未来の別れ道
「リーフ、ありがとうございました。それと先ほどは失礼なことをして申し訳ありません」
感謝とともに勝負の前の謝罪をする。
気にしていることを言われたら誰だって怒るだろうしな。
「あ、いえ、私もごめんなさい。き、貴族様に失礼なことを」
冷静になって現実を認識したようだ。
子供とはいえ、あまり良い振る舞いではなかった。
「元は私が原因、リーフに罪はありません」
とはいえ俺に処罰するつもりは欠片もない。
非はこちらにあるし相手は子供だ。
安心させるようになるべく柔らかい笑顔を心がける。
「あ、ありがとうございます」
リーフほっとしている。
「リーフにはなにかお詫びをしなければなりませんね。何か欲しい物はありますか?」
「え? そ、そんな、受け取れないわ」
リーフの手をとる。
「知らないとはいえレディを傷つけたのです。このままでは侯爵家の名が廃ります」
「………れ、れでぃ」
我ながら臭い芝居だと思う。
たが彼ら三人はこれから長い付き合いになるはずだ。
遺恨は残したくない。
リーフは子供扱いされたくないようだからこれから大人の女性のように接しよう。
「どうですか、何かありませんか?」
「………あ、うぅ」
手をとったのはやり過ぎだったかな。
リーフが固まってしまった。
「シンク様、お姉ちゃんは甘いものが大好きだよー」
そこで救い手を差し伸べたのは末の妹のリズだった。
「り、リズ!」
「えー、お姉ちゃん、前に貴族が食べるような甘いお菓子食べたいって言ってたじゃん」
「そ、そうだけど………」
リーフこちらをちらっとみる。
決まりだな。
「わかりました。今度お待ちしますね」
ぱあっとリーフの顔が輝く。
「よかったねお姉ちゃん」
妹の言葉にはっと表情を改めた。
リーフと目線が合う。
「………何よ」
「いえ、喜んでくれているようで良かったと思っていたところです」
本心のつもりだったが目線が厳しくなる。
「どうせ子供っぽいとか思ってるんでしょ………」
また拗ねちゃったな。
「いいえ、大人の女性は大体甘いものが好きですからリーフが好きでもおかしくありませんよ」
拗ねる姿から最初の冷たいイメージは吹き飛んだ。
もう怒っていないと思うが今日はとことん機嫌を取ろう。
それに前の世界でも女性は甘いものが好きだったし嘘はない。
「そ、そう」
嬉しそうに髪をいじっている。
「まあでも、無理に背伸びする必要はないと思いますよ」
その言葉にリーフはちょっとムッとする。
「リーフは可愛いから将来美人になります。だから今はありのままでいいんじゃないですか?」
「………ふぇ?」
「好きな物は好きでいいじゃないですか」
微笑むと真っ赤になって俯いてしまった。
その後はリズと勝負した。
末の妹が兄妹で一番強い、という意外性もなくあっけなく俺が勝利した。
「「「ありがとうございました」」」
リンド兄妹は先に帰っていった。
正確には俺がロンクーを残らせた。
「ロンクー、あれは本当にお前の弟子か?」
「お恥ずかしながら」
本当に思っているのかこいつは。
「あれでお前の跡を継げるのか? 俺程度に負けるようじゃ心配だぞ」
「その言葉に同意するのは些か彼らに酷ですな」
こいつ何を言ってるんだ。
まだ訓練始めて一年も経たないガキだぞ。
「今回勝負の形をとったのはその為です。彼ら、特にリンドにはいい刺激になったようです」
「そうだといいけどな」
「おや、シンク様も彼らと仲良くしていたと思いましたが」
ロンクーが似合わない笑みを浮かべる。
「本気で言ってるなら医者を紹介してやるよ」
お前の頭は治らんがな。
「なるほど、今の姿が信頼の証ですか」
「………………」
むかつくが間違ってはいないから黙っている。
「シンク様に敗れたリンドは色々考えていました。伸び悩んでいましたがこれで吹っ切れるでしょう」
「そうか」
癪だがこいつが断言するのだから大丈夫なのだろう。
「今回はリンドだけでもと思っていましたがリーフも変わるかもしれません。いやシンク様もなかなか」
「リズはどうした。ああいう素直な奴は伸びるだろう」
不快な視線を感じたので話をぶった斬る。
適当な話題だったがロンクーが真剣な顔つきになる。
「あいつはあなたの求める人間ではありません。才能ではなくその性質が向きませぬ」
ロンクーが断言する。
「そうか」
俺は一言そういうのみだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日一日で大きな変化があった。
師匠に連れられスレイヤード侯爵家の三男シンク様と勝負することになったのだ。
俺たち三人は師匠の弟子になってから誰にも負けたことはなかった。
師匠以外に負けることもないと思っていた。
だから師匠に真剣勝負と言われたときも俺は相手の心配をしていたんだ。
「何と愚かだったのか」
一瞬だった。
シンク様の気迫に負け、反応すらできなかった。
その上、リーフとの戦いを見るまでは油断しなければ勝てると馬鹿な考えを持ってしまった。
「お兄ちゃん、さっきから黙ってどうしたの?」
「ん、リズ。今日のことを色々と考えていたんだよ」
師匠から聞いた言葉が今も頭から離れない。
「ああ、シンク様かー、ししょー程じゃないけど強かったよねー」
リズの感想はそれだけだった。
「でも優しそうではあったよねー。良かったねお姉ちゃん」
「な、何で私に振るの?」
そういえば今日のリーフは感情豊かだったな。
「甘いもの、楽しみだねー」
「………そうね」
リズのからかい混じりの言葉にリーフが同意した。
俺は一瞬耳を疑った。
「うそ、お姉ちゃんが素直だよ」
からかったリズもびっくりしている。
「お、大人の女性だって甘いものは好きなのよ」
「それ、シンク様の言葉………」
「き、気のせいよ」
驚いた。
あのリーフが。
シンク様の恐ろしさをまた一つ知った。
「リーフ、シンク様は貴族だけど三男だから家は継がない。チャンスはあると思うよ」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
わかりやすい。
「ねぇ、お兄ちゃんはシンク様をどう思ったの?」
「………………あの人と勝負できて本当に良かったと思ってる」
師匠の言葉がまた蘇る。
『リンド、シンク様が私と戦う時は、迷いなく俺を殺しに来るぞ』
次の訓練から俺は今までの甘えを全て捨てた。
リーフも今までとは比べものにならないくらい訓練に打ち込んでいた。
そんな中リズだけはいつもと変わらなかった。
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