第十一話: 望まない来訪者
年末に渚とゆっくり過ごしていたのに、ドアの向こうには渚の両親と彼女の祖父が立っていた。
家の中に入れたくはないが、玄関で話すわけにもいかず、
両親と祖父を家に招き入れる。5人にはリビングはせまい。
さらに付き人一人は玄関まで入ってきている。逃げ場もない。
「…狭い部屋だな」
祖父が吐き捨てるように呟く。じゃあ帰れ、と言いたくもなる。
「…今日はどういった用件ですか。渚さんの様子でも見に来たんですか?」
「…ふん、渚を家に連れて帰るために決まっとるだろ」
祖父が眼配らせすると、両親が手テーブルの上にビジネスバッグを置いた。
開かれた中身は一つの札束が入っていた。
両親はそれを手に取るとテーブルに静かに置く。
「よし帰るぞ。」
祖父の冷徹な言葉の後に両親が渚の手を掴む。
「やめて!」
渚は驚き悲鳴をあげる。
「いいから来い。こんなところにいて何になる」
「こんなところとは失礼です。ここは私と渚の大切な家です。」
かっとなり言い返す。
「…ふん。一介の平社員のくせに生意気だな。私が誰か知らないわけではないだろう。」
「…」
祖父は冷笑した。私は彼について調べたことがあった。
政治家にも顔が効き、経済界を動かすこともできる旧財閥の古い家柄の当主だ。
私の会社の上層部など彼の前では足元に及ばない。
それでも私は負けるわけにはいかない。
「なぜ渚さん連れて帰ってどうするつもりですか。彼女は学校で学び自分で未来を歩もうとしているのに」
「学校なんぞ行かなくてもよい。それよりも私の血を引く渚にはすぐに結婚してもらう必要がある。
私達一族の血を絶やすわけにはいかない」
「…結婚って…」
どういうことかわからず困惑するが、渚は肩を振るわせて涙を流していた。
彼女を守らないといけない。
「望まない結婚なんて今時あってはならない。彼女はそれよりもやりたいことがある。」
「ひ弱な渚に何ができる。くだらん夢を見るな」
「彼女は何でもできる。それに今は彼女は毎日元気だ」
私は祖父とにらみ合う。一瞬即発の空気。
祖父はため息をつくと呆れた表情で玄関の付き人に目配らせする。
「連れて行け」
祖父がそういうや否や巨漢の付き人がリビングになだれこみ、渚に向かっていく。
私は迷わず渚を守るために立ち塞がった。相手は私の倍近い体格だ。
それでも私は全力で立ち向かうしかない。
だが、腕を一振りされ跳ね飛ばされた。床に叩きつけられる。
「やめて!灯さんに触らないで」
泣き叫ぶ渚を、付き人は容赦無く手を掴み、玄関の方へ引きづろうとする。
私は床を這い、付き人の足に必死にしがみついた。
けれど軽く足蹴にされて、止められない。叶わない。
突き放される視界の端で祖父が満足そうに口角を歪めるのが見えた。
両親は罪悪感を感じているように悲しそうな表情をしていた。
彼らも祖父の前には操り人形に過ぎないのだ。
ドアが閉まる音がした。
荒れた部屋の中に残されたのは札束と私一人。




