大返し
久々の投稿です。
ハルバトスの説得に成功したシンクは屋敷に帰るなりリンドらに指示を出し始めた。
しかし急な命令にも彼らは動じる様子はない。
慌ただしくも、整斉と行動している。
その光景を見て、ハルバトスはぽつりと呟いた。
「なるほど、息子は獅子を生んだか」
深夜の喧騒も30分と続かず、屋敷に人影はなくなるのだった。
空に光が昇り始めた頃、シンクらの姿は王都の外にあった。
シンクが乗るのは往路に使っていた馬車ではなく、己の愛用する軍馬である。
「シンクよ、この手際の良さ。前々から計画していたな?」
シンクの隣を同じく馬で駆けるハルバトスが話しかけてくる。
「さすがにわかりますか」
「人を動かすというのは難しいものだ。咄嗟の思いつきでできる動きではないわ」
ハルバトスも元領主。
その辺りの機微には詳しい。
「しかし、お祖父様は本当によろしかったのですか?」
「なんじゃ、わしを年寄り扱いするでないわ」
シンクにとっての誤算と言えたのはハルバトスが早駆けについてきたことだろう。
シンクは彼の為に、後から来れるように馬車を用意していたが無駄になった。
「それより、王に黙って王都を出て良いのか?」
貴族が王都を出るときは慣例というものがある。
出発の前には国王に挨拶し、堂々と正門から出発するのが慣例である。
「うっかりしていました。まだ子どもということで陛下にはご寛容いただきましょう」
「よく言いますね」
反対からリンドが近づいてくる。
「グラード候との和解は成り、お爺様の助力も取り付けた。これ以上王都に用はないと言っておられたのはどなたですか?」
会話をしながらも3人が速度を落とすことはない。
リンドの言葉にシンクは笑いながら答える。
「今の王家に追及できると思うか?」
口角を上げながらシンクは腹心の少年に返す。
不遜ともいえる物言いだが、誰も指摘はしない。
「まあ、ヘイゲルの件もあればのう」
比較的王家に近い立場であったハルバトスでも首を縦に振っている。
今回の王都における騒動はあわや王家の首を絞める所であった。
シンクの配慮で有耶無耶になったが、スレイヤードに大きな借りができた形になる。
さらにデルウッド自身にも加担した負い目があっただろう。
「お祖父様には申し訳ありませんが、それも分からず声を上げるのであれば、我らが今後、王家を顧みることはなくなるでしょう」
シンクにはヘイゲルのように積極的に王家を侵食するつもりはない。
だがスレイヤード家に害をなすなら、容赦するつもりはなかった。
「シンクよ。わしは既に時代から降りた人間。気にする必要はないわ」
ハルバトスもかつての王に忠誠を誓ってこそいれど、今の王家には思うところも多い。
でなければシンクに協力する気にはならなかっただろう。
「親しき仲であっても、蔑ろにすれば将来後悔することになりそうですから」
シンクはそう言うと静かに頭を下げた。
「………末恐ろしい孫よ」
ハルバトスは言葉とは裏腹に笑みを浮かべていた。
「ここで行動を起こすか否かが今後を左右すると言っても過言ではありません。………それに、一月もすればすぐに文句を言う気持ちなくなりましょう」
リンドもハルバトスも、シンクの言葉の先を考えた。
「そのご覚悟であれば、もはや何も言うことはありません。余計なことを言って申し訳ありませんでした」
リンドも既にただの剣客にあらず。
頼もしき副官として成長している。
「商人と偽った使者が一足早くスロードへと向かっています。我らが到着する頃には全ての準備は整っているでしょう」
シンクの考えた計画を実行段階に移したのはリンドである。
彼はシンクの護衛として従うリーフと違い、王都では別行動をしてスレイヤードまでの道程をの準備を整えたのだった。
「道中のグラード領の通行は昨日グラード候から直接許可証を頂いております。最短ルートでスロードに到達できます」
「ここからは早ければ早いほどいい。目標は5日だ」
シンクの言葉にリンドはため息を吐く。
「いくら何でもそれは無理というものです。馬が潰れてとても持ちません」
「手は打ってあるんだろ?」
「………使者を派遣するとともに道中の村々で補給の手筈を整えてはいます」
「重畳。後は俺たちがやるだけだ」
シンクが飛び出す。
「………あやつはただの無謀で終わるかを見せてもらおうかのう」
「私はあの方が何処まで行かれるのか、それを見届けたく思います」
二人は己の主人の背中を追いかけた。
その後シンク一行は約400キロの距離を僅か5日で踏破するという偉業をやってのける。
軽装とはいえ、前人未到の偉業とその驚異的な移動速度は後に人々の語り草となる。
領都スロードに到着した彼らは疲労困憊で侯爵の一行とはとても見えなかったという。
それでも脱落した者はなく、彼らの目には強い光が宿っていたという。
そしてシンクは彼の帰りを待つ将兵の前で強く強く声を上げた。
「今こそ、我がスレイヤードの膿を取り除く!」
その主君の言葉に周囲から咆哮が轟く。
天まで届くその気炎を吐き終えると立ったまま気絶していた。
その姿を見た者たちは、自らこぞって戦の準備を進め、主君の目覚めを待つのだった。




