第九話「信長と空軍」
一
南の篠山の城が落ちた、という話が風に乗って流れてきた。一日で落ちた。空から鉄の鳥が来て、轟音と共に火を吐き、城壁が一瞬で消えた。生き残った者が三人いて、三人全員が同じことを言った。
ニャえもんはその話を、山道を歩く旅人の声の断片から拾った。大きな翼、細長い胴体——轟音を伴わない接近だった。速く、高く、地上からほぼ見えない鉄の鳥だと、ニャえもんには判断できた。信長が、本格的に動き始めた。
二
その夜、ニャえもんはバンブーコプターで飛んだ。高度を上げた。南の方角まで見通した。遠見の鏡を組み合わせれば、さらに遠くが見えた。
信長の本陣が動いていた。大渡城から北へ向かっていた。
鉄の鳥が、空にいた。速度の速い一機が高高度を飛んでいた。別の高度に、もう一機。爆弾を抱えているように見えた。最も低く、ゆっくりと飛ぶ一機もあった。三機の中で唯一、速度が遅かった。
ニャえもんは空中で道具を確かめた。自縛の縄——速い鉄の鳥には届かない。地上の兵には使える。金属を引き寄せる磁石——速度の遅い鉄の鳥なら、近づければ使える可能性がある。
ニャえもんは高度を下げた。誰にも報告しなかった。する必要がなかった。
三
それから十日間、ニャえもんは毎日飛んだ。朝、城壁の外の丘から上昇する。南の方角を偵察する。信長の軍の位置を確認する。降りる。夜、先遣隊や斥候に道具を使う。また飛ぶ。繰り返した。
信長の軍は着実に北上していた。
最も速度の遅い鉄の鳥が低空偵察に来た夜があった。ニャえもんはバンブーコプターで迎えた。その鳥の速度は遅かった。距離を詰めた。胸の収納庫から磁石を取り出した。力を込めた。
鉄の鳥の機体が、わずかに揺れた。操縦している者が体勢を崩した。機体が傾いた。慌てて高度を上げ、南へ離脱した。
四
十日目の夜。信長の軍が、玄斎の城から一里の場所に陣を張った。明日、来る。
ニャえもんは城壁の外で空を見ていた。道具の残りを確認した。煙幕の球体がある。縄がある。磁石がある。まだ試していない道具もある——金属製のカプセル。何をするものかわからない。重みだけが、他とは違った。
武の歌が聞こえていた。城の中から、夜風に乗って。明日のために、今夜も歌っているのだ。
ニャえもんは空を見た。星が出ていた。
野火 太一の顔が出てきた。今度は、逸らさなかった。
(済まなかった)
それだけを思った。武の歌が、夜の空に溶けていった。
第九話「信長と空軍」 了
信長と空軍について。現代人が「戦国時代にF-22ラプター、F-15EXイーグル・ツー、AH-64アパッチ、SR-71ブラックバード」と聞けば荒唐無稽に思うかもしれないが、当時の人間にとっては「鉄の鳥が火を吐く」以上の説明ができなかった。説明できないものは、伝説になる。なお「鉄の鳥」の種類が四種類あることに気づいた者は当時一人もいなかった。当時の人間に機種判別は無理である。




