表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/29

26 信じる

 イネスは医者を手配し、ノイリーを先頭に、以前も通ったことのある長い廊下を、俺は皇女を抱えて急いで歩いた。

 子供は体温が高いと言うが、皇女の身体は熱く、熱を持っている様だった。


「おい、ばーさま。大丈夫か?お前、熱があるだろう?」

「これぐらい何ともない。」


 荒い息の中からも、気丈な言葉が返ってくる。


「無理するなよ。しんどい時はしんどいと、ちゃんと言えよ。」

「…。」


 ばーさまは何も言わずにす黙ったままだったが、そのうち、俺の首に巻き付いていた両腕をさらにギュッとしてしっかりと抱きつき、首元に顔をうずめた。

 そして誰にも聞こえないような小さな声で、「耳を貸せ、声や態度に絶対に出すな。」と囁いた。


「ひびき。いいな。ここではわし以外の誰も信用するな。『娑婆(しゃば)』の知識は、ボロボロ出すな。小出しにしろ。それがお前の身を守る。」


『娑婆』? ああ、あちらの世界の話か。どういうことだ?


「詳しくは話せん。今はそれだけ覚えておけ。解かったら、一回だけ頷け。」


 よくわからんが、いつもと違う真剣な話し方だ。

 俺は黙ったまま、小さく一度頷いた。



 皇女をベッドに寝かせると、すぐにダリガが入ってきた。


 ダリガが額に手をあて、何か唱え始めると彼の手から緑色の光が輝きだし、その光が皇女を包んで少しすると、荒かった息が整ってきた。

 すごい。これ、きっと回復魔法なんだ。


「よかった。今回は、術が効きますね。でもまだ、体力が回復していないし、お疲れが取れていないのでしょう。」

「そうだな。()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。その疲れだなよな? ダリガ。」

 

 ヴァーヴェリナ皇女は体調不良の原因を、確認するかのように聞いた。



「…。ええ、そうです。やはり、お子様の身体には、2週間の出張は、激務でしたかね?」


「お子様いうな。」


「言い返せるぐらいになれば、ひとまずは大丈夫です。今は熱を下げただけですから、後で医師に診察してもらいましょう。」


ダリガは、ほっとした顔をして皇女に布団をかけた。




「ノイリー。全員集めろ。話がある。」


 呼吸が少し落ち着いた皇女は、明日にしましょうと言うダリガの言葉を退け、先ほどのメンバーを全員集めるよう、ノイリーに言った。

 ノイリーはため息をつきながら、少しだけですよ、と念押しし、イネス、スピタリスを呼びにやった。


 何だろう。こんなに体調が悪くても、全員を集めて話さなければならない事って。

 大事な話なら、俺、失礼します。と、退出しようとしたが、お前の話が途中だっただろ? お前の話をするだから、居なければ意味はない。とあっけなく却下された。



「ひびきの事だが、お前たちの言う事を、一部認めよう。」


 皇女は枕を幾つかベッドに立てかけ、もたれかかる形で上半身を起こして、全員が集まるのを待ち、口を開いた。


「では、『チの神界』の話を、ひびきさんから伺っても良いですね?」

イネスが口を開いた。


「…。ああ。ひびきは若く、男だから、わしの前世の記憶と違った視点で『娑婆(しゃば)』を見ているはずだから、お前たちが得たい情報が幾らかあるだろう。

 ただし、今から話すことは、わしもだが、お前達にも誓いを立ててもらう。それが出来ないなら、話は無しだ。


 始めに、ひびきの命を守る事。そして、ひびきの話したくない話を無理に話させない事。

 次に、国民のためだけに使うことを誓い、決して私利私欲に使わないこと。

 3つ目。ひびきから聞き出した話は遠い異国の話とし、異世界があることを周りに悟られ様にすること。

 最後に。聞き出したことはすべてわしに報告し、実用化するか否かの決定権は、すべてわしに属する事。」


 「誓い…ですか。やぶさかではないですが…。」


 そうつぶやくと、話を聞いた全員が、黙ったまま何かを考えていたが、次第に口を開き、議論を始めた。


「条件の2つ目までは問題ないかと思いますが、異世界があることを悟られない様にするのは可能でしょうか? 地図を知るものなら、ひびきさんの出身地が、地図上のどの世界にも当てはまらないのは、簡単にわかりますよ。」


「いや、『私利私欲』というのも、どうでしょう。そんなつもりはなくとも、新しい産業を起こせばどうしても個人を富ませることがある。『国のため』か、『私の利益のため』の判断はどうつけるのか、この文言だけでは難しい。」


「それに最後の条件は、いかがなものでしょうか? 聞いた全てを一字一句を報告できるものではありませんし、皇女様が必ずしも『国のため』に実用化の可否をやっていると、判断さできるでしょうか?」


「外敵や、危険からひびき君の命を守ることは、誓いを立てずとも当たり前の事だ。だが、病気や本当の不慮の事故で亡くなる事まで、守り切る事はできない。」


「そうですね。条件が細かすぎます。今、簡単に誓えるものではありません。」


「それよりですね…」



 側近たちの反応は、思わぬものだった。


 ばーさまが出した条件は、最後の条件以外は、至極普通の物だと感じる。

 それに、最後の条件も独裁的に聞こえるが、この国は皇国で、トップが決めたことは絶対なのだとしたら、普通の事なのかもしれない。


 それに対して、言葉尻を捕らえては、口々に反論するとはどういうことだ? 

 この人たちは、ばーさまに従っているふりをしながら、実は従っていないのか?


 彼らのやり取りを診ながら俺は、ばーさまがさっき言った『ここではわし以外の誰も信用するな。』の言葉を思い出した。



 

 彼らはしばらく話し合った後、エデナやアナを含めた俺の召喚を知る全員が、すでに国と皇女に誓いを立てているので、新たな誓いは必要ない。だが、皇女の意向は厳に受け止める。との結論に達し、ばーさまも納得した。


  だが、俺は納得できなかった。皇女に臣従しているという割には、誓いを立てらないなんて、臣下としてどうなんだろう。


「あの、横からすみません。なぜ誓いを立ててあげないのですか?」


 彼らは、逆に不思議そうに俺を見ていたが、イネスがああ、そうかとつぶやいて、話し出した。


「ひびきさんは、私たちが話している『誓い』を、昼間の拝謁時に行った誓いと思われていますね?」


「ええ。」


 - ? 違うのか?


「今私たちが話している『誓い』とは、魔術を使用した拘束力のあるもので、別の言い方をすると『契約』と言われる物です。

 『誓い』『契約』は、魔術によって誓いを立てた者・契約した者を縛ります。それに反すると、その者には『誓い』『契約』で定めた『呪』が発動されるのですよ。」


「そもそも我々は、すでに皇国とヴァーヴェリナ様に『誓い』を立てている。いや、立てなくても、皇女様を煩わせるようなことはしないさ。」

 と、スピタリス。


「煩わされているのは、私達ですよね。」

 と、ノイリー。


「ひびきさん。明日、魔法省に来てくだされば、もっと詳しく説明できますよ。」

 と、ダリガが付け加え、スピタリスに、抜け駆けは許さんと言われていた。


 そうか。ばーさまは、皆を魔術で縛る話をしていたのか。

 皆、笑いながら話すが、少し寂しそうに見えるのは、俺の思い過ごしか。


 ばーさまは彼らを信じていないのか? いや、彼らの先ほどの議論。そこまでする必要があるのか?

 

 考えると色々分からなくなってくる。


 まあ、今は、考えるのをやめよう。今はまだ、言葉尻だけを捕らえた推測しかできない。


 ただ、一つはっきりしているのは、ばーさまは、臣下を縛っても、俺を守ろうとしてくれた。これだけは、間違いない。





「あまり無理をするなよ。体調が悪いんだから、俺の話なんて、いつでもよかったのに。」

 話が終わり、再び回復魔術をかけ始めたダリガの横から、ばーさまに言葉をかけた。


「ペットを飼い始めたら、ちゃんと世話をするのが飼い主の役割だからな。寂しい思いをさせてすまなかったな。色々話したいこともあっただろうに。」


 皇女は首だけこちらに向けて話す。いやいや、ペットじゃないし、と、俺が突っ込むと、力なく笑った。息は整っているが、本調子ではないようだ。


「ばーさま。今日は、もう休みなよ。身体が治ってからでも、話はできるからさ。」


「いや、ひびき。お前はペットだから、わしが世話をする。約束だ。明日も来い。仕事が終わったら、使いをやるから、必ず来い。約束だ。」


 きりっとした真顔で俺を見つめる。

 そんなりりしい表情でペットと言われてもだな…。


「だから、ペットじゃないって。それに、今そんな状態で仕事なんてできるわけないじゃん。

 ゆっくり休みなよ。2週間も出張だったんだろ? 疲れたんだよ。」


「わしがいないと、仕事が回らん。周りの者には任せておけん。」


 …、ワンマン経営者か。


「ひびき。必ず来い。約束だ。」

「分かったよ。顔を出すよ。」

「約束だぞ。」


 まるで子供が遊ぶ約束をしている様だ。でも、目が何か訴えている。それに、やけに『約束』、『約束』を連呼する。


 …。 『約束』って、ひょっとして、さっき囁いた話の、念押しをしているのかな。

 信用できないのかは、まだ判断できないが、ばーさまの言いたいことは、十分わかった。



「大丈夫。俺はばーさまとの約束は、絶対守っていたでしょ? 昔から。」

 俺は手を握り、親指だけ立てて見せた。


『サムズアップ』このジェスチャーは、good! いいね! という意味だ。


 俺が子供の頃に、ばあちゃんに教えたジェスチャーで、ばあちゃんは『いいね』という意味意外に、OKと言う意味で、『グー』と言いながら、この仕草をよくしていた。


  ― ばーさま、分かるかな?


 それを見た皇女は一瞬考えていたが、満足げに笑みを浮かべ、『グー』と言いながら、親指を立てて、俺に見せた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ