1話~それは現実に起こったことでした~
体内時計が朝だと告げている。挨拶が遅れましたね。僕は、風見 優希。
昨日、悪夢のような出来事があったのだ。僕が女の子になってしまうという悪夢を。
それが夢だと信じて僕は、起きて身体を確かめる。――すぐに分かることがあった。これは現実だと。
「嘘だあああああ!」と可愛らしい声が家中に木霊する。
「僕は。僕は男だあああ!」
「おはよう、優希。学校は終わらせたから安心していいわよ」
「戸籍の方もどうにかなったからな」
「……早いね。でもどうやってしたの?」
と聞くと母さん達は気まずそうな顔をして誤魔化した。
「なんでもないのよ」
「ああ」
そして、母さん達は僕の部屋から逃げるように出ていった。
僕はあるところを見る。――そこには、なんと女物の服と下着があった。
「な…なんでええ!? 母さんっ!」と僕は大きな声を出して母さんを呼ぶ。来たらすぐ言うつもりだ。これは何だ、と。
「どうしたの?」僕は"ソレ"を指さす。
「ああ。下着と服ね。着け方が分からないのね」と母さんは一人納得すると、僕に近づいて服を脱がした。
「これはね。こう、つけるのよ」とか「――ように穿くの」と母さんが言っているが僕には聞こえていなかった。
僕は両手をグーで握って身体をプルプルと震わせて、遂に爆発する。
「僕は。――俺は男だあああ!」
母さんはハッとした顔になり、両手で顔を覆って、すんっ、すんっと泣いてしまった。
「ごめんなさいね。母さんが…すん…悪いのよ」
「母さん!? ごめん、僕が悪かったから! 泣かないで? ねっ?」
「そう? 優希、かわいいっ!」と言って僕に抱きつく。――って、嘘泣きだったんだ……。
「僕、出掛けてくるから」と言って僕は母さんを離そうとするが、力を入れているのか逃れることが出来ない。
「ダメよ。優希は、遥と一緒にお買いものについてこないといけません!」風見 遥それが母さんの名前だ。
時々、母さんは一人称に自分の名前を使う事があるのだ。
「……分かったから。ついて行くから離して」
はあ、買い物かあ。まあ、いいか。欲しいモノもあるし。
――今日の予定は『買い物』に決まったのだった。
そう、これが優希にとって本当の悪夢の始まりだったのかもしれない。




