27 類とも
投稿が一日遅れました。
抱いていたのとは全く違う召喚理由に打ちのめされた後、俺はますますこの世界を知るために安全に冒険に出たくなった。
なので、近衛訓練へは以前より真剣に参加し、基礎訓練前の訓練が何とかこなせるようになった。
次の段階として、剣術・槍術を習い始めた。
剣術は日本の剣とは違い、『切る』と言うより、鎧ごと『突く』『ぶった切る』と言う感じに近い。確かに重騎兵が着るような鎧鎧なら、日本刀みたいな刀で切っても刃こぼれするか、折れてしまうだけだろう。
ぶった切るためには剣自身、ある程度の重さがあったほう威力も増す。
簡単に言うと、重い。
非常に重い鉄の塊なんて、現代人の俺には簡単に振り回せるものではなく、悪戦苦闘を強いられていた。
また、魔法の理論を学んだ方が良いとのダリガからの提案により、時々魔法省から講師を招いて魔法理論を習った。
この世界の魔法は、厳密に言うと理論を構築する魔『法』それを実際に行使する魔『術』と呼び分けられている。
簡単に言うと、『魔法』は料理のレシピを作る事であり、『魔術』というのは、そのレシピを参考に料理を作ることだ。
ただ、料理との違いは、ちゃんとした『魔術』として通用するには、『レシピどおり寸分たがわず、材料を調合する。』ことが必要で、ほんのわずかな調合の違いでも、『魔術』は発動しない。
注ぐ魔力の量、詠唱の一言一句、発音に至るまでである。
短い呪文を覚えることが出来ても、発音は口伝でのみ伝えられるため、細かな抑揚は簡単には覚えられない。俺の場合は、魔力ないから覚えても使えないけどね。
だから、魔術師は、発音や言葉遣いにうるさいものが多いと聞いた。
それを聞いた時俺は、ばーさんが俺に何度も名前を呼び直させたのは、魔術師として、気になったからかと思った。
「いや、違うぞ。お前の発音が、単に耳障りだったからだ。」
俺は、執務室でばーさまにお茶を出しながら、そのことを聞いてみた。
下僕宣言を受けてから、昼過ぎになるとばーさまに呼び出され、執務室に行くことが日課となっていた。
とはいっても、執務を手伝えるはずもなく、ほとんどすることが無いので、邪魔にならない様に隅にある机で魔法理論を読んでいて、ばーさまが休憩をする際にお茶を入れることぐらいしか、やることがなかった。
「お前、そろそろわしの名前、ちゃんと呼べよ。」
- はい。思い違い確定! 魔術師としてではなく、単に口うるさいロリババアでしたー!
部屋の中にいた、イネスがこちらを見る。いやいや。イネスが悪い訳では無いよ。このばーさまがすべて悪いんだ。側近は苦労するな。
「イネスさんも休憩されてはいかがですか?」
俺はイネスの苦労を慮って、お茶をいれて休憩するように勧めた。
「そういえばお前、名前と言えば私の事を『ばーさま』と呼んでいるな?」
ばーさまは、クッキーを半分に割って食べながら、ふいにそう言い出した。
「え? 何の事?」
- あ、ヤバイ。ばれていたんか。
「分かるわ。こんな若いわしををバーさん呼ばわりしてどういうつもりだ?」
「いや、だってばーさまなんだろう?」
ー その口調は、婆さんてか、爺さんだけどね。
「そうだけど、違う。」
「?」
「私はあくまでお前のバーさん道子の記憶があるだけの転生者で、人格はヴァーヴェリナだ。」
「えっと?」
ー どゆこと?
「つまりだな、私には道子の記憶が浮んで見えるだけだ。娑婆にあるテレビを、道子目線で見ているようなものだ。道子がその時思ったことも、多少わかるものもある。
だが、それは強く心に刻まれたことだけであって、かいつまんだ部分的な物だけだ。つまり、道子の意識・人格そのものが転生したわけではない。今の私は道子として動いている訳では無く、ヴァーヴェリナという個の人格を持つ全くの別人だ。」
ばあちゃんの人格ではない…。
うすうす感じてはいたが…。
「…そっか。そうだよな。あまりにもばあちゃんと性格違うし、前に話を聞いた時、なんか伝え聞いたみたいだったから、ちょっと違和感があったんだ。」
『転生して、ばあちゃんが新しい肉体を手に入れた』と考えるより、ばあちゃんの記憶がある別人、もしくは、おれやばあちゃんをよく知る親戚の人、と考える方がわかりやすいのか。
そっか。ばあちゃんだけど、ばあちゃんでは、ないんだ。
ばあちゃんは、もう、いないんだ…。
「ま、そういう訳だから、これからはちゃんと、ヴァーヴェリナ様と呼ぶようにな。『様』は忘れず敬意をこめて、ひれ伏せ。」
俺のそんな気持ちを察してか、ばーさまは、おちょくるように話し始めた。
単なる口の悪い我儘なロリババアかと思ったが、意外と気遣いができるのか。
「いや、名前長すぎだから、ヴァ―様でいいことにして。」
「舌足らずめ。そんな不敬な奴には、ちゃんと名前を呼べなければ、不幸が降りかかる様『呪』をかけてやる。」
ばー様はすっと俺に手を伸ばし、何かつぶやいた。
「なにそれ。怖っつ! やめろ!」
イネスが無駄な術の行使はおやめくださいと言ったが、ばーさまはもうかけちゃったもんねーと言って、顎を上げて見下すいつもの表情をした。
俺はイネスに何とかしてくれるように頼んだが、この魔術は、ばーさまが独自に研究して作った魔法なので、解除方法がイネスにも分からないと言う。解除するよう俺が頼んでも、イネスが進言しても、ひびきのために、何日もかけて作った『魔法』なんだからと、一向に聞き入れてくれない。
「皇女様。一体、どんな『呪』をかけたのですか?」
「知りたいか? ひびき。私を『ヴァ―様』呼んでみろ。ちゃんと効くか見てみたい。」
皇女は、俺の方を見ながら、ニタニタと嫌な笑みを浮かべている。
「やだよ。怖いじゃん。」
「いいから。魔術見るの好きなんだろう? 怪我をしたり、命にかかわるものではない。さあ。」
「…そうですね。ひびき君。ここでどんな『呪』か、確認しておいた方がよいかも知れません。」
ここでなら私がいますから。とイネスはため息をつきながらワンドを取り出して、俺に向かって構えた。バリアでも張ってくれるんだろう。
俺は仕方なく『ばーさま』とつぶやいてみた。
ガン!
「痛っつ!」
俺が名前を呼んだ途端、上から大きな金属製のたらいが降ってきて、頭を直撃した後、床に落ちて、クワンクワンと音を立てて回りながら、止まった。
俺は頭を両手で抑え、イネスはワンドを構えたまま呆然とし、ばーさまとは俺を指さして大爆笑し、大成功だと喜んだ。
ー 何だよこれ…。
「はあっ? たらい? んなもん、どこから降ってきたんだよ!」
「おお!大成功だ。お前が好きだったテレビ番組を再現したのだ! 苦労したのだ!
空気中から金属製たらいを錬成し、当たっても怪我せず、良い音が出るようにするまでに極限まで薄くする『法』の構築は、至難の業だったんだ!」
「ほう。これはすごい術ですね。これはかなり軽い。」
イネスはたらいを持ち上げてまじまじと眺めていた。
「いや、イネス。なんで止めてくれなかったの?」
さっき『ここには私がいる』と言ってワンドを構えたのに…。
「いや、怪我をさせないと皇女様は言っていらっしゃいましたし、わたしもどんな魔術か、見てみたかったものですから。」
- はあっ!?
「じゃあ、そのワンドは何?」
「ああ。これ。私の方に何か飛んで来たら危ないと思って防御していたんです。
それにしても皇女様、すごいですね。これは軽いし、色々な用途に使えますよ。量産してくださいよ。」
イネスはまだ、たらいをまじまじと眺めている。
「幾らでもできるぞ。ひびきに頼め。」
「ひびき…」
「お前ら、いい加減にしろ!」
俺が怒ると、二人は『何を怒ってるの?』とつぶやき、全く悪びれない。
「ひびき。角が当たれば少しは痛いでしょうが、平面が当たるなら、大丈夫でしょう?
出してもらったものを見本にして、職人に生産させるので、もっと変な発音で、皇女様のお名前を呼んでくださいよ。」
とまで、真顔で言う。
「…さっき皇女が俺の発音が変と馬鹿にした時、こちら見てたのは?」
「ああ、あれはね皇女様の言うとおり、ひびきは発音が悪いなーと思って、つい見てしまったんですよ。ははっ。」
うん。曇りのない、いい笑顔。 俺の事、全く慮っていない!
「頭痛い…。」
「重かったか? もう少し軽く錬成できるよう、法を組みなおすか…。」
「ヴァーヴェリナ様。ぜひ。もう少し小型だと、日常使いに良いかも。」
…。
前言撤回。我儘ロリババアに、サイコパス書記官。
大丈夫かこの国は…




