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勇者なんて待てるかよ!!  作者: 星屑
第一章
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剣鬼を継ぐ者



あれから一年。

俺は6歳になった訳だが日々の生活にそう変化がある訳でもなかった。

三男という立場ではやれることも限られている。

ロンクーの地獄の訓練を受け続ける毎日だった。


だが周囲の環境は少し変化した。

訓練を始めてから過ごす時間が減ったためか母さんが拗ねてしまった。


「シンクは私よりロンクーの方がいいのね」


ほっぺを膨らませてそういう姿は可愛かったが放って置くわけにもいかない。

なんとか機嫌を直そうと乗馬の訓練を行った時に綺麗な花を摘んで母さんにプレゼントした。


「嬉しい! ありがとシンク!!」


ぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んでくれる。

思った以上の効果だったのでその後は恒例となった。



また俺とロンクーの二人だけだった訓練は人数が増えることになった。


あの約束をした次の訓練の日。

ロンクーが連れてきたのは三人、全員ロンクーの弟子ということだ。

仕事が早いと思ったが元々自分の剣を後に残すため弟子は取っていたらしい。


「シンク様、この三人と真剣勝負をして下さい」


おかしい、色々段取りが間違っている。

紹介すらしないとは頭がおかしいんじゃないか。


(ああ、ロンクーは頭がおかしいんだった)


こいつは五歳の少年をボコボコにするような奴だ。


三人のうち唯一の男である少年が前に出る。

最初は彼か。


「よろしくお願いします」


少年が礼儀正しくお辞儀をする。

こちらが貴族ということで相応の対応をしているのだろう。

若いのに大したもんだ。


「こちらこそよろしくお願いします」


ロンクーには本性をみせたが彼らについてはまだわからない。

貴族の子息としての擬態をする。


「リンド、手加減はいらない。全力でいけ」


お辞儀を返しているとそんな声が聞こえた。

彼の名はリンドか。

あとロンクー、お前がおかしいのはわかったから少し黙れ。


そもそもリンドは年上であるし、おそらく弟子になってからの期間も俺より長いはずだ。

勝てるわけがない。


「しかし、ロンクー様。それではあまりにも………」


いいぞ、もっと言え。


「手を少しでも抜いたら私が地獄を見せる」


おのれロンクー。


「………はい」


リンド少年は師匠の脅迫に屈した。


(やるしかない)


色々と文句は浮かぶがやるなら勝ちを拾いに行く。

そのために必要なのは一つだ。


「………シンク様、準備はよろしいですか?」

「ああ」


改めてリンドと対峙する。

お互いに剣を構える。

リンドの構えはロンクーのものとよく似ていた。


(弟子なら当たり前のはず、なのに………)


気持ちが乱れる。

目の前の少年を見ていると言い知れない不快感を覚えた。


(………おかしいな。余計な思念は戦いの邪魔になるはずなのに嫌な感じがない)


むしろ今感じた不快感さえも力となる気がする。


意識を集中させる。

目の前の男を殺す。

その意志を持って相手を呑み込む。

それだけだ。


「始めっ!」


開始の声と共に駆ける。

ただ一つの殺意をもって全力で斬りかかる。


「なっ」


動揺した気配を感じた。

リンドは咄嗟に受けようとする。


(遅い!)


相手の動きの弱点を突き剣を弾き飛ばす。

だがまだ止まらない。


「なっ」


剣を失ったことで終わりと思ったのかリンドが驚愕の表情を浮かべる。


「………それまで!」


ロンクーの声に剣を止める。

剣先はリンドの喉元を捉えていた。


「………うそ」

「お兄ちゃんが負けた………」


剣を鞘に納めリンドに手を伸ばす。


「ありがとうございました」

「………ああ、俺の負けです」


リンドは掴み立ち上がる。


「驚きました。シンク様は強いのですね」


リンドが純粋に讃えてくれるが返す言葉が見つからない。


「休んでいる暇はありません。次の勝負です」


ロンクーの冷たい声がこの時は助かった。



「………リーフ、よろしく」


今度の相手は二人いる少女のうち小さい方。

かなりちっちゃく同い年くらいかもしれない。

剣を持っている姿もなんか可愛らしい。


「こちらこそよろしくお願いします」

「………うん、兄さんに勝ったあなたと戦うのは楽しみだわ」


あまり表情が変わらないので少々冷たい印象を受ける。


「兄さんということはリンドは………」

「うん、私の兄さん」

「驚きました。二人は兄妹だったのですか」


そう言われれば二人の顔立ちは似ている。


「………いいえ、三人よ」

「………なんですと?」


いかん、素がでた。


「三人ということは、彼女もそうなのですか?」


もう一人の少女を見る。

リーフよりも背が高くショートカットの活発そうな少女だ。

確かに似ている。


「なるほど、兄妹揃ってロンクーの弟子ってことですか」

「うん」


これは純粋に驚いた。


「私は兄さんより弱いけど頑張るわ」


リーフが剣を構える。


「参考までに君とお姉さんとではどっちが強いのですか?」


ピクっとリーフの身体が震える。


「今、なんて?」

「え、君とお姉さんどっちが強いのかと」


リーフの様子がおかしい。


「………お姉ちゃんは私」

「は?」


衝撃の言葉を聞いた気がする。


「リズは、私の妹」

「え、嘘でしょ?」

「!!」


リーフの身体が震える。

やばい、また口が滑った。


「まずいなぁ」

「あーあ、お姉ちゃんが一番気にしてることを」


外野がざわめく。


「す、すいません。てっきりあなたの方が妹だと」

「………酷い侮辱!」


ダメだ、ドツボにはまってる。


「………許さない。師匠、始めていい?」

「ああ」


クソ、ロンクー少しは止めろ。


「っ」


ロンクーの返事を聞くや否やリーフが一気に突っ込んでくる。


「くっ」


(まずいな、受けに回った)


これではリンドの時のように勢いで押し切ることはできない。

一先ず捌きに徹する。


(ロンクーのアホみたい猛攻に比べれば!)


向こうの様子見程度の攻撃くらい受け切ってみせるさ。

いつ相手が本気を出すか恐々としていると。


「………攻めきれない!」


リーフの悔しがる声が聞こえた。


(まさか、これが本気の攻めなのか?)


今くらいなら油断さえしなければ防ぎきることができる。

誘いの可能性も考慮するが。


「………相手も防戦一方、このまま封殺するわ」


どうも本気で焦っているように見える。


(いくか)


心を決め隙を待つ。


「はあっ」


焦ったリーフが大振りする。

ギリギリで回避して喉元に剣を突きつけた。


「っ!」

「それまで!」


あっけなく終わる。


「………負けたわ」


リーフは悔しそうだった。



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