その8 花屋さんで
女の子が花を選んでいるあいだ、
ぼくは店の床に映る自分を見ていた。
花屋さんの店内は、ちょっとした遊園地だ。
天井から吊るされたスポットライトのせいで、
ぼくの姿はあっちへ伸びたり、こっちへ縮んだりする。
「ぼくって、こんなに長かったっけ?」
「あれ? ふたつに見える?」
新しい能力に目覚めた?
そんなバカなことを考えてひとりではしゃいでいると、
女の子の足元から、ふっとためらいが伝わってきた。
バケツに生けられたたくさんの花たち。
赤、黄色、ピンク、紫。色とりどり。
女の子の視線が、あっちこっち行ったり来たりしている。
影もいっしょに揺れる。
店の床の上で、いろんな影が重なり合って、
まるで黒いレース模様みたいに。
女の子は、じっとひとつの花を見つめている。
自分のためじゃない。
誰かに渡すための、特別なものを探している顔だった。
誰にあげるんだろう。
女の子が、そっと手を伸ばす。
「ガーベラ!」
まるで小さな太陽みたいな花だった。
女の子がガーベラを持ち上げると、
その足元に、まあるい花の影がポンと咲いた。
女の子の影の手に、ちゃんとガーベラの影が重なっている。
ぼくは、その花の影が落ちてしまわないように、
そっと自分の影の胸のあたりで抱きしめた。
「一輪だけ? ……まあ、いいんじゃないかな。」
その一輪には、ぎゅっと思いが詰まっていることに、
ぼくは気づいたから。
ぼくたちはガーベラとその影を大事に抱えたまま、
お花屋さんをあとにした。




