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第七話: 日常へ

私たちは偶然通った沿岸監視船に救助された。

フェリーから落下した場所から数十キロ離れた小島に漂着していたので捜索隊は全く別の海域を探していて発見が遅れたのだという。

救助されてすぐに病院に搬送されたが、私も渚も驚くほど健康そのもので医師たちは驚いていた。


奇跡の生還劇として取り上げられてもおかしくなかったが、ネットニュースに小さく取り上げられたくらいだった。(なぎさ)の実家が相当な名家らしく、上からの圧力で報道制限がしかれたようだ。


そして私は数日後に会社へ戻った。

上司に事情を話すが、困惑したような呆れた顔をされたくらいだった。

有給休暇の範囲内だったためそれ以上言及はなかった。

日常に戻るとあの島での出来事がまるで虚構の話だったように思えてくる。


仕事から帰り、一人きりのアパートに戻る。

蛇口をひねればお湯が出て、お風呂に入れる。普通に食べれるものもたくさんある。

暖かく柔らかい布団に包まれていると、あの島の生活は過酷で苦しかったはずだ。

けれど今の私には圧倒的に何かが足りない。

目を閉じればパチパチと爆ぜる焚火の音と、隣にいた彼女の体温が忘れられない。

私は渚のことが忘れられなかった。


病院の病室で彼女の両親と会ったときのことを思い出す。

私は船から落ちた後の顛末を覚えている限り事細かに話した。

島での暮らしのことも話した。

二人だけの秘密にしたい部分は省略したが事細かに話した。

話し終えると両親は深々と頭を下げて感謝を口にした。

そして金輪際このことは他言無用でお願いします、と言われ、分厚い封筒が差し出された。

私はそれがよくわからないまま、差し出されるがままに受け取ってしまった。

「渚に連絡は取ることも、会うことも控えてほしい」とまで言われてしまった。

私は当然のようにそれに強く反発した。

せっかく渚と仲良くなれたのに引き離されるのは嫌だった。


しかし冷たく言い放たれる、渚の祖父が政界にも通じた権力者で体面を重んじる彼は孫娘が

島で一周間過ごしたというスキャンダルを著しく嫌悪している。

ニュースが消されたのもその隠ぺい工作の一環だった。


私はそれでも食い下がった。封筒を突き返してでも言うとおりにするつもりはなかった。

根負けしたのか、両親は他言無用を約束に時々は連絡を取ることを承諾してもらった。

そして両親のではあるが、連絡先を手に入れた。


家に戻り、封筒の中を見て驚いた。金一封という額を超えていた。

渚とどこかに遊びに行ったとに使おうと心に決めて、その封筒を貴重品袋に入れた。


また彼女に会いたい。私は渚の両親から教わった番号に連絡を取った。

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