その 9 病院の玄関
病院の玄関が、だんだん近づいてくる。
白い光が、だんだん強くなる。
女の子は、前だけを見て歩いている。
その足もとで、ぼくも一緒に歩いていた。
けれど――
ぼくは、ふと気づいた。
「……あれ?」
足もとが、少し薄くなっている。
一歩。
もう一歩。
ぼくは、どんどん薄くなっていく。
「おいおい……。」
女の子は気づかない。
ぼくは少し、あわてた。
「まだ、終わってないぞ。」
けれど、白い光はますます強くなる。
とうとうぼくは、女の子の足もとから消えてしまった。
女の子は、そのまま玄関へ入っていく。
影は、もうどこにもいない。
――はずだった。
病院の外で、影が待っていた。
お別れした影とは違う、もうひとつの影。
新しく生まれた「誰か」の影。
女の子が病院の玄関から出てくる。
その瞬間――
その影が、一瞬だけ女の子と重なった。
そして、
女の子より少しだけ背の高い影が、
そっと女の子に寄り添うように、
あとをついていく。
影は、そっと呟いた。
「ねえ、少し大きくなった?」
女の子は、振り向かない。
影は、少しだけ笑った。
「ぼくも、大きく生まれ変わったんだよ。」
女の子は、ただ前を向いて歩いている。
その隣を、
少しだけ背の高い影が、
そっとついていく。
夕日は、いつもよりきれいで、少しだけ潤んでいた。
おしまい。
ラスト挿絵
夕日が低く、街の端をゆっくり染めている。
オレンジ色の光が地面を長く撫で、影たちが静かに伸びていく。
四つの影が並んでいる。
じいじ、ばあば、パパ、そして女の子の影が浮かぶ。
女の子の影は、他より濃くてちょっと長い。
次の挿絵
女の子が眠る枕もと。
その少し離れたところに、小さくて丸い石が、ひっそりとたたずんでいた。
まるで、
「大きくなっても、
ちいさな君を忘れないでね」
と、そっと言っているように。




