第十話: 新生活
渚の住む屋敷から離れて、私たちは私の家に到着した。
一人暮らしなら十分な1LDKだが、誰かを招いたことは一度もなかった。
そんなところに良いとこのお嬢様を招くのだから、緊張してしまう。
さらに二人で座れる場所となると、ベッドの上しかなかった。
肩を並べて腰を下ろすと、マットレスが沈み込み、彼女の肩に触れて暖かな体温が伝わってくる。
「…今更だけど本当に家を出てよかったの?」
「…あの場所は広すぎて冷たかったです。学校にも行けなかったし、大人しく部屋にいるだけでした。
外に出たかったんです。」
渚の瞳は真っすぐで後悔はないように見えた。
私は彼女を力強く抱きしめた。暖かく落ち着く。胸も熱くなる。
昨夜はあまりに熱くなりすぎて失念していたが、翌日の昼になり、私は渚の両親へ連絡を入れた。
渚は家出すると書き置きを残していたみたいだが、下手をすると誘拐犯になりかねない。
「今すぐ渚を返しなさい。これは犯罪だぞ。」
予想はしていたが、渚の父親から怒声を受けた。
隣にいる渚は不安そうな表情をしている。
この子のためにも負けるわけにはいかない。
「渚ちゃんがここを出たいというまでは、絶対に返しません。」
「それならこちらから向かえのものをよこします。」
「…失礼かもしれませんが、あなた方は渚さんをどうしたいのですか?
彼女は学校に行きたがっていますし、自由に生きていたがっています。」
「…なんだと?」
「私が彼女の手助けをします。大学にも行かせます。」
「…」
沈黙があった。
「一周間はいいでしょう。一週間後には返してもらいます。」
そして通話は切れた。
そして私と渚の生活が始まった。
朝と夜に渚の勉強に付き添う。昼間は私が仕事に出ている間に渚は予備校へ通い、一人で勉強した。
渚は体力づくりのためにウォーキングをするようになった。
掃除は少し苦手なようだったが、私が帰宅すると温かい料理してくれた。
約束の一周間が過ぎ、一か月へと日々は過ぎていった。
定期的に渚の両親とは通話で状況を話していたが、当初は実際に家まで押しかけられた。
しかし渚が以前よりも目に見えて健康的になっていた姿を目にし、段々と頻度は減っていった。
そして、季節は冬へ。今日はクリスマスイブ。ケーキを二人で囲む。
遊び心で用意した衣装に着替える。私はトナカイの恰好に。
そうなるともちろん渚にはサンタの衣装を。赤い短いスカートから伸びる足は、
遭難時の青白さはなく、日々の運動と美味しい料理のおかけで、
まだ細身ではあるがしなやかで健康的なふとましい。
「…渚さん、これ、少し恥ずかしいです…」
照れる渚の姿も相まって私は卒倒しそうなほど興奮してしまう。
そして楽しいクリスマスを過ごした。
渚の模試の成績は右肩上がりに伸びていた。このままいけば志望校は合格できる。
そして年末になった。
年越しくらいはと、二人は何もしないで穏やかに過ごしていた。
――ピンポーン。
呼び鈴の音がした。インターホンを見ると渚の両親が映っていた。
年末に渚の様子を見に来たのだろうか。
玄関に向かい、家の扉を開ける。
そこには渚の両親だけではなく、その後ろに圧倒的な威圧感を放つ老人と
付き人らしき黒服の男たちがいた。




