第六話: 二人で生きていける
漂流して4日目。三日目に簡易住居ができたので今日からは食べ物を探すことにした。
私はテントの周囲を探索し、どんぐりやよもぎのような葉っぱ、タンポポなど過去に食べた記憶があるものを採取する。さらに中央が窪んだ鍋のような形の石も見つけた。
この石に水を注ぎ火にかけて野草を茹でて食べる試みだ。
木の枝を箸代わりにして、葉っぱをたべる。苦味はあるがよもぎの味がする。
どんぐりは硬い。これはダメかもしれない。たんぽぽも苦いが食べれる。
非常食のクッキーとは違うずっと生に近い味がする。端的にはまずい。
しかしエネルギーを維持するには肉や魚などのタンパク質が不可欠だ。
私は木の枝の先に尖った石を巻いて即席の槍を作ってみたが、動く魚をつくのは至難の業だ。
ここは頭をつかうことにする。
砂浜に小さい穴を掘り、そこへ続く誘導路を作る。
魚を浅瀬から誘導路に追い込むと意図通りに穴へと逃げ込む。
そしてすぐに逃げ道を砂で塞ぐ。
魚はその穴の中から逃げ出せない。
その穴の水を汲み出して私は小さいが魚を手に入れた。
ぴちぴちしていて普段の生活だと怖さを感じているかもしれないが、
野生の生活が長くなり、美味しそうな獲物にしか見えない。
「やったよー」
私が渚にそう言って手にした魚を見せると渚ははじけるような笑顔を見せる。
「すごいです、灯さん、今日はお魚が食べられますね!」
そして二人で笑い合った。渚も野生に順応しているようだ。
このまま野草や魚を確保できるなら、一ヶ月は生きていけるかもしれない。
そして五日目、六日目。助けはこなかったが、私たちの生活は着実に日常になりつつあった。
そして一週間目になった。その日はここに来てから初めての雨だった。
私たちは広げたビニール袋で貴重な雨水をため、テントの中に身を寄せる。
テントの壁が雨や風でが崩れないか心配だったが、案外丈夫に私たちを雨風から守ってくれる。
しとしと降る雨音を聞きながら、小さな焚火を囲い暖をとる。
本来なら寂しさや悲観になってもおかしくない場面だが、渚と肩を寄せ合っていると不思議なほど心が落ち着いていた。
渚が私の肩にそっと頭を預けてきた。
何か凄くいけないことをしようとしていて理性が警告したが、
温もりをもっと近くに感じたいという本能が勝った。
私は彼女の細い肩を抱き寄せ、さらに深く寄り添う。
暖まりたいという目的は、いつか別の熱い想いへと変わっていた。
現実の世界なら、私の休みは終わっていて社会人として仕事に追われていたはずだ。
けれど社会的な役割も今の私にはどうでもよかった。
ただ渚と一緒にいられるこの時間が狂おしく愛おしいし幸せだ。
渚もまぶたを閉じ幸せそうな微笑みを浮かべてじっとそばにいてくれる。
やがて雨が上がり、雲の間から夕陽が差し込む。
海岸の焚火は雨で火が消えかかっていたので、二人で火をおこしなおす。
赤い炎が爆ぜる。
けれど水平線に沈みゆく夕陽はそれ以上に鮮やかに世界を、そして渚を照らしていた。
渚はじっと私を見つめていた。
色白の頬が夕陽のせいか、それとも別の理由か林檎のように赤く染まっている。
いやここ最近ずっと外にいたから日焼けもあるのかもしれない。
「…灯さん」
渚が不意に私に抱きついてきた。
私も細いその体を強く抱きしめ返す。
見つめ合う瞳。この強い感情が何かわからないわけはない。
渚が静かに瞼を閉じた。吸い寄せられるように顔を近づける。
重なった唇から彼女の震えが伝わる。
夕陽に包まれて二人の影は一つに溶け合い、永遠のようなときが流れる。
その夜、私たちはテントに戻り、お互いに抱きしめたまま眠りについて。
空一面の星空が祝福しているようだった。この時間が永遠に続いて欲しい。
翌朝、雨のあとに不自然に煙が上がっていることを不審に思った監視船が島のそばに近づいて来た。
そして沿岸の焚き火と奥に見えるテントを見つけた。




