきまであったはずの綿雲はもう見えなくなっていた。
わたしは慌てて寝袋が広げっぱなしの部屋に飛び込み、そこの窓からも空を見上げたけど、でもやっぱり見つけることはできなかった。
きっと朽木さんを騙してばかりいる報いだ。
ポストを探していたんです、だなんて。本当は、彼からのメールを確認しようと思って、朝からこっそり抜け出して電波の届く場所を探していただけなのに。
朝の光を吸いこんでふかふかに膨らんだ寝袋に腰を埋め、深いため息をついた。
朽木さんは、へんちきな女、とも思わずに信じてくれた。
本当、胸が痛い。欺きとおすために小細工まで用意して。
わたしはリュックから四つ折の紙切れを取りだして、またため息をつく。
スケッチブックの最後の一枚を破り取って、『ずっと遠くから見ていました。あなたのことが好きです。』なんて適当に殴り書きした宛名のない即興のラブレター。
――こんな一行二行程度の手紙で繋がるものなんてないのよ。
わたしはそれをくしゃっと握ってリュックに突っこんだ。
雲の隙間から出てきた太陽は部屋に向けて一直線に光を放ち、わたしと、部屋の隅に集められたおかしな木工細工を優しく照らした。




