第四話: 私達はここにいる、HELP
次の日、水平線から昇った太陽の眩しい光で私は目を覚ました。
渚は眩しそうに眉を寄せてはいるが眠っているようだ。
焚き火はいつの間にか鎮火し、白い灰が積もっていた。
暖を取れるように再び火を灯す。
いや、焚き火から出る煙は助けを呼ぶ救助信号にもなるはず。
一日中、絶やさずに燃やし続けよう。
他にも助けを呼ぶ方法を考えないといけない。
今日はこの近くに人はいるかもしれないから海岸沿いを歩いていくこともしたい
あとは、枝を使って海岸に「HELP」と大きく文字を書いた。
「…おはようございます、灯さん」
背後で眠たげな声がした。
「おはよう、渚ちゃん、ぐっすり眠れた?」
「はい、眠れました。あの、お風呂は…ないですよね」
彼女は自分の服や髪の汚れを気にするように、困ったような顔をした。
「石鹸はあるから、顔や髪は洗うくらいならできるよ。少し待ってて。」
浄水器で淡水を用意し、石鹸と一緒に渚に手渡す。
「あっちを向いててくださいね」
と照れくさそうに渚が言った。言われるがまま海の方を向くと背後からさらりとワンピースが砂に落ちる音がした。水を浴びるささやかな音もする。
…いけないと思いつつも、好奇心に負けて私はほんの少しだけ首を傾けて振り返ってしまう。
焚き火の光と朝日に照らされた彼女の背中は陶器のように白く、細くしなやかだった。
女性の私から見てもどきりとするほど蠱惑的な光景だった。
世間を知らないお嬢様のあまりにも無防備な美しさに見惚れてしまう魅力があった。
「あれ、水がなくなっちゃいました。」
「あ、あぁ、もう一つ水が入っている袋あるからちょっと待ってね」
私は袋を渡すために彼女と至近距離で向かい合う。
下着は洗って乾かしているので履いていない状態、纏っているワンピースに体のラインが驚くほど生々しく浮き上がらせていた。
袋を渡すときにチラリと胸元の膨らみが目に入る。心臓の鼓動が強く高鳴った。
「灯さん?」
「…水は大切にね。」
高鳴る鼓動を隠すように私は後ろに振りえり、救助袋から非常食の乾燥クッキーを取り出した。
クッキーは口の中の水分を奪いは喉につっかえるが、味は悪くない。
水で流し込みながら食べる。
渚は珍しいそうに眺めた後に一口食べる。
「美味しい」と呟くと満足そうに食べている。
その健気な姿に私はホッとした。
朝食の後に渚には火の番をしてもらうことにした。
「煙で私たちに気づいてもらえるかもしれないから、ここで火の番をお願い。
炎が弱くなったらここにある枯葉や枝を入れてね。」
「はい、頑張ります!」
渚は仕事を任せられたのが嬉しいようで枯葉と木の枝を持っていつでも投入できるように火を見ている。
心なしか楽しそうだ。これなら安心。
渚に火の番を頼み、私は島内の探索に出ることにした。
海岸沿いを歩いていくが、見えるのは原生林と海だけで、道路も港も人工物は見当たらない。
諦めて元の場所に戻ると、渚は楽しそうに焚き火に手をかざしていた。
「海岸の先行ったけど何もなかった…ここは無人島なのかも…」
「じゃあ、助けが来るまでサバイバルですね。」
渚は至って真面目な顔で答える。
どこか楽しげで変に興奮しているようにも見える彼女の様子に少しだけ心配になる。
焚き火に使っている葉に興奮剤のような成分が含まれているのではないかとすら思えた。




